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解析・実験データの蓄積と活用を促進する「SPDM」が製造業DXの起爆剤に製造業DX

製造業のDXを推進する上では、要求定義から設計、解析、実験、生産といった一連の工程でデータ連携が重要になる。このデータ連携の鍵を握っているのはCAEによる解析を行う解析部門や実機による試験を行う実験部門だ。電通国際情報サービスの「i-SPiDM(アイ・エスピーディーエム)」は、解析・実験部門におけるデータ活用を進める「SPDM」を実現するソリューションとなっている。

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 全ての企業にとって、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進は喫緊の課題である。もちろん、製造業も例外ではない。しかし、非製造業と比較して製造業のDX推進には課題も多い。既存システムの刷新やソフトウェアの更新には莫大なコストがかかり、現場にはネットワークにつながっていないシステムも多く、データ収集にかかる手間はIT系システムの比ではない。また、データが収集できたとしても、形式などの違いから一元管理して連携するには困難が伴う。何よりDXに対応できるデジタル人材は圧倒的に不足している。

 こうした状況において製造業がDXを推進するためには、あらゆるデータをシームレスに連携して活用することが必要だ。電通国際情報サービス(以下、ISID) 製造ソリューション事業部 エンジニアリング第2ユニット 西日本CAE技術部で部長を務める葉山佳彦氏は「要求定義から設計、解析、実験、生産といった一連の工程でデータ連携ができれば、製品開発プロセスの品質向上や開発リードタイムの短縮、効率化によるコスト削減が実現できます。ただし、現状でデータ活用するには幾つものハードルがあります。特に、設計時に必ず作成されるCADデータについては、PLM(製品ライフサイクル管理)システムによる管理は浸透してきましたが、一方で解析・実験部門におけるデータ管理・有効活用や設計部門との情報連携という観点での取り組みは進んでいません」と語る。

製造業DXの鍵を握るCAEデータの活用

 葉山氏が、設計、解析、実験の工程におけるデータ活用の鍵になると考えているのがCAEである。解析工程で行われるCAEは、製品設計の妥当性の確認や製造に向けた事前検討を行う作業を支援するものだ。しかし、その扱いは難しく一定のスキルが必要であり、多くの製造業ではCAEは専任の技術者が担当している。そして、実験工程における実機を用いた試験の回数を減らせるなどCAEへの期待が大きくなる一方で、数少ないCAE専任者に掛かる負荷が増大している現状もある。「CAEは専任者による“職人技”になっている側面があります。現在の課題を解消するには、この“職人技”が求められる作業を自動化したり、必要に応じてリソースを確保できるクラウドを導入したり、AI(人工知能)を活用して解析業務を効率化したりする必要があります」(葉山氏)。

 ただし、AI活用にはできるだけ多くの訓練用データが蓄積されていることが大前提だ。既存のPLMシステムでは、成果物となるCADデータの管理を主眼に置いているため、CAEについては最終的な結果のみを格納し、その最終結果を出すまでの試行錯誤については残してないのが実状だ。AIモデルの訓練には、成功だけでなく失敗のデータが必要不可欠とされている。PLMシステムが求める“管理のためのデータ”だけでなく、これまで重視していなかったCAEに関わる全てのデータを蓄積して活用する仕組みが求められる。そうしたデータ活用こそが、製造業DXの鍵を握る。

CAEに関わる全てのデータを蓄積して活用することでさまざまなメリットが生まれる
CAEに関わる全てのデータを蓄積して活用することでさまざまなメリットが生まれる[クリックで拡大] 提供:ISID

“職人技”によるCAEの解析作業を自動化

 ISIDはこれまでも、SPDM(Simulation Process and Data Management)の重要性を訴えてきた。SPDMとは、CAEのプロセスやデータを管理し、生産性向上を実現するためのアプローチだ。具体的には、CAE業務で生成されたデータを集約して各データを比較することで、妥当性や信頼性を担保した「情報資産」として管理、再利用するための仕組みである。葉山氏は「SPDMは必要なデータやプロセスを管理し、解析手順を標準化することで“職人”にしかできなかった作業のハードルを下げます」と説明する。それを具現化したソリューションがISIDの「CAE-ONE」だ。

 CAE-ONEは、解析業務に関連するデータ管理、ジョブ管理、リソース管理のプロセスを統合した、解析業務のWebフレームワークである。そして、ISIDは2022年2月、CAE-ONEの機能をさらに拡張した「i-SPiDM(アイ・エスピーディーエム)」をリリースした。i-SPiDMは、CAE-ONEが対象とする解析業務に加えて、実機を用いて行う実験業務のデータを蓄積して資産化するもので、成果の可視化や周辺システムとのデータ授受を行い、効率的に業務サイクルを回す「検証業務のポータル」としての役割を果たす。

 葉山氏は「i-SPiDMでは、蓄積しているCAEの解析入出力データをAIを用いて有効活用する機能と、解析と実験の業務自体を高速化、効率化する機能が新たに加わりました。“職人技”によるCAEの解析作業を自動化できるので、設計者やCAE専任者としての経験が浅い方でもクオリティーの高い解析評価ができます」と説明する。

新たに加わったコア機能「AI訓練用データ出力」

 それではここからはi-SPiDMの機能を見ていこう。i-SPiDMは、標準のコア機能として、CAE-ONEで提供していた解析業務に関連する「データ管理」「ジョブ管理」「リソース管理」の他に「AI訓練用データ出力」が新たに加わった。また、オプション機能として、「日程情報連携」「PLM/PDMシステム連携」「クラウドHPC連携」を利用できる。

「i-SPiDM」の4つのコア機能と3つのオプション機能
「i-SPiDM」の4つのコア機能と3つのオプション機能[クリックで拡大] 提供:ISID

 新たにコア機能として追加された「AI訓練用データ出力」は、蓄積した解析入出力データを任意の条件で抽出、出力し、AIモデル生成に用いる訓練用データとして活用できるようにするものだ。解析業務にかかわる全てのデータを対象としており、実行ジョブの入出力数値や画像データ・属性情報を外部に一括出力し、再学習時には同じ出力条件を流用することができる。

 ISID 製造ソリューション事業部 製造技術統括本部 製造DX開発2部4グループの浅井悠祐氏は、「AIモデルを生成させるためには、あらゆるタイプの解析データが必要です。良いデータと悪いデータだけでなく『失敗ギリギリの成功』『失敗だが可能性はある』といった、試行錯誤データも訓練用データとして活用しなければ、AIモデルの精度は上がりません」と指摘する。

 一般的なSPDMでは「解析で生成される全てのデータを蓄積して活用する」という思想はない。しかし、i-SPiDMでは、さまざまな解析入出力データの蓄積に基づくAIモデルによって、例えば設計パラメータを入力すれば、解析の簡易予測を瞬時に返すといったことも可能になる。「超高速化計算を目指すサロゲートモデルの構築や、機械学習(ML)訓練に役立てられ、データ管理基盤としても利用できます」(浅井氏)。なお、ユーザーが利用したいAIツールに合わせ、蓄積しているデータを柔軟に組み替えて出力するといったことも可能だという。

「AI訓練用データ出力」の機能概要
「AI訓練用データ出力」の機能概要[クリックで拡大] 提供:ISID

 また、i-SPiDMでは、CAEを行う解析部門と、実機による試験を行う実験部門の連携も可能になっている。これまで、実機試験の計測データを解析部門で評価する際には手作業で加工しなければならないことが解析部門と実験部門の連携における課題になっていた。i-SPiDMのコア機能を活用すれば、計測データの加工と分析の処理を一定ルールの下で自動化し、実験部門の負担を減らすとともに、解析データの比較対象としてセットで管理することで解析予測技術の成熟度を把握でき、さらなる解析精度向上につなげられる。

3つのオプション機能を用意

 蓄積しているデータを有効活用するオプション機能として追加されたのが「日程情報連携」だ。これは、製品開発を行う際、開発上流工程である企画や構想設計の段階で「どのような検討をすべきか」を洗い出し、それに応じた変化点や目標値などに対しての解析タスクを適切に設定、管理する機能である。

 「日程情報連携」では、ISIDの構想設計業務支援システム「iQUAVIS」で定義された日程タスクを、期間や担当者などの情報とともにi-SPiDMへ連携する。i-SPiDM側では連携されたタスクを基に解析を実施し、タスクの進捗および解析レポートURLを返却する。

「日程情報連携」の機能概要
「日程情報連携」の機能概要[クリックで拡大] 提供:ISID

 浅井氏は「日程情報連携では、上流で解析すべき内容はタスク化した上で、システムに取り込み、漏れなく計画的に実施すべき、という思想が根底にあります。タスク情報には、どの期間に、誰が実施するのか、という情報も盛り込まれます。また、タスクは階層構造でフォルダ管理をしているので、タスクごとの進捗率が一目瞭然です。上流工程に携わる人たちが通常利用しているシステムから、解析の進捗状況や結果を確認できるのです」と説明する。なお、日程情報連携機能はiQUAVISを前提に開発されているが、それ以外の構想設計業務支援システムとの連携についても顧客の要望に合わせて検討するとのことだ。

 一方、解析業務自体を高速化、効率化する機能として追加されたオプション機能が「PLM/PDMシステム連携」と「クラウドHPC連携」である。

 「PLM/PDMシステム連携」は設計者が作成したCADデータと、i-SPiDMに蓄積されている解析の実績(解析依頼、解析結果)を結び付けるものだ。PLM/PDMの目的は設計情報の管理であるのに対し、i-SPiDMの「PLM/PDMシステム連携」では解析情報を管理する。「どんな経緯で解析したのか」を明確にすることでトレーサビリティーを担保できるだけでなく、PLM単体では管理しきれていなかった解析情報を整理した状態で適切に管理できる。

「PLM/PDMシステム連携」の機能概要
「PLM/PDMシステム連携」の機能概要[クリックで拡大] 提供:ISID

 浅井氏は「CAE-ONEは、解析部門のみを対象としていたシステムであるのに対し、i-SPiDMでは設計部門と解析部門・実験部門の情報連携に主眼を置いています。これによって、PLM/PDMでの設計情報管理を複雑にしたりデータベースを圧迫したりすることなく、検討過程を含めた解析業務におけるさまざまなデータを蓄積し、必要に応じてその結果を参照できるようになります」と説明する。なお、連携対象となるPLM/PDMは大手ベンダーのシステムに対応していくとのことだ。

 「クラウドHPC連携」は、SaaS型のHPCクラウドサービスや、パブリッククラウド上に構築したHPC環境を活用し、潤沢なリソースを使って、高速に計算結果を得ることを目的にした機能である。自社のオンプレミス環境で稼働するHPCと併せて、計算規模やリソースの空き状況に応じて、解析タスクを柔軟に振り分けられるのが特徴だ。さらに、オンプレミス側にあるワークロードが増大した場合、そのワークロードをクラウド側に送り、クラウドの計算リソースを利用するといった「クラウド バースティング」も可能だという。

「クラウドHPC連携」の機能概要
「クラウドHPC連携」の機能概要[クリックで拡大] 提供:ISID

設計部門に先回りして提案できるポジションを目指す

 葉山氏は、「i-SPiDMは、従来の解析業務管理製品や他社のSPDMとはポジショニングが異なる」と強調する。製造業において、解析部門は設計業務の“支援の役割”と認識されることがある。また、「作業の手間や時間がかかるのであれば、解析は必ずしも必要ではない」と考えている設計者もいる。

 しかし、開発プロセスのリードタイム短縮に解析部門が果たす役割は大きい。解析時のデータは設計開発を支える「原動力」であり、妥当性や信頼性を担保した情報は「資産」となる。葉山氏は「i-SPiDMは設計を支援し、先回りして提案できるような“インテリジェンスポータル”としてのポジションを目指している」と力説する。

 i-SPiDMのもう1つのアドバンテージは、日本のユーザーに分かりやすいUIを採用し、シンプルで使いやすいことだ。約20年の歴史を持つCAE-ONEの使い勝手は高い評価を得ており、これらの国内顧客のニーズを把握した上で開発していることから「かゆいところに手が届くソリューション」(浅井氏)になっているという。

 今後、ISIDでは自動車や電機・精密機器、重工業をはじめ国内製造業を対象にi-SPiDMを幅広く訴求していく方針だ。i-SPiDMの前身となるCAE-ONEは、国内の製造設計開発拠点約60サイトに採用されており、まずはこれらCAE-ONEユーザーへの提案を進めていく。これと併せて、さらなるデータ活用機能の強化を進め、解析・実験業務の価値向上を目指していくとしている。

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提供:株式会社電通国際情報サービス
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年3月20日

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