安川電機が考えるスマート工場化のステップ、カギは「現場データ」の扱い方:スマートファクトリー
スマート工場化は大きな注目を集めているものの成果を生み出せていない企業も多い。どういうステップと考え方で取り組んでいけばよいのだろうか。長年製造現場を支え、スマート工場化のコンセプトなども示す安川電機に話を聞いた。
グローバル化やニーズの多様化、製品の複雑化、人手不足などの状況などに対応するために、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの先進デジタル技術を採用したスマート工場化への取り組みが加速している。ただ、現状では「思ったほどの成果が出ていない」としている製造現場が多い。なぜ、こうした状況が生まれているのだろうか。
長年、製造現場を支えるロボットや制御機器を提供してきた安川電機において、スマート工場実現のソリューションコンセプト「i3-Mechatronics(アイキューブメカトロニクス)」を主導してきた取締役 常務執行役員で、ロボット事業部長の小川昌寛氏に、スマート工場の課題とステップについて話を聞いた。
スマート工場化ではまだ大きな成果が出ていない
スマート工場化の進捗状況について、小川氏は「日本では労働人口が減少する中、多品種少量生産が中心となっていますが、自動化で難しさがありブレークスルーできていない状況です。一方で中国は、量の見込める生産物が多いので専用自動化が進んでおり、強い牽引(けんいん)力があります。ただ、スマート化についてはまだまだこれからという状況です。欧米は量があるものについては自動化が進んでいますが、そうでないところに力をかけるのではなく、量産をさらにスマート化に進める方向性だと感じています」と各地域の状況について語る。
スマート工場化はドイツがインダストリー4.0を発表してから一気に盛り上がり始めたが、既にコンセプトの発表から10年が経過し、アーキテクチャなどの枠組みが示されてからも約5年が経過している。一定期間を経る中でもなかなか進んでいない理由として小川氏は現場データを活用する枠組みの問題を挙げる。
「工場の生産性や持続可能性という意味で、スマート工場の将来的な潜在力についてはほぼ全ての企業が受け入れています。しかし、そこに向けてどのような形で構築するのかは、それぞれの企業の置かれている環境によって変わります。基本的にはスマート工場化の全ての根幹は製造現場における『オートメーション+データ』ですが、これをどう構築するのかを整備できてようやく進むものだと考えます」と小川氏は指摘する。
安川電機が提唱する「i3-Mechatronics」
こうしたスマート工場化のステップを明確化するために、安川電機が2017年に示したのが、スマート工場実現のソリューションコンセプト「i3-Mechatronics」である。
「i3-Mechatronics」はデータ活用によるメカトロニクスの進化を目指したスマート工場実現に向けたソリューションコンセプトで、「i」には「integrated(統合的に)」「intelligent(知能的に)」「innovative(革新的に)」の3つの意味が込められている。小川氏は同コンセプトに込めた思いとして「順番が大切です」と強調する。
「できる姿がイメージできても、実際に活用できる製造現場のデータがなければ、価値を得ることはできません。そういう意味で最初の『integrated』から始めなければなりません。また、製造現場をどのように統合するかという点については個々のモノベースで考えても難しく『コト』ベースのソリューションでどういう形がふさわしいかを考えることが必要です。『コト』が動けばそれに付随してデータが生まれます。それを解釈するのが『intelligent』です。そして、データをベースとした取り組みを定着させていくことで『innovative』を生み出していくという順番になります」と小川氏は考えを述べている。
安川電機では最初のステップとなる「integrated」を実現するためにさまざまなツールやソリューションを用意している。既に、製造現場から生まれるさまざまなデータを一元的に収集して管理し「見える化」や「分析」が可能なソフトウェアツールとして「YASKAWA Cockpit(YCP)」を2018年に製品化。現場からデータを吸い上げ、そのデータを活用し「intelligent」に結び付ける取り組みを進めている。
現場データを生かす「YRMコントローラ(仮称)」の価値
「YCP」は現場からの制御データなどを統合する役割を果たしているが、さらにこれらの『現場の動き』である制御データを取りまとめる機器として2021年初めに投入予定としているのが「YRMコントローラ(仮称)」である。
同機器内にPLCやロボットコントローラー、マシンコントローラーなどの制御機能を組み込むことができる「統合型制御機器」としての役割を果たす一方で、これらのコントローラーで統括する製造ラインの情報にタイムスタンプを与えて「YCP」に受け渡す「データ整理機器」としての役割を果たす。これにより、製造データを活用可能な形で収集する支援を行うとともに、統合型制御によりフレキシブルなライン構築を行えるようになる。
小川氏は「スマート工場化でデータ収集が進まない企業は多くありますが、データ活用の重要なポイントは『時系列を合わせたデータ』にあると考えています。共通のタイムスタンプを振ったデータであれば後で比較することでさまざまな知見を導き出すことができます。特に品質面では大きな役割を果たします。製品1つ当たりのトレーサビリティーの高度化などを実現できます」と新しいコントローラーの価値について語っている。
安川電機ではこの他にも「integrated」を効果的に実現するためのAIの開発なども推進。さらに、1社だけで実現できない領域では、パートナー企業などとのコミュニティー「i3-Mechatronics CLUB」を設立し、共同でのスマート工場プロジェクト推進などに取り組んでいる。小川氏は「『i3-Mechatronics CLUB』には現在は100社以上が参加しています。工場の課題解決に関する技術を持つ企業が対等の関係で協力できる枠組みとし、スマート工場そのものの活性化に貢献していきます」と語っている。
「YRMコントローラ(仮称)」の価値をオンラインイベントで
今回紹介した安川電機の「YRMコントローラ(仮称)」によるデータ活用ソリューションを紹介するオンラインイベント「i3-Mechatronics World」が2021年2月1〜28日に開催されます。同イベントではこの新しいコントローラーが生産セルにおいて、ワークのステータスデータと生産のプロセスデータを連携し機器の動きに変えることで品質の向上や変種変量生産といったフレキシブルな生産セルのデモを披露しています。以下のWebサイトからお申し込み可能ですので、ぜひご参加ください。
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提供:株式会社安川電機
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年2月28日