モノづくりのための「3D CAD基礎情報ナビ」:モノだけじゃない! 日本のモノづくり(7)
モノづくりの世界に初めて飛び込んできた人の中には、3D CADや3Dデータも未知の存在だという人もいるだろう。今回は、そんな人たちのために、3D CADの歴史や基礎情報をナビゲート。MONOistのお役立ち記事や連載も併せて紹介していく。
2012年末以降のメイカーズムーブメント、そして3Dプリンタブームと、ここ数年間でモノづくりという分野に世の中の注目が集まっている。製品を開発・販売するというビジネスにおいても、スタートアップ企業や、従来とは異なる分野の人たちが取り組む製品開発事例がよく見られるようになってきた。
製品の部品製作においては当然、3Dプリンタによる造形のみでは現実的ではなく、製品の特性や計画する生産数に応じて、切削加工や射出成形などさまざまな工法の使い分けが不可欠となる。「誰もが作り手になれる」時代のモノづくりやビジネスについては、「世の中を作るためには、3Dプリンタだけでは足りない」「3Dプリンタ、切削加工、射出成形を徹底比較!〜レーダーチャートで適性を“見える化”〜」で詳しく取り上げた。
また小ロット生産品を扱いたいスタートアップ企業においては、射出成形の金型製作にまつわるさまざまな問題で頭を悩ませることになる。その苦労や解決策についてはユカイ工学代表の青木俊介氏が「コストは「金型代」だけじゃない! 射出成形のカギはエンジニアに相談できるフロントローディング」で語ってくれた。
そして異分野からモノづくりの世界に飛び込んできた人たちにとっては、まず、3Dデータや設計図面の用意が高いハードルになる。身近に頼れる機械設計のスペシャリストがいるとも限らず、そもそもモノづくりに用いる3Dデータを作成するための「3D CAD」という存在に、生まれて初めて接するという人も少なくないようだ。
今回は、プロトラブズ社長のトーマス・パン氏と、MONOist 「メカ設計フォーラム」編集担当の小林由美が「モノづくりのための3Dデータ」を作り上げる3D CADや、メカ設計の基礎情報についてナビゲートする。
3D CADはより手が届きやすく
小林 1990年代前半まで、「3D CAD」といえばUNIXマシンで動かすハイエンドなものが主流であり、一部の大企業にしかない大規模なシステムでした。ところが1990年代後半、Windows版のミッドレンジ3D CADが登場。以来、3D CADは個人のデスクトップマシンでも使われるようになり、製造業全体に普及していきました。
パン 私自身は2010年にプロトラブズに来るまで、前職では3DデータやCADの情報に接する機会が比較的多かったのですが、現在は切削加工や射出成形に携わる経営者の立場になり、そういった情報と接する機会が減ってきてしまいました。ここ数年、業界ではどんな動きがあったのでしょうか。
小林 2010年以降は、モデリング機能そのもののニュースより、コラボレーション機能や、システムのクラウド化、モバイル対応の話題が増えました。CADやCAEではレンタル版や従量課金ライセンスも登場してきています(関連記事:レンタルのメカCADってどう思いますか?/クラウド上のCAEソフトを使ってみた)。
パン CADのクラウド化はユーザー側にどういったメリットがありますか?
小林 例えば、PCかモバイル機器か、あるいは社内か社外か……など、データやソフトへのアクセスの自由度が高まることですね。月極めレンタルや従量課金のサービスなどを提供する基盤にもなります。
パン 当社でもミッドレンジの3D CADを使っていますが、ライセンスの値段は大体100万円前後で、ここ十年くらい大きく変わっていませんよね。レンタルや従量課金制のライセンスなら、メイカーズの皆さんも、より手が届きやすくなりますね。必要な時だけ使うことも可能ですしね。
小林 最近は無償の3D CADも注目されていますよね。
パン 無償の3D CADは、有償ツールに比べてどんな違いがあるのですか?
小林 単体の3Dモデリングの基本機能なら、無償も有償も大きく変わりません。細やかな使い勝手、自動化された機能、パフォーマンス面は、当然ですが、有償ツールの方が優れています。扱える部品数、アセンブリ(部品組み立て)の表現や機能にも非常に大きな差があります。CADと連動したシミュレーションが使えることも、有償のCADの利点ですね。
パン 無償ツールは仕事レベルの用途にも使えるものなのですか?
小林 熟練した設計者の方であれば、たとえ無償3D CADであっても、小規模な設計物であれば「使える」という答えになるでしょう。ただし、有償のプロツールの使い勝手に慣れていれば、結構不便でしょうし、実際に企業内・外でチーム設計をしようとなると運用面で厳しいと思います。
パン 世の中にはExcelのような汎用ソフトで立派な絵画を描いてしまう人もいますからね。3D CADもあくまでデジタルモノづくりの「手段」の1つですので、キチンと適切なレベルのツールを選択する必要がありますね。
小林 3D CADのオペレーションそのものの習得は難しいわけではなく、「慣れ」の要素が大きいです。単に3Dデータを作るだけなら、教われば誰でもできます。製品開発したい場合、まず大事なのは機械設計や幾何概念の知識です。その知識さえあれば、手描きや2D CADであっても部品設計はできます。ツールは、自分が作りたい物や予算、部品加工の手段に応じて選定していくものですね。
無償設計ツール特集
無償3D CADのレビューや解説が一覧されている。無償3D CADはそれぞれ特長があるので、使い比べて選定してみよう。
無償3D CAD 5分講座
3Dモデリングだけなら、メカ設計の知識がなくても覚えられる。
自分が作りたいものに応じた知識を学び、ツールを選ぶ
パン 例えば、板金部品の多くは3D CADを使わなくても設計できます。モノづくりの手法によっては、必ずしも「3D CAD(3D データ)が必須」というわけでもありません。3Dプリンタでは3Dデータは必須ですが。また「3D CADが必要かどうか」は、「1度した設計を、その後の設計に流用していくか」にもよります。従来のメーカーならシリーズ製品の共通部品や既存製品のカスタマイズ品への流用設計がデータ活用として当たり前ですが、スタートアップ系企業ではそうとは限りません。
小林 「過去の部品データを生かして設計していく」「小ロット以上の生産を検討する」場合は3D CADになるべく投資した方がよいのでしょうね。構造解析をしたい場合もそうですね。
パン 1回限りの製品開発や、流用せずに毎回新規で設計するなら、自分(自社)のCADで3Dデータを作らなくても、外部の受託設計企業にモデリングしてもらってもよいですね。当社でも「プロトラブズ設計支援プログラム」というサービスを展開しており、設計支援パートナー企業をご紹介させていただき、現物や2次元図面からの3D CAD化についてご相談いただくことも可能です。
小林 限られた時間の中でメカ設計について一から勉強するのは大変ですから、プロトラブズさんのプログラムを利用するのも手ですね。
パン 勉強といえば、MONOistには無料で読めるメカ設計関連の解説記事がいろいろありますね。
小林 メカ設計・製図はもちろん、切削加工や射出成形の基礎解説もあります。実際、スタートアップ企業や個人事業の方から、MONOistの解説記事を活用しているという声も届いています。
メカ設計の解説連載
パン 当社でも、射出成形金型のミニチュアや、樹脂材料の見本のパズルなど、射出成形に関する無料の教材を配布しています。
小林 こちらは「実物」の教材なので、MONOistの記事と一緒に利用すると、理解がより深まりそうです。
パン 将来の3DCADとして期待することとしては、自分が考えている製品に必要な機能、例えば対象パーツに対して適当なはめ合い寸法やアセンブリに適した相手側の形状などを自動的に設計してくれるなど、3D CADに設計初心者の知識不足をアシストするような機能があってもいいですね。あるいは、趣味や教育用として、簡単な画面指示に従って数値を入力していくと基本的なカメラ設計ができるようなソフトとかも……。
小林 モノづくりのすそ野が広がってきた今、そういう機能もありかもしれませんね!
提供:プロトラブズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2015年12月3日
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