IoT時代のアナリティクスはエンジニアリングデータが主役になる:MONOist IoT Forum 東京 講演レポート
製造業におけるIoTでは、ERPなどの従来のITシステムで扱うビジネスデータだけでなく、設計開発や製品運用時に得られるエンジニアリングデータをも含めたデータ活用が進むといわれる。このエンジニアリングデータはどのように活用すればよいのか。またそのためには何が必要なのだろうか。
2016年12月7日、東京都内でMONOistを含むITmediaの産業向け5メディアが主催する「MONOist IoT Forum IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜」が開催された。
「製造業のIoT活用を加速する開発環境とは」と題したMathWorks Japanのセッションでは、製造業がIoTを活用していく上で必要不可欠な「エンジニアリングデータ」について解説するとともに、必要となるコトやモノ、求められる開発環境について考察した。
企業の関心はエンジニアリングデータ活用へ
エンジニアリングデータは、生産装置に装備されているセンサーのデータや、画像、動画などを指し、従来活用されてきた顧客のプロファイルや、売上データ、在庫データなどのビジネスデータとは異なる。
では、実際にどのようなデータが活用されているのか。米国のITアドバイザリ企業、ガートナーが2016年3月に発表した調査結果によると、現在利用しているデータはビジネスデータ(図版内の水色のライン)が圧倒的に多い。しかし将来利用を計画しているデータ(図版内の赤色のライン)となると様相は一変。今後はセンサーや画像など、エンジニアリングデータも使っていきたいと考えている企業が多いことが分かる。
エンジニアリングデータの活用事例としては、製造装置のセンサー信号を基に予知保全を行う、ビル内外の温度や湿度などのデータを用いて空調設備のエネルギー消費を抑制する、トラックに装着されたセンサーによって障害物を検知して止める……といったケースがある。
MathWorks Japan インダストリーマーケティング部 IA&Mインダストリーマーケティングマネジャーの遠山巧氏は「当社では、起きている事象の理解、将来の事象の予測、意思決定もしくは行動への指針を目的に適用されるアナリティクスを『アドバンスト・アナリティクス』と呼んでいる。アドバンスト・アナリティクスは活用される範囲が広がりつつある。その背景には、目の前に膨大なデータ、いわゆるビッグデータが存在し、さまざまな技術手法を使える開発環境も整った。計算能力も向上して高速処理が可能になったことも影響している」という。
開発環境に求められる要件は?
エンジニアリングデータを活用したアナリティクスとは、どのようなアーキテクチャなのか。
ビジネスデータとエンジニアリングデータを活用したアナリティクスの大まかな構造は次のようになる。まず、ビジネスデータは従来通り、ITシステムからクラウドやサーバに収集し、センサーや計測器などから得られる膨大なエンジニアリングデータも、同様にクラウドやサーバに集める。この両方のデータを統合して1つのデータセットとしてアナリティクスを行い、構築された予測モデルをITシステムに、また組み込みシステムに実装するというものだ。
これを実現するためには、まず従来のビジネスデータに加え、今後活用が進むエンジニアリングデータもあわせてアナリティクスを行える開発環境が必須となる。昨今トレンドとなってきているリアルタイム性の高いアナリティクスのためには、構築したアルゴリズムをITシステムだけでなく、組み込みシステムにも実装できなければならない。最も望ましいのは、これら全てを1つの開発環境で実現できることだ。
重要なのは、アナリティクスを行う人材、データサイエンティストである。遠山氏は「データサイエンティストには、製造装置などドメインの専門知識、予測モデルを実装できるコーディングとインテグレーションの能力、さまざまな技術手法を試すことができる統計や数学的知識が求められる」と指摘。
ビッグデータの活用が急速に進む一方で、これらの能力や知識を兼ね備えた人材は世界的に不足しているのが現実だ。将来のための人材育成も急務ではあるが、今すぐアナリティクスを行うためには、データサイエンティストのタスクを補うことができる、エンジニアにも容易に扱える開発環境が必要だ。
IoTの加速をサポートしてくれる「MATLAB」
MathWorksが提供している「MATLAB」は、ビジネスデータとエンジニアリングデータの一体活用に対応している。MATLABは、世界中の数百万人の技術者や科学者が設計や解析に使用している数値解析ソフトウェアで、機械学習や統計的手法から最適化、制御アプリケーションの構築までカバー。ITシステムと組み込みシステム、それぞれへの実装も1つの環境で可能にしている統合開発環境だ。
遠山氏は、MATLABがデータサイエンティストの支援になれると説明。「ビッグデータの取り扱いに対応するため、ビジネスデータだけでなくエンジニアリングデータを取り込むインタフェースを標準でサポートしている。動画や画像、音声データの処理が可能なツールボックスも備えている。マルチコアCPU、GPUによる計算処理に加え、分散処理にも対応している。既に自社で分散処理システムを持っている場合にもMATLABに統合できる」(遠山氏)。さらに、機械学習や深層学習を行うツールボックスもサポートしている。
データアナリティクスを行うための数々の技術手法、ワークフローやアプリが多く搭載されており、データサイエンティストのタスクを容易にし、エンジニアでもアナリティクスや実装を可能にしてくれる。
既に、MATLABによってエンジニアリングデータを活用している企業では開発期間の短縮、コストやエネルギーの大幅な削減など効果をあげており、機能や性能だけでなく、信頼性や品質、コンサルティングサービスに対する評価も高い。また、同社は人材不足のデータサイエンティストの育成にも力を注いでいる。MATLABを用いた実践的なデータアナリティクスをオンライン上で無料で受講できるMOOCs(Massive Open Online Courses)も支援している。
MathWorksでは、エンジニアリングデータを用いたアナリティクスのことを、「エンジニアリング・ドリブン・アドバンスト・アナリティクス」と呼んでいる。「現在ビジネスデータによるアナリティクスを実践している企業も、今後はエンジニアリングデータもあわせて取り扱う必要性が高まると考えられる。エンジニアリング・ドリブン・アドバンスト・アナリティクスは、これから増大する」と遠山氏。ますますIoT活用が加速する製造業にとって、MATLABは強力なサポートとなりそうだ。
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