ツール導入で終わらせない 国内外でデータ人材育成に挑む東洋エンジニアリング:DXでのCoE活動
データ基盤やデジタルツールを十分に活用してデータドリブン組織を実現するには、基盤やツールの認知度向上やトレーニングなど「定着化」に向けた施策が必要になる。その成功事例として、本稿では東洋エンジニアリングにおけるCoE活動を紹介したい。
データに基づく意思決定を可能にする環境を作り、勘と経験に依存した業務から脱却、迅速なアクションにつなげる。こうしたデータドリブンな組織の実現を、社内DX(デジタルトランスフォーメーション)の目標に掲げる企業は少なくない。問題は、どうすればそれを実現できるかだ。
大前提として、適切なデータ基盤やデジタルツール選びはとても大事だ。ただし、それだけでは十分ではない。重要なのが基盤やツールの定着化という視点だ。せっかく導入しても、実際に使うユーザーがごく一部にとどまるのであれば、組織全体での高い導入効果は望めない。そもそもの基盤やツールの認知度を社内で高めるとともに、使いこなせる人材を組織横断で育成していく必要がある。
これらの課題に正面から取り組んでいるのが、グローバルな舞台でプラント建設を手掛けている大手エンジニアリング企業の東洋エンジニアリングだ。同社がどのように課題をクリアし、データドリブンな業務を実現しているかを見てみよう。
デジタルツール導入でも変わらなかったアナログ業務
東洋エンジニアリングがデータドリブン企業への変革を推進していくための基盤として導入したのが、データの準備から分析までデータの利活用を一貫して支援するソフトウェアプラットフォーム「Alteryx」である。
全てのユーザーが必要なデータに容易にアクセスできる環境を作り、どんなシステムとも統合可能な環境を実現する。これにより、導入企業における意思決定の質とスピードが向上する。多種多様なデータを簡単に準備、ブレンドしたAI(人工知能)モデルを自動生成することも可能で、ユーザーに新たなインサイトをもたらす。
東洋エンジニアリング DXoT推進部の宮澤忠士氏は、Alteryxの導入以前を振り返り、「ビジネスの特殊性もあり、データ利活用と呼べるような取り組みはかなり限定されていました」と語った。
同社はプラントのEPC(Engineering:設計、Procurement:調達、Construction:建設)を事業の3本柱に据えている。数百億円から数千億円単位の大規模なプロジェクトが中心で、1案件当たりのプロジェクト工期はどうしても長くなる。宮澤氏は「当社のような長工期のプロジェクトベースでのビジネス環境であると、いわゆるビッグデータで重要な要素であるデータの量(Volume)、データの種類(Variety)、データの発生頻度・更新頻度(Velocity)を満たすようなデータ蓄積が困難な状況です。また、プロジェクトとはそもそも固有のモノであり、標準化された方法で全てに対応することが困難であることも背景にあり、蓄積したデータを横断で活用するというよりも、プロジェクト毎に生成したデータや情報を活用することが主であったため、大量のデータを横断して解析・活用するという活動はあまりなされていませんでした」と説明する。
データのサイロ化も、利活用の阻害要因となっていた。海外で建設されるプラントのデータは、担当した各地域のグループ企業が管理している。「各社に問い合わせて必要なデータを得るためには、問い合わせ、承認などの煩雑な手続きを経なければならず、諦めてしまうケースも少なくありませんでした」(宮澤氏)。結果として、同社では紙によるデータ管理が残り、それに伴い業務プロセスの改革も遅れていた。
例えば設計部門では、2D CADや3Dモデリング、構造解析や流体解析、シミュレーションなどのソフトウェアが導入され、デジタル化自体は進んでいた。しかし、設計部門間の設計変更の履歴管理では、作業実施前後の図面を一度紙に印刷して並べ、当該箇所を蛍光ペンでマークして確認し、Excelに転記するといったアナログ手法が当たり前のように行われていた。
非効率な業務から脱却するには、全社的なデータ利活用を加速する必要があった。同社は既成のパッケージ製品導入や、ソフトウェアの自社開発、Excel利用の拡大などさまざまな方法を検討してきた。しかし、どれもなかなかうまく機能しなかった。
試行錯誤を繰り返す中でたどり着き、最終的に選んだのがAlteryxだった。「データ処理の高速性や操作の直感性、多様なデータソースを選択できる点が魅力でした。一番の決め手となったのは、業務プロセスのワークフロー化が容易なこと。業務をよく知る担当者が直接ワークフローを作成、調整すること、他の担当者が作成したワークフローでも内容を確認して調整できること、すなわち業務プロセスのブラックボックス化を避けることができたことです。当社のデータ利活用における新たなスタンダードが見えたと感じました」(宮澤氏)。
グローバルでCoE活動を展開
先にも述べた通り、どんなに優れたデジタルツールでも、単にそれを導入するだけでデータドリブン企業への変革を実現できるわけではない。そこで東洋エンジニアリングはCoE(Center of Excellence)活動に注力している。データ利活用に関するノウハウを1カ所に集中することで、Alteryxの全社的な活用を後押しすることをミッションとする。
東洋エンジニアリングがCoEの重要性を強く実感したのは2020年頃だ。当時、同社では日本国内を除き、海外のグループ会社でせっかく導入したAlteryxの浸透が進まない状況に悩まされていた。そこで解決のカギを握ると注目したのが、CoEだ。
以前よりAlteryxのようなツールを全社に普及し、定着させる上で、CoEのような組織は欠かせないと考えており、CoEを創設し、同組織を中心に改革を推進することを決めた。
ここでは東洋エンジニアリングのCoEが実際に行っている取り組みを5つ紹介したい。1つ目は、Alteryxの活用事例の収集と、社内での情報共有だ。DXのため活動するさまざまなチームや部門のユースケースを取りまとめて社内ポータルサイトやDXタスクの成果報告会で情報発信している。
2つ目は、Alteryxのユーザートレーニングの企画と実施だ。これまで国内拠点のみを対象に行ってきたが、2023年度からは海外拠点でも取り組みを開始している。
3つ目は、社内から寄せられるAlteryx活用のための相談対応だ。各部より業務効率化の相談を受けた際に、活用方法の提案や活用事例を紹介している。また相談者側から「この業務にAlteryxを活用したら効率化できそうか」とアドバイスを求められることもある。東洋エンジニアリング DXoT推進部の浅野有夏里氏は「この取り組みが奏功し、現在では『Alteryx』という言葉が社内で一般用語として通じるようになりました。知名度向上を実感しています」と語る。
4つ目は、海外を含めた複数拠点や部署横断での展開の支援だ。国や部署が異なれば、Alteryxへの認識も大きく違ってくる。「費用対効果を強く気にするマネジャーがいれば、Alteryxの技術者とのダイレクトなコミュニケーションを求めるユーザーもいる。ニーズには拠点や部署ごとの“文化”が色濃く表れるのです。それを踏まえて、少しでも期待に応える支援ができるよう心掛けています」(浅野氏)。
そして5つ目がポータルサイトの管理だ。Alteryxの活用事例などの情報を集約して掲載している他、ユーザーのレベルに合わせたトレーニング用のコンテンツやTIPSなどを取りそろえている。途中参加の初心者ユーザーがツール活用時に戸惑わずに済むようにしている。
「さらにマネジメント層向けの機能として、拠点や部署ごとのユーザーのトレーニング受講状況などを一覧して把握できるダッシュボードも提供しています」(浅野氏)
当初は日本国内から活動をスタートしたCoE活動だが、現在は海外の各拠点から1〜2人のメンバーを任命し、グローバル全体で連携しあってAlteryxの活用を後押しする体制を整備した。2024年7月からは日本やインドネシア、インド、マレーシア、中国、韓国の各拠点横断でのトレーニングも開始し、参加者は合計で250人以上に達した。
Alteryxを「共通言語」に
グローバルで組織横断的な活動を行う東洋エンジニアリングのCoEだが、これを実現した背景には、Alteryxの日本法人であるアルテリックス・ジャパンによるサポートがある。
「アルテリックス・ジャパンのコンサルタントは、カスタマーサクセスサービス『Premier Success』の一環でCoEに参加し、トレーニングの全体計画立案に的確な助言を行ってくれています。日本語と英語のどちらも流ちょうに対応し、ソフトウェアの技術サポートにおける日本と海外拠点の橋渡し役となるなど、非常に心強い存在となっています」(宮澤氏)
こうしたサポートを受けて、東洋エンジニアリングはAlteryxの活用をさらに加速するための強力な陣容を整えた。人材面で言えば、Alteryx のエキスパートの内、コミュニティーへの貢献度が高いユーザーに贈られるACEという称号があるが、これを2人が取得している。ACEの称号をもつユーザーは、全世界でわずか60人程度、日本には同社の2人を含めて3人しかいない。
また、Alteryxの認定技術者の最高峰資格「Alteryx Designer Expert」を社内の1人が取得した。これに次ぐ上級資格「Alteryx Designer Advanced」は32人、中級資格「Alteryx Designer Core」は73人が認定を受けている※。宮澤氏は「グループ全体で7000人、日本国内の従業員数約1000人に対して、それなりの割合に達してきており、誇れる結果だと思っています」と胸を張る。
※グループ全体で集計(2024年8月20日時点)
実際にAlteryx活用による成果も表れてきている。「人事部門では労務費の予算作成にAlteryxを活用し、作業工数30%削減の効果をもたらしています。また経理部門では決算業務の効率化や早期化をはじめ、財務会計データの検索性の向上などを実現しています」(浅野氏)。
東洋エンジニアリングは今後、日本とグローバル各拠点間の連携を強化しつつ、さらに活発なCoE活動を展開していく計画だ。宮澤氏は「Alteryxの習熟度を高める取り組みは、それ自体がデータサイエンスの領域につながり、社内のDX人材の拡大に貢献します。その意味でも、Alteryxを全社の“共通言語”として定着させたいと考えています」と展望を語る。組織的なデータ利活用を次のステップに進めるため、CoEの新たなチャレンジはさらに加速していくだろう。
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提供:アルテリックス・ジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年10月29日