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リチウムイオンキャパシタとAmston Lakeが実現した「手間なしFAPC」の衝撃産業用PC

イノテックは電源バックアップ機能を搭載したファンレスのFAPC「EMBOX AE1170」を開発した。UPSの蓄電デバイスとして高耐熱リチウムイオンキャパシタを内蔵することで、一般的なUPSに求められる定期的なメンテナンスが不要であり、まさに「手間なしFAPC」として仕上げられている。

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 生産ラインや産業機器などで利用されるFAPCは、一般のPCに比べて、信頼性や堅牢性に優れる、仕様で定められている温度範囲が広い、供給期間およびサポート期間が長いといった違いがある。

 ただし高信頼かつ高堅牢なFAPCであっても、通常のITシステムと同じで安定した電源供給が必要であることには変わりはない。しかし、工場などの電源系統は高調波ノイズが重畳していたり、大電力を消費する他の設備によって電圧低下やサージが発生したりすることが知られていて、これらはときには誤動作の原因になる。

 また、運用方法も問題だ。本来であれば電源オフの前にシャットダウン操作をしてOSを適切に終了させる必要があるが、工場ラインや産業機器では大本のブレーカーやメインスイッチを切って電源全体を遮断するような使い方も多い。データの書き込み中に電源が切れるとファイルやOSが壊れてしまうため、データを保存するような使い方ができなくなる。

 電源の安定化のためには一般にUPS(無停電電源装置)が用いられるが、UPSにも課題がある。多くのUPSで使われているニッケル水素電池などの二次電池は、特に高温条件において時間とともに充放電性能が劣化するため定期的な交換が必要だ。また、製品自体の保証期間も3〜5年程度であり、FAPCのような10年近い長期使用にはあまり向かない。

 電源障害に対して堅牢で、メンテナンスを基本的に必要とせず、しかも電源を切断するような運用にも対応したFAPCが求められていた。そのニーズに取り組んだのがイノテックである。

高耐熱のリチウムイオンキャパシタを内蔵

イノテック インテリジェントシステムソリューション本部 ISS技術部 部長の赤尾光一郎氏
イノテック インテリジェントシステムソリューション本部 ISS技術部 部長の赤尾光一郎氏

 FAPCにおける電源の課題を解決したのが、イノテックが「手間なしFAPC」をコンセプトに開発した「EMBOX AE1170」である。

 特徴は2つある。1つは、UPSの蓄電デバイスとして高耐熱のリチウムイオンキャパシタを搭載したことだ。イノテック インテリジェントシステムソリューション本部 ISS技術部 部長の赤尾光一郎氏は「従来の年数回発生する停電への対応に加えて、電源供給に電圧変動や瞬停が発生するような環境でも安心して使いたい、あるいは、シャットダウン操作をせずに主電源のオンオフだけでシステムを運用したい、といったお客さまのニーズに応える製品です」と説明する。

 もう1つの特徴が、インテルの低消費電力プロセッサーである「Atom」の最新製品である8コア搭載の「Atom x7835RE」を採用したことだ。開発コード名の「Amston Lake」という名称でも知られている。

「EMBOX AE1170」は「Amston Lake」と高耐熱のリチウムイオンキャパシタの搭載によって実現した10年以上使用できるUPSが特徴となっている
「EMBOX AE1170」は「Amston Lake」と高耐熱のリチウムイオンキャパシタの搭載によって実現した10年以上使用できるUPSが特徴となっている[クリックで拡大] 提供:イノテック

 FAPCや組み込み機器では、第6〜8世代のインテル Core プロセッサーファミリーが搭載された製品が現在も広く利用されている。しかし、これらのCPUの登場から10年近くが経過する中で置き換えの検討も始まっている。従来のAtomから2倍以上の性能向上を果たしたAmston Lakeは、これら第6〜8世代のインテル Core プロセッサーファミリーの性能を上回る一方で、消費電力は約7分の1に抑えられている。TDP(熱設計電力)はわずか12Wであり、発熱が少ないためファンが不要となり、いわゆるファンレスを実現した。併せて、充電容量がそれほど大きくないリチウムイオンキャパシタであっても実用上十分なバックアップ時間を確保できる要因にもなっている。

運用の制約を解消しデータ保存も可能に

 EMBOX AE1170が採用した高耐熱のリチウムイオンキャパシタは、自動車部品メーカーのジェイテクトが開発した「Libuddy(R)」である。

 Libuddy(R)は、ジェイテクトが得意とする電動パワーステアリング(EPS)の補助電源として2017年に開発された大容量のリチウムイオンキャパシタである。自動車向けということもあり動作温度範囲は−40〜85℃と広く、低温から高温まで十分な性能が維持されることが特徴になっている。ITシステム向けに用いられる一般的なUPSの動作温度範囲は0〜40℃だが、20〜25℃が推奨範囲として指定されていることが多く、工場のような環境には適さない。Libuddy(R)であれば温度条件が厳しい環境でも問題なく使用できる。

 また、リチウムイオン二次電池では熱暴走反応がよく問題になるが、Libuddy(R)は酸素を含まない活性炭系材料で正極を構成しているため、発火リスクが極めて低いことも特徴である。実際に、ジェイテクトによるくぎ刺し試験において発火や爆発がないことが確認されている。

 さらに100万回もの充放電を繰り返しても容量の劣化や内部抵抗に変化がないという。仮定の話だが、毎日100回もの電源バックアップ動作が発生したとしても10年以上にわたって劣化しないわけで、すなわち定期的な交換(メンテナンス)が不要なことを意味している。しかも、一般のUPSに内蔵されるニッケル水素電池に比べて自己放電が小さいため、長期間使用しない場合でも補充電をほぼ必要としない。

既存のUPSと「Libuddy(R)」を採用した「EMBOX AE1170」のUPSの機能比較
既存のUPSと「Libuddy(R)」を採用した「EMBOX AE1170」のUPSの機能比較[クリックで拡大] 提供:イノテック

 Libuddy(R)は既に量産中で、2022年に日野自動車が参戦したダカールラリーのレース用ハイブリッドシステムに採用された他、2025年3月にトヨタ自動車が発売したLEXUS初の電気自動車専用モデル「RZ」のステアバイワイヤシステムにも採用されており、信頼性や実績については折り紙付きといえるだろう。

 装置や設備への組み込みにも対応するFAPCとして開発されたEMBOX AE1170は、最新CPUのAmston LakeとLibuddy(R)の組み合わせに加えて、UPS専用のソフトウェアが準備されている。赤尾氏は「この専用ソフトウェアをご使用いただくことで、お客さまはすぐにUPS機能の評価が開始できます。また、停電からシャットダウン開始までの時間を設定できたり、バックアップ中に消費した電力量を取得したりすることが可能です。お客さまが安心してUPS機能をご使用いただける準備が整っています」と強調する。

 なお、Libuddy(R)でのバックアップ可能時間は比較的負荷の高いベンチマークソフトを走らせた状態でも150秒以上が確認されているそうで、OSのシャットダウンを完了するには十分といえるだろう。「FAPCの運用でデータの書き込みを諦めていたお客さまも多いかと思いますが、EMBOX AE1170であれば電源断が生じてもファイルを壊さないため安全にデータを書き込むことができます」(赤尾氏)。

保守費用の低減やダウンタイムの最小化が評価されるINNINGS事業

 イノテックは1987年に創業し、半導体、設計用ソフトウェア、各種基板などを中心とした輸入商社として事業を広げてきた。それらのサポートで培ってきた技術力を生かす形で、2000年代前半に組み込みCPUボードの開発を手掛けるようになり、2005年には社名のイノテック(Innotech)にちなんだINNINGS(イニングス)事業を立ち上げた。

 以前からイノテックを知っている人にとっては商社のイメージが強いかもしれないが、メーカーとしては後発ながら20年の歴史と経験を持っており、INNINGSブランドの組み込みCPUボードとBOX型PCの累計出荷台数は20万台を数えるなど着実な成長を続けている。これまではカスタマイズの幅が広い組み込みCPUボードの販売が多かったものの、数年前からはBOX型PCの引き合いも増加しているという。

 INNINGSが産業分野の顧客から評価されている理由として、赤尾氏は「高信頼性」「安全性」「長寿命」「国内製造」「技術サポート」、そしてこれらを可能にする「ハードウェアとソフトウェアの協調設計」を挙げる。実際に保守費用の低減やダウンタイムの最小化が図れるとしてリピーターの顧客も多いそうだ。

イノテックのINNINGS事業が評価される理由
イノテックのINNINGS事業が評価される理由[クリックで拡大] 提供:イノテック

 また、直販を基本としているため、顧客が抱える課題やニーズを直接聞いて製品に反映できるのも同事業の強みだという。「電源が不安定な環境でも安心して使いたい、電源供給が不安定な環境や運用でもデータを保存したいといったニーズは以前からあり、そうしたお客さまの声を反映して開発したのがEMBOX AE1170です」(赤尾氏)。

 INNINGS事業がコンセプトとして掲げる保守費用の低減やダウンタイムの最小化を象徴する製品ともいえ、「手間なしFAPC」としてさまざまな用途に広く提案していく考えだ。

首都圏での初披露は「Edge Tech+ 2025」

 EMBOX AE1170は、2025年10月8〜9日にマリンメッセ福岡で開催された「第2回 [九州]半導体産業展」でお披露目され、電源断のデモに対して来場者から多くの関心が寄せられたという。

 首都圏での初披露の場となるのが、2025年11月19〜21日にパシフィコ横浜で開催される「Edge Tech+ 2025」である。イノテックブースでは、電源断などのデモが行われる予定であり来場の際はぜひチェックしていただきたい。

 UPSにおける二次電池交換のようなメンテナンスが不要で、まさに「手間なし」を実現した新しいコンセプトのEMBOX AE1170が、産業機器や組み込み機器の開発における課題解決に貢献してくれるだろう。なお、EMBOX AE1170は2025年度内の発売を予定している。

※)Libuddy(R)は株式会社ジェイテクトの登録商標です。

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提供:イノテック株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年12月5日

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