「制御盤」をより省スペースに、より効率的に! 進化に導く3つの「P」とは:数十年ぶりの革新か
FA装置の心臓部ともいうべき制御盤。しかし、数十年にも及ぶその歴史の中、実はほとんど進化が見られていなかった。こうした制御盤に革新をもたらそうとしているのが、オムロンである。オムロンは“3つのP”をキーワードに、制御盤に新たな付加価値創出を目指している。
制御盤の中での“進化の無駄遣い”
FA(Factory Automation)装置に必須となる制御盤。複雑な動作を高精度で実現することを要求されるFA装置だが、これらの複雑な動作をつかさどる制御については、制御盤内に設置された各種機器がほとんどを担う。そのため、制御盤の役割は重要だ。例えば、機能拡張が制御盤の空きスペースがないためにできなかったり、放熱がうまくいかずに性能が低下したりするなど、制御盤内の環境をどうやりくりするかが、FA装置そのもののパフォーマンスに影響する。ある意味ではFA装置の“心臓部”ともいうべき存在だといえる。
しかし、制御盤そのものの進化のスピードは遅い。制御盤の形状は、数十年前からほとんど変わっていない。搭載される機器については、スイッチやPLC(Programmable Logic Controller)などのFAコントローラー、リレーやタイマー、電源機器など、それぞれが目覚ましい進化を遂げている。しかし、基本的には「リレーならリレー」「PLCならPLC」とそれぞれの部品での競争に勝つことを主目的としており、それぞれの機器が独自に発展を遂げてきたといえる。
そのため、制御盤の中では“進化の無駄遣い”が起きているのが現状だ。例えば、制御盤内で使用する、ある製品が業界最高クラスの小型化に成功したとしても、それぞれが個々の価値観で開発を進めているため、その空いたスペースを制御盤全体としては有効活用ができないという状況が発生するのだ。結果的にデッドスペースが増えるだけということにもなる。また、ある機器が高い放熱性能を実現し他の部品と密着させて使用可能であったとしても周辺に設置した機器の放熱性能が低く、放熱用スペースが必要な場合、結果的にこの機器の「高い放熱性能」という機能は生かされない状況になる。すなわち個々の性能向上が必ずしも制御盤全体の性能向上につながっていない状況が生まれているのだ。
FA市場の環境変化で求められる制御盤革新
制御盤の進化がなかなか進まない一方で、FA装置の市場環境の変化は激しさを増している。FA装置市場のグローバル化が加速しており、新興国への進出が増加。さらにこれらのFA装置で製造する最終製品の多様化や短命化が進んでおり、FA装置にはより柔軟性が求められている。例えば、最終製品の多様化対応のため、FA装置の納入後に追加改造が必要となったり、最終製品の短命化のためにFA装置の発注から納入までのリードタイムが従来に比べて短くなったりしている。また人件費高騰などで自動化ニーズが高まる一方で人手不足が進み、生産ラインの組み替えについても高度な技術がなくても行えることが求められている。
これらのFA市場の環境変化の影響を受け、制御盤そのものにも徐々に進化を求める声も広がりつつある。制御盤の小型化やスペースの有効活用、海外輸出対応、設計/製造プロセスの向上などのニーズである。ただ、制御盤は多くの製品群が組み合わさって構成されるため、簡単に全体最適を実現できない。メーカー間の調整が難しいからだ。
こうした状況下で「制御盤としての価値」に焦点を当て、製品コンセプトを再構築することで、制御盤に新たな付加価値を実現する取り組みに乗り出したのが、オムロンである。オムロンは10万機種にも及ぶFA関連製品を展開しており、制御盤の中で使われるほとんどの機器を自社で扱っていることが特徴となっている。これを生かし、制御盤そのものを最適化する「制御盤ソリューション」に取り組むことを決めた。
オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部長の辻永順太氏は「従来はオムロンの中でも個々の製品の強化という視点で製品開発を行ってきた。しかし個々の製品で勝負するだけでは本当の意味で最終的な顧客価値を実現しているとはいえない。制御盤そのものの価値を向上し、制御盤の設計や製作、使用する人、そのプロセスを最適化できるようにすることを主目的とするように製品企画の方針を転換した」と述べる。
オムロンが新コンセプト製品で狙う「3つのP」
新製品のコンセプトとして「制御盤に新たな価値を」を据え、製品開発の基軸としたのが「3つのP」である。1つ目が制御盤のさらなる進化を目指す「Panel」、2つ目が設計や製作プロセスに革新をもたらす「Process」、3つ目が人に“易しさ”と“優しさ”をもたらす「People」である。
「Panel」として制御盤の進化を促す最も大きな取り組みが、新しい統一コンセプトデザイン「Value Design for Panel」である。「Value Design for Panel」では、製品開発で制御盤を進化させるためのさまざまな製品コンセプトを設定し、それを守ることで、特徴の異なるさまざまな製品による統一のデザイン性や性能を実現した。高さや縦幅などを統一した「統一スリムデザイン」を採用。これにより機器の小型化とデッドスペース削減効果により制御盤全体の小型化などが実現できるようになった。さらに周囲温度55℃で機器間に放熱スペースなしでも使用できる「密着取り付け」対応としている。これらにより制御盤内のスペースを有効活用し、余剰スペース拡大にも貢献でき、追加改造による制御機器の追加対応も可能となった。また、色も黒をベースとして統一し、見た目の美しさだけでなく、配線色やマークチューブ番号の見やすさにも配慮してる。
統一コンセプト製品のコンセプト開発は数年前から試行錯誤を重ね、具体的な製品企画を2015年4月から開始。「当時は各製品担当者の温度もそれほど高くなかったが、制御盤の設計・開発の効率化などが進み、プッシュイン端子台が普及している欧州地域からの関心を得ることができたことで、企画も進めることができた」と統一コンセプト企画の開発を担当したオムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 コンポ事業部 第1開発部長 大場恒俊氏は述べる。
「People」として訴える価値には「プッシュインPlus端子台」がある。差し込むだけで配線可能なプッシュイン端子台を進化させたのが「プッシュインPlus」端子台で、イヤフォンジャックを差し込むような感覚で従来品のように強く押しこまなくても簡単に配線できる。一方で、従来のねじ式端子台と同等以上の電線保持力を実現する。「プッシュイン端子台は他の競合メーカーも採用しているが、オムロンのプッシュインPlus端子台は軽い力で電線を挿入でき、指先に優しく、さらにそれが抜けないということが特徴だ。そのため一日に何時間も配線作業をされている作業者の負担が軽減される」(大場氏)。
その他、より線への対応や両手作業が可能な点なども特徴だ。新コンセプト製品は全モデルで前面からの配線としており、前面からまとめて操作しやすい形状となっている。さらに、機器の上部から入力信号、下部から出力信号が入るという誰にとっても分かりやすい製品設計となっており、迷うことなく配線やメンテナンスが行える。
プロセス改革を行う「Process」では、プッシュインPlus端子台による配線の効率化と電気制御CADへの対応による設計工数削減への取り組みが挙げられる。プッシュインPlus端子台を採用することで配線工数は計算上約60%削減可能とした他、ねじ端子を採用していないため、輸送や装置の振動が原因のねじの緩みによる増し締めなども不要となる。
さらに、主要な電気制御CADである、図研の「E3シリーズ」やドイツのEPLANの「EPLAN」、などの設計で使用できる部品ライブラリデータを提供。既にオムロン製品6000機種以上のデータを提供しており、設計工数はこれにより30〜50%削減可能だ。ライブラリ部品についてはオムロンが同年4月にオープンのWebサイト「Panel Assist Web」から電気制御CAD用のデータとしてダウンロード可能としているが、本Webサイトでは更にBOM(部品リスト)管理やBOM情報をもとにした中継端子台の選定、更には制御盤内の熱シミュレーションなどBOMデータの再活用や変更管理などで作業効率を改善する。「電気制御CADに対応したデータを提供しているケースは競合企業でもあるが、実際に電気制御CADの効果を最大限発揮できる情報をデータとして統一した基準を設けて提供していることに意味がある」(辻永氏)。
辻永氏は「プッシュイン端子台や電気制御CADの活用は、日本国内だけを見るとやや早いかもしれない。しかし欧州では積極的な活用が進んでおり、いずれ日本にも同様のトレンドが訪れると見ている。これらにいち早く対応することでFA装置および制御盤の進化に貢献する」と述べる。
グローバル300社以上の声を集めて製品企画を実現
今回のプロジェクトでは徹底したユーザー視点で開発を進めてきたことが特徴である。まずは聞き取り調査の徹底である。同社ではこれらの新コンセプトを実現するために、グローバル300社以上にヒアリングを行い、製品企画を固めてきた。「お客様の声を聞かせていただく中で、制御盤そのものを小型化するより余剰スペースを多く作ることができることに価値を感じてもらえるなど、当社だけでは分からなかったポイントの関心が高いことなども知ることができた」(辻永氏)。
さらに開発者自身が実際に制御盤を組む工程を体験し問題点を徹底的に洗い出した点も特徴になっているといえる。開発者が実際に制御盤を組むことで、設計の問題点を洗い出し、盤メーカーの業務効率改善につながるような機器開発を行った。また電気制御CADについても、開発者が実際に電気制御CADを使ってみて、どんなデータが属性情報として必要かを考えてライブラリ構築を実現したという。「従来は電源やタイマーのみを見て開発していた製品開発スタイルだったが、ユーザー視点でユーザーの問題を解決するという製品開発スタイルに変えることができた」と辻永氏は語る。
開発した新コンセプト製品群は、20カテゴリー952機種で、2016年4月1日に世界一斉発売する。辻永氏は「これだけの規模で製品ラインアップをリリースするのはオムロンでも初めての取り組みだ。個々の製品群で戦うだけでは性能・機能や品質とコストのバランスという軸だけで勝負が決まってしまう。オムロンの製品群としての強みを生かし『制御盤全体で価値を提供できるのはオムロンだ』という新たな軸を打ち出していきたい」と力を込める。
中国やASEANなどで人件費の高騰が進み自動化のニーズが高まる中、FA装置の市場は世界中にますます広がりを見せる。FA装置として本質的な作業価値を高めるのはもちろんだが、制御盤そのものを進化させることは、FA装置としての新たな機能向上や余力を生み出すことにつながる。FA装置の付加価値向上のためにも制御装置の進化を実現するオムロンの統一コンセプト製品を採用するというのは1つの手なのかもしれない。
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