大手自動車メーカーが加速させる工場のスマート化、「現地現物」の先にあるもの:工場ネットワーク
新型コロナは製造業の業務プロセスも大きく変化させつつある。その一つが「工場のスマート化」の加速だ。従来の工場は「現地現物」が前提として定着していたが、その様相は大きく変化しつつある。リモート化を前提とした工場の変化を追う。
コロナ禍が「現地現物」に変化を
COVID-19の拡大に伴い、テレワークやリモートワークなど「新たな働き方」が広がっている。この動きは製造業でも例外ではない。従来製造業では「現地現物」が基本としてある。これはモノづくりを担う製造業としては根本的な考え方だが、COVID-19では、こうしたことがしたくてもできない状況が生まれた。その中で業務を止めないためには、従来は「現地現物」で解決していた問題を、遠隔でも解決できるようにする必要があった。
そこで、一気に取り組みが加速したのが「工場のスマート化」だ。シスコシステムズの西村克治氏(デジタルトランスフォーメーション事業部 インダストリー事業推進部)は「今まではとにかく『現場に足を運ぶ』というのが製造業の常識でした。しかし、今はコロナ禍にあって以前のように頻繁に工場に足を運ぶことができず、また出勤者の削減に伴う業務の効率化なども課題となっています。このような状況下で、外から工場の設備にアクセスし、管理できる環境が求められるようになってきました。COVID-19の拡大を境に、マインドが大きく変わったと感じています」と語る。
こうした取り組みが加速した背景には、COVID-19の拡大以前から製造業における工場のスマート化への検討が進んでいた状況がある。先行して取り組んできた工場で成果が見え始め「生産技術へのITの採用が本格化していく」という意識が高まったところで、COVID-19の拡大に伴う労働環境の変化が追い風になったという流れだ。
スマート化にブレーキをかける工場ネットワークの問題
しかし、このように工場のスマート化への意識が高まる一方、その土台となる工場用ネットワークの整備が課題となるケースは少なくない。工場のスマート化実現のためにはネットワークを活用したデータ収集が必須だが、これらのデータを収集できるようなネットワーク基盤が存在しない工場がほとんどだからだ。特に生産ライン設備からのデータ取得については、ライン内の制御ネットワークは存在するものの、これらが外部と連携することを想定したネットワークとなっていないために、稼働情報など必要な情報を集めることが難しい状況が生まれている。
こうした「工場ネットワークの課題」に現在注力しているのがシスコシステムズだ。シスコシステムズはネットワークの専門企業として、オフィスなどを中心とした企業向けネットワークで多くの実績を抱える企業だが、ここ数年は工場向けでも多くの実績を残している。
シスコシステムズが工場ネットワークの課題解決のために提案しているのが「標準イーサネット、コントローラー間ネットワーク、センサーデータ収集用ネットワークを1台の産業用ネットワークスイッチに集約する」というアプローチだ。これにより製造現場で運用しているネットワーク全体をシンプル化し、運用管理コストの削減、障害やセキュリティに対する堅牢(けんろう)性向上、全体を可視化した一元管理などを実現できる。また、このアプローチを取り入れることでIoTの阻害要因となっているIT(情報技術)とOT(制御技術)の統合も実現できる。
西村氏は「工場のラインで使用されているネットワークはさまざまな生産アプリケーションごとに独立して稼働しており、さらにこれらが精密な同期制御をしながら稼働しています。シスコシステムズとしても工場ネットワークに取り組む中で、新たに情報を取得するために各個別ネットワーク環境からデータ取得していくことは非常に難しいと考えています。そこで、情報取得用の新たなネットワークを再定義し、IT/OT統合踏まえて多様な現場アプリケーションニーズに応えられる基盤へ移行していくことが最適だと考えています」と語っている。
実際に、ある大手自動車メーカーは自社の新開発パワートレインにおけるEV(電気自動車)用モーター生産ラインにおいて、シスコシステムズのネットワーク製品による制御でITとOTを融合。デジタル技術をフル活用し、工場のスマート化を推進している。具体的には、産業用イーサネットスイッチの「Cisco IEシリーズ」をベースに、生産系と情報系を連携させた統合ネットワークを構築した。
これによりEVモーターの生産工場における設備の稼働状態や、生産情報などを遠隔で見られるようにしている。また、ライン立ち上げに際しても、COVID-19の拡大の影響により海外の設備サプライヤーとの出張ベースでのやりとりが難しくなったが、ネットワークとリモートコミュニケーションツールの活用により、人の往来がほぼない状態で完結することができ、これも思わぬ収穫になったという。
現在この工場ではリモートコミュニケーションにより、コロナ禍でも生産準備を継続しているといい、実現したネットワークデザインを標準化して「マザー工場化」し、グローバルにも展開する予定だという。これらの取り組みと同様に工場のスマート化に向けた問い合わせは「COVID-19以降、急増している」と西村氏は語る。
「一気通貫」でサポートを提供するシスコシステムズ
ただ、多くの工場現場にとって「工場のネットワークをそもそもどう考えてよいのか分からない」というのも現実ではないだろうか。シスコシステムズでは工場をネットワーク化するための製造業向けネットワークアーキテクチャとして、ロックウェル・オートメーションと共同開発した「CPwE(Converged Plantwide Ethernet)」を提案している。これに合わせスイッチ、ルーター、ワイヤレスアクセスポイントなど、さまざまな産業用IoTネットワーク製品を提供することで、一気通貫で、シンプルな工場ネットワークの構築を実現する。
「以前ITの分野で求められた配線集約や、QoS(ネットワーク上のサービス品質)の実装などのニーズがついにOTの分野にも来ていると感じます。シスコシステムズがこれまでIT分野で30年以上にわたって蓄えた知見を生かせる時が来たといえます」と、シスコシステムズの中川貴博氏(IoT事業部 IoT製品営業担当)は語る。
シスコシステムズのメイン製品である産業用ネットワークスイッチには、主に3つの特長がある。1つ目は産業用プロトコルに対応している点だ。工場内のOTネットワーク領域では、導入されている機器や装置、設備、製造ラインなどに応じて、さまざまな産業用ネットワークプロトコルが用いられている。工場内IoTを実現しようと考えると、これらの異なる産業用ネットワークを通じてデータを収集する必要があるため、シスコシステムズの産業用スイッチは、Ethernet/IP(CIP)やPROFINET、Modbus、CC-Link IEといった主要な産業用プロトコルに対応している。産業用通信プロトコルを認識して優先制御するため、ITネットワークと相互接続させても制御通信に影響を与えることはない。
2つ目は、L2アドレス変換が可能な点だ。先述の通り、工場内のネットワークでは複数の産業用ネットワークが乱立しているため、それぞれのネットワーク内に同一のIPアドレスが割り振られている場合も多い。そのため、そのまま接続してもIPアドレスの重複により通信ができない状況となる。これを防ぐために従来はIPアドレスを振り直す作業が必要だったが、L2NAT(Layer 2 Network Address Translation)機能を持つ産業用スイッチを使うことで、IPアドレスの振り直しをせずとも相互接続が可能となる。
3つ目の利点が、高いセキュリティレベルを確保していることだ。産業用ネットワークスイッチは、大きく「マネージドスイッチ」と「アンマネージドスイッチ」に分けられる。前者はポートの無効化やケーブル抜脱検知、機器の認証などのセキュリティ機能が標準実装されているが、シスコシステムズのスイッチは全てマネージドスイッチとなっており、標準実装機能で不正接続や不正通信を防ぐことができる。
産業向けで実用的な製品群を拡張
また、製造現場を含めた産業用途で実用的な新たな製品群も次々に用意を進めているところだという。新たにグループに加えた米Fluidmesh Networksの製品群の取り扱いも開始。Fluidmeshは4.9GHz帯を利用した無線のメッシュテクノロジーであり、屋外での長距離伝送が可能だ。4〜10kmの範囲をカバーする他、時速350Kmで移動する物体でも安定した通信を実現する。また、0msのハンドオフタイムを実現しており、広いプラントや工場の中での移動体用無線として利用できる。日本では2020年10月から販売開始されており、今後、工場や倉庫での無線バックホールとしての導入を見込んでいる他、AGVなどの移動体の通信需要も見込んでいるという。現在はブランド名をCisco Ultra Reliable Wireless Backhaul(CURWB)と変更し、シスコの代理店より購入可能となっている。
加えて、2021年1月には「Cisco Factory IoT Network」用のスイッチとしてシスコシステムズが提供している「Cisco Catalyst Industrial Ethernet シリーズ(以下、IEスイッチ)」のIE3300に新拡張モジュールが追加される。アップリンクが10GBで、ダウンリンクが2.5GB、かつ監視カメラやデジタルサイネージに給電できるほど強力なPoE給電が可能だ。作業効率の改善、安全性や生産性の向上に向け、映像などを含めた高速な無線環境を考えているケースでは特に有効だ。
さらに、IoTネットワークスイッチからデータをクラウドサービスにアップロードするのを支援するソフトウェア「Edge Intelligence」はAWSやAzureを活用したいという需要に応じて製品化されている。「最終的にITとOTのネットワークが統合される未来をシスコは目指しています」(中川氏)
「ポストコロナ」を見据えたデジタル活用を視野に
「現場力」という名の下、「現地現物主義」が日本の製造業の競争力を支えてきたことはまぎれもない事実だ。また、これらの精神は製造業が「モノづくり」を基盤とする以上、今後も重要であることは変わらない。一方で、COVID-19が突き付けたように、これまで妄信的に「現地現物主義」を貫いていた業務に関して、工場のスマート化による代替の可能性を模索する必要があるのもまた事実だ。
特に「現場」が中心となる工場における新たなアプローチは今後の新たな働き方を構築する上での大きな試金石となるだろう。そして工場のスマート化を進める上で、最初の一歩となるのが工場内ネットワークの構築だ。早期に適切な工場内ネットワークを構築し「ポストコロナ」を見据えた工場のスマート化を視野に入れるのであれば、専門企業であるシスコシステムズに相談するのも一つの手ではないだろうか。
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