大手とベンチャーが語る「開発スピードが生み出すオンリーワン製品」:MONOistセミナーレポート
開発スピードをテーマにしたMONOist主催セミナーの第2弾が、モノづくりを支援するプロトラブズ協賛で開催された。注目のオンリーワン製品が、いち早く市場に投入された裏側には、どのような工夫があったのか。
2016年6月3日に開催されたMONOistセミナー「大手とベンチャーが語る『開発スピードが生み出すオンリーワン製品』」。基調講演ではオンリーワン製品の開発について大手企業とベンチャーからそれぞれ語られ、事例講演ではプロトラブズの射出成形サービスの体験談が紹介された。
1年半で誕生させた世界初の両眼シースルーHMD――セイコーエプソン
「新規事業製品開発とその製品が実現した現場革新ついて」と題した基調講演では、セイコーエプソン ビジュアルプロダクツ事業部 HMD事業推進部 部長の津田敦也氏が、同社のスマートグラスの開発や市場創出の取り組みを語った。
同社のスマートグラス「MOVERIO(モベリオ) 『BT-100』」は、2011年11月に発売された。世界初の両眼シースルーHMDでありながら、その開発期間は約1年。これほどスピーディーに商品化できた理由について、津田氏は「社内にあるコア技術を、もう一度組み合わせてお客さまの価値を検討した」という。
同社がスピード感を重視した背景には、日本の大手企業の反省がある。「石橋をたたいて、たたいて、たたききったころには、海外やベンチャーから斬新なアイデアが出てきて、大手企業は先を越されていた。世の中にないものなのだから『シースルーMHD』を知ってもらわなければ、フィードバックは得られない。まず広めるには、業務市場よりコンシューマ市場と考え、賛否両論があるのは承知で、早く市場に投入することを選択した」(津田氏)。その結果、いろいろな分野から理解者が現れ、具体的な活用場面を想定した研究や実験が進んだ。
2014年には各種センサーを搭載し、オープンプラットフォームとした新機種「MOVERIO 『BT-200』」を発売。2015年9月には業務市場向けの「MOVERIO Pro 『BT-2000』」を発売し、現場での作業マニュアルや、遠隔地からの作業支援などでの活用が始まっている。2016年2月には、さらに進化したコンシューマ向け「BT-300」を発表し、今年の秋には商品化する予定だ。
スピーディーに製品を開発し、新規市場を創設するために重要なこととして、津田氏は「変える勇気を持ち、失敗を跳ね返すスピード感で判断・対処すること。上下関係や組織の枠を超えて活動できる、活性化された組織であること」と述べた。
最終材料で試作、検証。開発プロセス全体を効率化――シヤチハタ
プロトラブズのユーザー事例講演は、シヤチハタ 商品開発部 副部長 太田剛俊氏による「新商品開発の効率化 〜ネットでたのめる射出成形を活用〜」。
読者の中には知らない人がいるかもしれないが、「シヤチハタ」はあのハンコのことではなく企業名である。しかし一般に朱肉やスタンプ台がいらない浸透印を「シヤチハタ」と呼ぶくらい、オンリーワン製品を創ったということなのだ。実際、国内シェアは約8割、累計1億5000万本以上、現在も毎年250万から300万本製造しているという。
1925年創業のシヤチハタは、使うたびにインキをスタンプ台にしみ込ませるのが当たり前だった時代に、インキをしみ込ませなくてもいつでも使えるという画期的な「万年スタンプ台」を開発した。1965年には、スタンプ台を生業とする企業でありながら、スタンプ台の要らないスタンパーを発売。その後、通称「シヤチハタ」と呼ばれるネーム印を世に送り出し、ベストセラーとなった。さらにペーパーレスが叫ばれていた1995年、電子印鑑システム「パソコン決裁」という、ハンコすらいらない製品を自ら発売している。身近で、すぐに役立つオンリーワン製品を生み出す同社には「日本の『ハンコ』文化のなかで、時代に合わせて、常識にとらわれない発想で作っていこうという考えが根底にある」と太田氏はいう。
プロトラブズの射出成形サービスを活用したのは、2014年に発売した「おなまえスタンプ おむつポン」。忙しいお母さんたちを少しでも楽にしようと企画された商品だ。保育園に子どもを預けるときは、一つ一つの紙おむつに名前を書かなければならず、面倒であるうえ、油性マーカーでは書きにくい。そこで、おむつ用の名前スタンプというオンリーワン製品を開発したのだ。
「おむつポン」は、ゴム印とスタンプ台という製品構成。ゴム印を保持するキャップ部分とスタンプ台は、耐溶剤性を持つ材料でなければならず、気密性や長時間使用するための経時保存性も必要である。試作段階であっても、最終材料で形状や性能を検証しなければならないため、3Dプリンターは使用できない。試作金型を起こすと、2〜3カ月かけて試作品を入手してから評価するため、開発期間が長くなってしまう。
そこで活用したのが、プロトラブズの射出成形だ。「オンラインで仕様を確定してデータをアップロードすると、3時間後に見積もりを入手できる。材料の支給も可能で、発注後10日で成形品が届く。従来なら金型屋さんと打ち合わせをして、見積もりをもらうだけでも1〜2週間かかっていたので、初めて利用したときは衝撃的で感動した」と太田氏はいう。
オンラインで金型レイアウトを確認できるのも大きなメリットだ。画面上で設計変更もでき、同じ画面を見ているプロトラブズの技術者に電話で相談することができる。Web上で流動解析ができるツールも用意されている。「開発期間を大幅に短縮できるうえ、量産を想定して金型の問題も早期に解決できるため、後工程での手戻りが減り、開発プロセス全体を効率化できる。量産を踏まえた試作によって、品質が向上し、技術者も自信と確信をより強く持てることは大きなメリット。社会が変化するなかで、スピーディーな市場投入は製品の『競争力』そのものとなる」と太田氏は締めくくった。
共感を得られるロボットで「一家に1台」を目指す――ユカイ工学
最後の講演は、ユカイ工学代表の青木俊介氏による「『一家に1台コミュニケーションロボットを普及』を目指すユカイ工学のデザイン・開発プロセス」。同社は、コミュニケーションロボットの開発に特化して、企画・プロダクトデザインから設計・製造・販売までを行っている。「2025年にロボットが全ての家庭に1台ずつある世界」を目標に、どういうロボットなら普及するかを考え、15人ほどの小規模なチームでスピーディーに開発し、オンリーワン製品を送り出している。
同社が家庭に入るロボットの第1弾として発売したのは「BOCCO」。独り暮らしのお年寄りや、共働きで子どもが留守番をしているという場面を想定した、メッセージツールである。ボイスメールやテキストメッセージを、スマホとBOCCOの間でやりとりできる。「ロボットは、遠くにいる家族をつなぐ役割をしてくれるのではないかと考えている」と青木氏はいう。
同社が「一家に1台」の可能性として注目しているのは「スマートホーム」だ。「頻繁に使う操作は音声認識にするなど、ロボットはユーザーインタフェースの役割をしていくのではないか」。既にエネルギー会社や住宅メーカーと実証実験を行っているそうだ。
近年は、歌って踊ってくれるフィギュア「iDoll」も企画、販売しており、今年2月には初音ミクのiDollも発表した。「一人暮らしでも、誰かに『お帰り』と言ってほしい」というニーズに、同社内で研究していたマイクロモーターの技術が結びついたものだ。「スピーディーに市場に製品を出して、そこからくるニーズを基に、新しい製品を作るのがユカイ工学のスタイル。重要なのは共感を得ることだと思っているので、本当に誰かの役に立つロボットを作っていきたい」と青木氏は語った。
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