検索
Special

AIの力で“秘伝のシミュレーション”を武器に、NGKとLaboro.AIが協業で切り開いた新たなサービス属人化を乗り越えるカスタムAI開発

製造業の現場では、多くの知見が属人化してしまうことが課題となっている。その課題に対し、協業を通じてAIの力で打開を図ったのが、NGKとLaboro.AIの取り組みである。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena
PR

新サービスの事業化、課題となった“15年モノ”のExcel

 2026年4月1日に社名を変更したNGK(旧:日本ガイシ)では、セラミック製品の展開とともに、「コト売り」として技術力を生かした新規事業の創出を進めている。その1つとして、独自の赤外線照射技術を応用した医薬品開発向け実験受託事業「有機化合物結晶探索サービス」を展開している。

 これは、医薬品を錠剤などで提供するために必要な結晶構造を、NGK独自の赤外線照射およびその制御技術を用いて探索する実験受託サービスだ。従来は結晶構造を狙って作り出すことは難しかったが、この技術を用いることで、未知の結晶形の探索や目的の結晶形を得る条件探索を早めることができる。

photo
「有機化合物結晶探索サービス」の仕組み[クリックで拡大] 提供:NGK

 ただ、サービスとして確立するのは簡単ではなかった。赤外線を用いた結晶制御技術はNGK独自技術だが、目的の結晶形を得るための条件を導き出すには、温度変化や溶媒の蒸発、濃度変化など、複数の現象を考慮する必要がある。NGKでは、これらの物理法則や化学法則を数式で表し、結晶化の挙動を予測するための計算プログラムを、担当者であるNGK  製造技術統括部 CAE推進部 シニアプロフェッショナル、博士(工学)の近藤良夫氏がほぼ1人で構築したという。

photo
NGK 製造技術統括部 CAE推進部 シニアプロフェッショナル、博士(工学)の近藤良夫氏

 この計算モデルには約150本の方程式が組み込まれ、改良を重ねる中で複雑化も進んでいた。加えてNGKでは、同サービスの事業化に当たりシミュレーションを組み合わせることを考えていた。狙った結晶形が得られる理由を説明し、条件検討や次の提案まで行うことができれば、顧客への説得力は高まり、実験受託にとどまらず、結晶化技術のパートナーとして伴走できる。

 NGKの近藤氏は「15年の年月をかけて、オリジナルの思想も加えながら改良を重ねた理論モデルをExcelの各セルに直接書き込みながらプログラムとして構築してきました。そのため、自分以外には扱いにくくどう計算しているのか分からない“秘伝のExcel”状態になっていました。このままでは会社の武器にすることは難しく、さらなる技術改良や技術継承にも限界がありました」と語る。

AIの知見に加え、物理や数理の知見も必須だった実装パートナー

photo
NGK 製造技術統括部 CAE推進部長の惣川真吾氏

 これを解決するために協業先として白羽の矢を立てたのが、Laboro.AIだった。Laboro.AIと協業を進めることにしたポイントとして、NGK 製造技術統括部 CAE推進部長の惣川真吾氏は、AI(人工知能)やITの知見に加え、物理や数理の知見を持つ人材がそろっていた点を挙げる。

 「“秘伝のExcel”には約150本の方程式が含まれており、それぞれが互いに関係し合っています。物理や化学に基づく数式が何を意味しているのか理解してもらえなければ、スムーズに協業を進められません。Laboro.AIさんには、“秘伝のプログラム”の物理的な部分にも興味を示してもらい、協業するならこうした企業だという確信がありました」とNGK 惣川氏は強調する。

 Laboro.AIは、2016年設立の、機械学習を活用したオーダーメイド型の「カスタムAI」の開発と導入支援を手掛ける企業だ。画一的なパッケージ型AIでは対応しにくい各社特有の課題に対し、顧客のビジネスや現場課題を踏まえ、AIで何を実現すべきかを設計/実装し、新しいビジネス施策展開につなげて企業成長を図る「バリューアップ型AIテーマ」を特徴とする。

photo
Laboro.AI ソリューションデザイン部 シニアソリューションカタリストの味八木崇氏

 その中核を担うのが、同社のソリューションデザイン部門だ。一般的なAI導入では、顧客が要件を整理し、開発会社が既存技術やツールを当てはめる形も多い。これに対しLaboro.AIでは、ソリューションデザイナが顧客との対話を通じて課題の背景や事業上の狙いを整理し、「ビジネスで必要な形」を見定めた上で、必要なAI関連技術の開発やその進め方を具体化していく。

 Laboro.AI ソリューションデザイン部 シニアソリューションカタリストの味八木崇氏は「実際にプログラムを書いたり、生成AIを使ったりするのは主に機械学習エンジニアの役割ですが、その前段階として顧客の課題を理解し、どういう技術を使って何を提案すればよいのかを組み立てるのが、われわれソリューションデザイナの役割です」と説明する。

photo
Laboro.AIのバリューアップ型AIテーマへの取り組みのイメージ[クリックで拡大] 提供:Laboro.AI

地道な読み解きと対話が、生成AI活用の土台に

 両社はまず、NGKの近藤氏のExcelを読み解き、組み込まれた数式や計算手順を整理することから着手した。

photo
Laboro.AI ソリューションデザイン部 ソリューションデザイナ、博士(理学)の森雄一朗氏

 NGKとの協業の窓口に立ち、プロジェクトを進めたLaboro.AI ソリューションデザイン部 ソリューションデザイナ、博士(理学)の森雄一朗氏は「AIを使うかどうかの前に、効率的なプログラムを開発できるようにするには、理論そのものを整理し、それに基づいたプログラムが既存のExcelと矛盾のない結果を出力できるようにする必要がありました。しかし、NGKさんの“秘伝のExcel”は、約540列、3600行に及ぶ大規模で複雑なものでした。さらに、長年の改良の中でイレギュラーな処理も含まれていたため、既存資料と照らし合わせ、近藤氏にも来社いただき、各計算がどの物理現象や数式に対応するのかを一つずつ確認していくことが必要でした」と苦労を振り返る。

 こうした作業を積み重ねて“秘伝のExcel”に埋め込まれていた計算内容を数十ページにも及ぶ数式ドキュメントとして整理していった。さらに、ドキュメントの作成後は、整理した計算内容を確認しながら、プログラミング言語に置き換えていった。

 これらの作業を進めていたちょうど同時期に、生成AIの性能が大きく向上し、ビジネスで使える水準のコード生成が現実的になってきた。そこで両社は開発の進め方を見直し、すでに整えていた数式ドキュメントを土台に、計算の前提条件や制約、実装上のルールを生成AIが扱える形に整理した。さらに、手本となるベースコードを参照させることで、生成AIが誤った簡略化や解釈をしないように工夫した。その上で、生成AIが出力したコードを両社で確認しながら、シミュレーションソフトウェアの開発へと取り組みを発展させた。

 これらの取り組みにより、シミュレーションソフトウェアの早期開発につなげるとともに、従来はNGKの近藤氏がほぼ一人で対応していた、顧客のさまざまな要望や条件変更などにも迅速に対応できる仕組みを整えられたという。

photo
シミュレーションソフトウェアの構成[クリックで拡大] 提供:NGK

開発効率化に加え、顧客対応力と技術継承にも効果

 協業による取り組みの効果として、大きく2点が挙げられる。1つ目は、事業面での効果だ。シミュレーションを組み合わせることで、実験結果を示すだけでなく、なぜその条件でその結果が得られたのか、次にどの条件を試すべきかまで提案しやすくなった。顧客要望に応じた条件検討や追加提案を迅速に行えることは、技術的な信頼性を示す上でも重要になる。実験結果に理論的な裏付けを加え、別の結晶形が得られる可能性が低いことまで推定できる点なども顧客への訴求力につながっているという。

 NGKの近藤氏は「過去にご注文をいただいたお客さまからのリピートに加え、新たに興味を持っていただけるお客さまも増えてきました。シミュレーションを組み合わせることで、NGKを結晶探索のパートナーとして見ていただけるお客さまも、3倍程度に増えると見ています」と手応えを語る。

 2つ目は、シミュレーションソフトウェア開発の効率化と品質向上だ。数式ドキュメントを土台としたAIによるコード生成により、ソフトウェア開発における人間の負担は、従来の3分の1程度に抑えられる見込みだ。

 さらに、NGKの近藤氏の知見を形式知化し、会社の技術資産として扱える形にできたことも大きな意義があるという。「これまで近藤氏しか扱えなかった数式、計算手順、前提条件などが数式ドキュメントとして整理されたことで、近藤氏以外もモデルの全体像を把握できるようになりました。実際に、複数のスタッフがドキュメントのレビューに参加し、疑問点や修正点を指摘できるようになっています」とNGKの惣川氏は説明する。

 両社の協業がここまでうまく進んだ背景として、ビジネスでの成功まで寄り添うLaboro.AIの「バリューアップ型AIテーマ」の考え方が大きな役割を果たしている。目指すビジネス的な価値を共有して取り組みを進めることで、単なる受発注の関係にとどまらず、それぞれの専門性を持ち寄って課題に向き合える。

 NGKの惣川氏は「モノづくり企業として現場のビジネス課題に向き合う中で、Laboro.AIさんは当社が依頼したことを実行するだけでなく、課題の本質を踏まえ、『こういうアプローチがよいのではないか』と提案していただけます。そうした提案があったからこそ、今回の取り組みを前に進められたのだと思います」と語る。

 一方、Laboro.AIの味八木氏は「短期のPoC(概念実証)ではなく、長期的な目標を共有してきたからこそ、生成AIによるコード生成が現実的になった時点で方向転換を提案できました」と柔軟な対応でビジネス価値を実現できたことを強調する。

AIの実装で個社の競争力を高め、日本の産業力向上へ

 NGKでは、今回の取り組みで得られた手法を、新製品や製造技術における他のシミュレーション手法開発にも応用していく考えだ。セラミックスのモノづくりでは、例えば焼成炉内部で起きる現象のように、直接見たり測ったりすることが難しい領域も多い。そうした現象をシミュレーションで把握できるようにし、技術開発や条件最適化に生かしていくという。また、Laboro.AIは今回の取り組みを、生成AIと人間が対話しながら仕事を進めていく一例と位置付け、今後もAIの実装を通じて製造業の高度化、効率化を支援していく考えだ。

 日本の製造業では人手不足が深刻化する中、技術や技能の伝承が大きな課題となっている。その中で、AI活用をビジネス面での成功から逆算し、“秘伝のExcel”を一つ一つ丁寧に読み解きながら伴走してくれる今回の協業は、属人的な知見を事業の競争力へと転換する一つの好例といえそうだ。

photo
左からNGKの惣川氏、近藤氏、Laboro.AIの森氏、味八木氏

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:株式会社Laboro.AI
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年7月24日

ページトップに戻る