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後発でも急成長の国内組み込みボードベンダー 選ばれる「4つの理由」とはエッジコンピューティング

国内製造業が開発/生産するさまざまな製品の進化を支える組み込みCPUボードやBOX型PCを展開してきたイノテックのINNINGS事業が20周年を迎えるとともに累計出荷台数20万台を突破した。後発ながら快進撃を続けている背景には何があるのだろうか。

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 国内製造業が開発/生産するさまざまな製品の進化を支えてきたのが組み込みCPUボードだ。

 例えば、AI(人工知能)やロボットなどを活用して工場をスマート化するなど、現場への新たなデジタル技術の導入に際して、その基盤となる機能を提供するだけでなく、産業機器としての長期運用をサポートしている。一般的に10年を超えるような長期利用にも対応可能な供給を補償しつつ、耐久性や信頼性も確保しなければ、国内の製造業が求める要求は満足させられないのだ。

 さらに組み込みCPUボードは、生産現場の自動化や効率化を促進するとともに、顧客ごとの条件や環境に合わせた仕様のきめ細かなカスタマイズが可能な点も大きな特徴とする。これにより複雑化する制御やデータ処理ニーズに対応しつつ、長期間にわたって安定したパフォーマンスを発揮することが可能となる。

 こうした組み込みCPUボードやBOX型PCの専業メーカーの事業としてイノテックが展開してきたのが「INNINGS」である。事業立ち上げの2005年からちょうど20周年を迎えた現在、製品の累計出荷台数が20万台を突破するなど事業規模を急速に拡大しつつある。

INNINGS事業の成立と「Atom」の登場で迎えた転機

 技術商社だったイノテックが、現在のような組み込みCPUボード/BOX型PCの専業メーカーの事業に舵を切ったことには、そもそもどんな背景があったのだろうか。あらためて振り返っておきたい。

イノテック 執行役員 インテリジェントシステムソリューション本部 本部長の菅彰吾氏
イノテック 執行役員 インテリジェントシステムソリューション本部 本部長の菅彰吾氏

 同社 執行役員 インテリジェントシステムソリューション本部 本部長の菅彰吾氏は、「2000年代初頭まで、当社は海外のボードベンダー製品を仕入れ、国内で販売する代理店業を主な事業としており、技術部門と営業部門がそれぞれの専門性を発揮しつつ緊密に連携することで、お客さまからも高い評価をいただいていました。しかし、M&Aによるベンダーの買収が続く状況下で、将来的なビジネスの安定性確保が困難となってきました。特に商社にとって、M&Aで販売権を失うことは最大のリスクです。そうした状況下で、当社のボードビジネスの技術力はメーカーに匹敵するレベルに達しており、お客さまの要求にも十分に対応していけると判断しました」と語る。

 折しも当時は「工場を持たないメーカー」、いわゆるファブレス企業が国内でも台頭し始めており、イノテックもこの新しい時代の潮流に乗った形だ。「以前から取り扱っていた海外ベンダーの製品があるお客さまに採用されたのを機に、リファレンスボードの開発から量産化まで当社で一貫して対応できると提案したところ、見事に受託できたことが新事業のスタートとなりました」(菅氏)

 INNINGS事業の立ち上げ当初は、PowerPC系プロセッサを搭載した組み込みCPUボードを手掛けるも、カスタマイズ案件でありながら量産数量が不透明な案件が大半を占めていた。その一方で、徐々に増えていったのがx86系CPUの引き合いである。他の商社がほとんど対応していなかった、リアルタイムOS「VxWorks」や初期の組み込みLinuxとx86系の互換CPUを組み合わせた提案を早い段階から実行していたことが、国内のエンベデッド市場でイノテックが注目を集めた一因となっている。

イノテック インテリジェントシステムソリューション本部 シニアエキスパートの田中一彦氏
イノテック インテリジェントシステムソリューション本部 シニアエキスパートの田中一彦氏

 そしてイノテック自身もこの需要の高まりを前向きに捉えることで、INNINGS事業の体制を整えていった。同社 インテリジェントシステムソリューション本部 シニアエキスパートの田中一彦氏は、このように振り返る。

 「モトローラ68系プロセッサの流れをくむPowerPCは、ブラックボックス化を避けられる透明性の高さという利点があり積極的に採用していました。しかし、案件ごとにカスタマイズ基板の開発が求められるため投入リソースに対して量産効果が得られにくいという課題が顕在化していました。そこで、より汎用性の高いx86系プロセッサ搭載製品を開発することを決めました」

 そんなイノテックのさらなる追い風となったのが、2008年にインテルが省電力CPUとして発表した「Atom」の登場である。同プロセッサの技術情報に対するアーリーアクセスベンダーとしてイノテックが参加できたことがINNINGS事業の転機となり、2009年に「Atom Z530P」を搭載した汎用的な組み込みCPUボードである「MX-4020」を発売した。「MINI-ITXよりも小型のフォームファクターを採用したことや、業界のトレンドリーダーとしてDual EthernetやDual CompactFlashをいち早くサポートしたこと、加えて信頼性向上に向けたRAS用マイコンの搭載をしたことで高い評価を得ました。その後、2012年には大手通信事業者から大口案件を受注するに至りました。ネットワークの死活監視を担う機器に用いるもので、名刺サイズを下回る小型モジュールを提供することで、お客さまの要望に応えました」(菅氏)

 こうした実績を着実に積み重ねたことが、2014年における組み込み機器向けAtomのベストセラーとなった「Bay Trail(E3800)」の早期対応にもつながっており、INNINGS事業は土台が確立されていったのである。

急成長を遂げたINNINGSの強み

 そして2014年、先述のBay Trail(E3800)を搭載する組み込みCPUボード「VX-6020」を発売する。イノテックは、国内組み込みボードベンダーとして後発プレイヤーながらも、最終顧客のみならず、製品に搭載するメモリやOSのベンダーからも高い評価を獲得していった。

「Bay Trail」を搭載する組み込みCPUボード「VX-6020」
「Bay Trail」を搭載する組み込みCPUボード「VX-6020」。2014年の発表から現在も販売を続けている[クリックで拡大] 提供:イノテック
イノテック インテリジェントシステムソリューション本部  ISS技術部 技術第2グループの貞弘輝道氏
イノテック インテリジェントシステムソリューション本部 ISS技術部 技術第2グループの貞弘輝道氏

 同社 インテリジェントシステムソリューション本部 ISS技術部 技術第2グループの貞弘輝道氏はINNINGS事業の強みをこう語る。

 「当社が得意とするのはハードウェアだけではありません。例えばWindows系のOSを搭載するとライセンス費がかかるため、製品を比較的多く量産するお客さまはLinux系のOSを搭載したいと考えます。当社はこうした要求にもマルチOSの技術とノウハウで対応できる、ソフトウェア面での力量も有しています」

 この言葉を裏付けるようにイノテックの組み込み用CPUボードとBOX型PCの累計出荷台数は、2015年の5万台から、2019年に10万台、2025年に20万台を達成しており加速度的な伸びを見せている。しかし菅氏は「それでもINNINGS製品の知名度はまだまだ十分とはいえないと考えています」と述べる。

INNINGS事業の組み込みCPUボード/BOX型PCの出荷台数の推移
INNINGS事業の組み込みCPUボード/BOX型PCの出荷台数の推移[クリックで拡大] 提供:イノテック

 組み込みCPUボードのライフサイクルは平均5〜7年だ。つまり、次期選定までに約7年のインターバルが存在するが、これを考慮したとき、INNINGS事業が急成長を始める2019年以前に組み込みCPUボードを導入した企業は、INNINGSのことを知らない可能性がある。「従って、今後の市場拡大に向けてはこのターゲット層に向けた認知度向上が重要な施策となります」(菅氏)

 そこでイノテックが注力しているのが、INNINGSが多くの顧客から高く評価され、選ばれている「4つの理由」の訴求である。

INNINGSが選ばれる4つの理由
INNINGSが選ばれる4つの理由[クリックで拡大] 提供:イノテック

 1つ目は、「高品質・高信頼性・充実のスペック」。自社開発と国内製造による厳格な品質管理を行い、厳しい信頼性評価試験をパスした製品のみを提供している。

 2つ目は、「メンテナンスフリー」。将来も安心な長期供給を保証するとともに、瞬停対策も徹底して予期せぬ停止を防止する。さらに強化されたRAS(信頼性、可用性、保守性)機能により、システムの健全性を常時監視する。

 3つ目は、「安心サポート」。設計者による的確な技術サポートや、BIOS/OSへの柔軟な対応で、顧客のニーズに応える。さらに厳格な変更管理と信頼性の高い修理サービスの提供を通じて、長期的な安定稼働をサポートする。

 4つ目は、「カスタマイズサポート」。低予算や短納期といった要望にも応え、豊富なカスタマイズプランを提案。筐体カラー変更などのミニマムプランから、高度な機能追加まで幅広く対応しており、CPUボード自体をカスタマイズする例もある。

 中でも製造業にとって重要な要件となるのは、2つ目に挙げた「メンテナンスフリー」の特長ではないだろうか。イノテックはこれをどうやって実現しているのか。

 「VxWorksの時代から組み込みソフトウェアを数多く手掛けてきた当社は、例えばBIOSについてもソースコードを入手し、中身を理解し、最適なものを提供します。このこだわりが長期間にわたる機器の安定課題を支えています」(貞弘氏)

 「INNINGS製品の基本コンセプトの一つに“無人運転”があります。お客さまが機器を運用する際に、できるだけ現地に行かずに対応するための機能を盛り込んでいます」(田中氏)

 実際にイノテックがハードウェアとソフトウェアの両面で培ってきた知見が、重大なトラブルを未然に防止した例もある。

 「2016〜2017年に発生したCPUの不具合問題についても、各社対応に温度差がある中、当社はそのリスクを重要視し、先回りして対応ドライバを供給しました。結果、ほぼ全てのお客さまの製品で長期稼働後の不具合が回避され、当社の対応が高く評価されました」(田中氏)

次の20年に向けた展望と新技術への挑戦

 そしてイノテックは、既に「次の20年」を見据えた取り組みを開始している。その先駆けと言うべきが、2024年4月にリリースした「EdgeFACE(エッジフェイス)」と呼ばれる顔認証システムである。

「EdgeFACE」の概要
「EdgeFACE」の概要[クリックで拡大] 提供:イノテック

 EdgeFACEは、その名の通りエッジ環境で稼働する顔認証システムである。自社製ハードウェアと国産AIエンジン/ソフトウェアを一体にしたもので、開発と運用に必要なオンプレミスのPCとSDK(ソフトウェア開発キット)をパッケージで提供している。しかも最小構成でPC1台からスモールスタートできるのがメリットだ。「このEdgeFACEを契機に、今後に向けてもエッジコンピューティングやAIといった技術に対するチャレンジを、どんどん加速させていきます」(菅氏)

 また、こうした新ビジネスを推進する上では、さまざまな分野に特化した要素技術に強みを持つ企業とのパートナーシップの拡大も不可欠だ。

 菅氏は「例えばデータ解析やMBDのツールとして有名なMATLAB/Simulinkを販売しているMathWorksとは5〜6年前から連携しており、展示会に共同出展するなど協業を進めています。組み込み分野だけに限らず、幅広い業界のリーダーとのつながりを広げていきます」と説明する。

 この構想を受けて、「お客さまがより容易に目的のアプリケーションを実装できるような製品群を整備していきます」と語るのは田中氏だ。「ソフトウェアの観点からは、組み込みCPUボードやBOX型PCだけでなく、サーバ領域におけるソリューション拡充にも注力していきます」と貞弘氏も語っており、イノテックは組み込みCPUボード/BOX型PCの専業メーカーからのさらなる進化を追い求めていく。

左から、イノテックの菅彰吾氏、田中一彦氏、貞弘輝道氏
左から、イノテックの菅彰吾氏、田中一彦氏、貞弘輝道氏[クリックで拡大]

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提供:イノテック株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年10月4日

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