ERPは短期/低コストで導入可能、常識を覆したタカギの挑戦:レガシーシステムの問題を解消したERP導入事例
多くの国内メーカーが、老朽化した基幹システムの刷新という課題に直面している。統合基幹業務システム(ERP)への移行はその解決策だが、自社業務に合わせた作り込みがコストと期間を押し上げ、導入をためらう企業は少なくない。そうした中、散水用品/浄水器メーカーのタカギは、KPMGコンサルティングをパートナーに、会計領域のERPを約1年で稼働させた。鍵となったのは、業務をシステムの標準機能に合わせる「Fit to Standard」の徹底だった。同プロジェクトから、レガシーシステム刷新とERP導入を成功に導く要点を探る。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が国内メーカーの共通課題となる中、多くの企業の頭を悩ませているのが、長年運用してきた基幹システムや会計システムだ。度重なる改修をへたこうしたレガシーシステムは、内部構造や仕様が複雑化し、全体像を把握できる担当者が限られる「ブラックボックス化」に陥りやすい。
解決策の1つとなるのが、業務のSaaS化やAI(人工知能)連携などに対応する統合基幹業務システム(ERP)の導入だ。ただし、既存システムをERPへ置き換えるには、コストや工数、期間の負担が大きく、中堅製造業では導入を断念するケースも少なくない。
そうした中、短期間/低コストでのERP導入を実現したのが、散水用品や浄水器などの製造/販売を手掛けるタカギだ。1961年の創業以来、北九州市に本社を構え、従業員約1,400人、売上高394億円(2025年度)のメーカーとして、特に浄水器の分野では独自のビジネスモデルを築き、高いシェアを誇る。同社はKPMGコンサルティング(以下、KPMG)をパートナーに、ERPソリューション「Microsoft Dynamics 365 (以下、Dynamics 365 )」を活用したERP導入を推進している。
左から、タカギ 情報システム部 システム開発課 課長の谷所征洋氏、同部 インフラ・運用課 課長代理の林弘美氏、同部 部長の元金雄作氏、KPMG アソシエイトパートナーの淵山賢氏、同社 シニアマネジャーの宮治朱美氏
複雑化した基幹システム、保守期限を機に刷新を決意
タカギがERP導入に踏み切った背景には、長年の運用により生じた基幹システムの複雑化があった。同社が2008年に導入した基幹システムは、販売管理を担う自社開発のスクラッチシステムで、度重なる改修を経て内部は複雑化/ブラックボックス化し、運用は属人化していた。タカギ 情報システム部 部長の元金雄作氏は「十分なドキュメントが残っていなかったため、システムを改修する際には毎回、既存プログラムや影響範囲を確認しながら進めなければならず、ビジネスのスピードに合わせた迅速な対応が難しい状況でした」と振り返る。
一方、会計は2013年に導入したパッケージ製品を使っていた。
基幹システムの刷新を決定づけたのは、両システムが保守の節目を迎えていたことだ。「浄水器ビジネスは独自のビジネスモデルで、それに関連するシステムは作り込みが必要です。しかし販売管理や会計は、特別なことをしているわけではありません。両システムの保守が節目を迎えたことを機に、情報の一元管理とガバナンス強化の観点から、ERP導入を決めました」(元金氏)。
ERPの方向性を固めた後、複数のERP製品の導入を検討したが、自社の規模感からDynamics 365 を仮選定した。ただし、ERPの導入経験がなかったタカギにとって、自社業務がパッケージにどこまで合うのかは未知数だった。そこで全社プロジェクトの発足前に、業務との「適合性検証」を実施することにした。このパートナーに選んだのが、KPMGである。豊富な導入実績に加え、業務改革の方法論「KPMG Powered Enterprise」を持つKPMGであれば、あるべき業務の姿を起点に検証の精度を高められると見込んだ。
3〜4カ月の検証で、現行業務をそのまま移す前提では適合率は4割にとどまるが、業務改革(BPR)を前提とすれば導入可能な水準まで引き上げられるとの確証を得た。この結果をもって社内に上申し、KPMGをパートナーにプロジェクトを本格始動させた。
現場への負荷軽減&リスク低減を考慮し、「2段階導入」を採用
ERPの導入において、タカギは3つの目的を掲げた。「基幹システムや会計システムの停止リスクを回避すること」「老朽化した環境を刷新しセキュリティを強化すること」、そして「業務効率化とITコストの削減を進めること」だ。その先のゴールとして、BPRとDynamics 365 の活用により、統一された運用フローと「持続可能な業務運用」を実現することを据えた。そのために貫いたのが、自社の業務をパッケージの標準機能に合わせていく「Fit to Standard」の考え方である。カスタマイズを前提とせず標準機能を最大限に生かすことで、短期間での導入と、将来にわたる保守の柔軟性の両立を目指した。
浄水器ビジネスに関わる受注、出荷、顧客情報管理などは、同社の独自性を支える領域として引き続き自社システムで対応する。一方、会計や一般的な販売管理は、標準的な業務プロセスに寄せる余地が大きい。そこでこれらの領域について、Dynamics 365 を基盤とするERPへ移行する方針を採った。
ERP導入では、全システムを一斉に切り替える「ビッグバンアプローチ」が採用されるケースも多いが、現場への負荷が大きく、失敗時のリスクも大きい。そこで今回は、対象領域を分けてカットオーバーを迎える「2段階導入(モジュール単位方式)」を採用した。ステップ1では、よりFit to Standardを行いやすい会計領域でERPを導入し、システム基盤の土台を固めた。販売管理領域はステップ2として、これに続ける。
比較的Fit to Standardを行いやすいと考えた会計領域であっても、業務をシステムに合わせる作業は容易ではなかった。現場調整を担ったタカギ 情報システム部 インフラ・運用課 課長代理の林弘美氏は「タカギ独自の慣習のうち、変えられるものはできるだけ標準化するよう、業務部門と話し合いを重ねました。難しかったのは、ERPとのギャップというより、海外製システム故に日本の商慣習に合わない部分や、システムの作りの癖を理解することでした。特に『財務分析コード』については、何を設定するかを決めるのに半年近くかかりましたが、KPMGと何度も協議を重ねて決定しました」と回想した。
運用面でも、各部署で行っていた伝票入力を表計算ソフトで財務経理部に集約し、一括で取り込む方式に変更した。標準機能に手を加えずにコストを抑える工夫を重ね、会計領域は2026年4月に本番稼働を迎えた。
タカギ 情報システム部 システム開発課 課長の谷所征洋氏は「KPMGの支援を受けながら、現場部門の理解と協力を得て、カスタマイズを最小限に抑えた形で導入/稼働を実現できました。カスタマイズを抑えたことで、今後のバージョンアップや制度改正への対応も柔軟になり、長期的に安心して保守/運用ができます」と述べる。
KPMGは、単にシステム導入を支援するだけでなく、タカギ側が納得感を持って意思決定できるよう伴走した。KPMG シニアマネジャーの宮治朱美氏は「ささいな引っ掛かりも、納得いただけるまで徹底的に話し合いました。最終的に現場を説得し、業務を動かしていくのはタカギの皆さんです。私たちはその判断を支える、縁の下の力持ちに徹しました」と話す。
「業務をシステムに合わせる」発想で、約1年でのスピード稼働を実現
タカギは、プロジェクトの開始に当たって4つの活動方針を定めた。「全社視点での業務最適化」「ERP標準機能の最大活用」「メンバー全員の主体性と責任」そして「透明性のあるオープンなコミュニケーション」だ。共通するのは、これらをコンサルタント任せにせず、タカギ自身が掲げてプロジェクトをけん引するという主体性である。
通常であれば、要件定義の開始から本番稼働まで1年半から2年を要するとされる。しかしタカギは、2025年4月の要件定義から約1年でのスピード稼働を実現した。KPMGがその要因として挙げるのが「Fit to Standard」の徹底だ。各種BPR、運用改善を重ねた結果、Dynamics 365 の標準機能に対してフィット率を90%以上に上げていった。
宮治氏は「カスタマイズを増やせば、その分、開発/テストの期間が膨らみます。標準機能に合わせる前提で進めたことで開発を抑え、その分の労力をユーザー受け入れテスト(UAT)に振り向けられました。最終的に、UATのシナリオは70〜80本、累計のステップ数は300〜400に及びます」と説明する。実際の伝票データを用いた検証など、現場が新しい業務の流れを確認し、習熟度を高めたことが、安定した立ち上がりにつながった。
こうしたFit to Standardの取り組みを支えたのが、KPMGの業務改革/DX推進ソリューション「KPMG Powered Enterprise」である。これは単体のシステム製品ではなく、KPMGがグローバルで蓄積してきた業務プロセスの知見や標準テンプレート、導入方法論を体系化したものだ。KPMG アソシエイトパートナーの淵山賢氏は「ERP導入は、結果として現行業務とシステムの差分を開発で埋める『Fit & Gap』に陥りがちです。しかしKPMG Powered Enterpriseの根本にあるのは、目指すべき業務の姿、すなわちTo Be業務をどう作るかという発想です。システムはいったん横に置く。その思想で臨む点が、他の方法論とは違うところです」と胸を張る。
実際の導入では、KPMG Powered Enterprise内の「ターゲットオペレーティングモデル(TOM)」という業務テンプレートを土台に、タカギと議論しながらあるべき業務フローを描いた。会計領域では、Dynamics 365 本体に手を入れる「アドオン開発」を避け、周辺ツールやデータ分析基盤を組み合わせて対応。本体の標準機能を生かして外側で工夫することで、将来のバージョンアップにも応じやすい、保守性の高い運用とした。
会計領域の成功を土台に、次なる挑戦へ
現在タカギでは、ステップ2となる販売管理領域への導入が進んでいる。2027年1月の稼働を目指し、開発が完了に差しかかるフェーズにあり、今後は教育やUATを通じて実業務への適用を本格化させていくという。
谷所氏は「現場メンバーを中心に統一されたプロセスを検討してもらい、業務の標準化はだいぶ進んできました。タイトなスケジュールではありますが、重要なポイントを確実に押さえながら、着実に進めていきます。成功の鍵は、現場メンバーの理解と主体的な参加です。教育やUATはタカギが主体となって進めるフェーズですが、KPMGの的確な支援も受けながら、ワンチームでスムーズな立ち上げにつなげたい」と語る。
レガシーシステムの刷新は、多くの企業にとって避けて通れない課題だ。だが、コストを理由にERP導入をためらう企業は少なくない。しかし、カスタマイズを抑えられれば話は変わる。淵山氏は「現行業務に合わせてシステムを作り込み、ギャップを開発で埋める従来の発想を、目指すべき業務の姿を起点とする発想へ切り替える。それができれば、短期間/低コストでのERP導入は十分に可能です。タカギの取り組みは、その1つの証明になったと考えています」と強調する。
あるべき将来の姿を描き、そこに現在の業務を合わせる。KPMGの伴走力と、同社が持つ「KPMG Powered Enterprise」は、こうした変革に踏み出す企業にとって、有力な選択肢となりそうだ。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年8月26日






