SPDMの活用によりハブベアリング設計業務の課題を解決したNTNの取り組みとは:導入事例
製品の要求仕様や性能が多様化・高度化し、CAE活用と解析関連のデータを一元管理して資産化するSPDM運用の重要性が高まっている。精密機器メーカーのNTNはハブベアリングの設計業務の課題に対し、SPDMを基盤とする独自の統合計算自動化システムを構築することで解決を図った。
市場競争の激化や顧客ニーズの多様化、労働者不足など、製造業を取り巻く環境がより一層厳しくなる中、製品開発プロセスのさらなる効率化とリードタイムの短縮が強く求められている。さらに近年、脱炭素社会への貢献も重要な取り組みとなっており、製造過程におけるCO2排出量の削減はもちろんのこと、エネルギー効率に優れ、環境に配慮した製品の開発を目指さなければならない。
このような背景から、自動車業界を中心に浸透しているMBD(Model Based Design)/MBSE(Model Based Systems Engineering)のアプローチを製品開発に取り入れる企業が増えており、設計段階における妥当性の確認や事前検証などを目的にCAEとSPDM(Simulation Process and Data Management)を積極的に活用する動きが生まれている。
業界に先駆けてCAEやSPDMを導入し、設計業務プロセスの効率化と高度化に取り組んでいる企業がある。ベアリング(軸受)やドライブシャフトといった精密機器で世界トップクラスのシェアを誇るNTNだ。同社はCAEおよびSPDMの活用を軸とする独自システムを開発し、ハブベアリングの設計業務プロセスの自動化、設計の最適化と工数/リードタイムの削減を実現した。その具体的な取り組み内容を紹介する。
相反する性能の両立と業務効率化の実現に向けて
1918年創業のNTNは34カ国に212拠点を構え、自動車や産業機械、補修市場向けにビジネスを展開する他、これまでに培ってきたベアリング技術でグローバルにおけるエネルギー消費の抑制や脱炭素社会の実現にも貢献している。
NTN CAE開発研究所 主査の石河智海氏は「ベアリングは自動車をはじめ、建設機械や航空機、鉄道車両、風力発電機などさまざまなものに使われており、用途によって重要な機能や性能は異なります。そのため設計対象が多岐にわたり、それぞれの要求を満たすためにCAEを用いた各種解析が欠かせません。中でも自動車のタイヤの回転を支えるハブベアリングは各自動車の形状に合わせて専用設計した一品一様の部品で、近年は環境対応に伴って要求仕様や性能が多様化、高度化しています」と現状を説明する。
ハブベアリングは車両への組み付け性、小型・軽量化、高い軸受性能の要求に応じて周辺部品を取り込んだユニット化が進み、1980年代中盤から第3世代ハブベアリングが主流となった。その結果、設計パラメーターが増加して制約も増えた。寿命の向上や応力の低減のために剛性を強化する一方で、小型・軽量化も実現しなければならない。これらの要求仕様を満たすには相反する性能の両立が必要だがそのバランスを見極めるのは難しく、検討に多くの時間を要する。
「NTNは、以前から設計業務をサポートする各種計算システムを独自開発してきました。しかし、顧客の要件に合わせて最適化したハブベアリングを今まで以上に早く提案するために、各種設計作業を自動化するシステムの開発が必要となりました」(石河氏)。設計工数とリードタイム削減を実現するには設計諸元の最適化やFEM解析など多くの工数を要していた作業を自動化するのが最善であると考え、独自開発したのが「ABICS」(Axle Bearing Integrated Calculation System)だ。
統合計算自動化システムで設計工数が80%減 作業者によるばらつきも解消
ABICSは各設計作業を自動化し、設計工数やリードタイムを短縮するハブベアリングの統合計算自動化システムだ。ABICSの主な機能は「軸受諸元の最適値探索機能」「3D形状モデルの自動作成機能」「FEM解析の自動実行機能」「ジョブ管理・データ管理機能」の4つで、従来のように専任者に依頼することなく設計者のみで各種作業を実施できる。結果として、顧客要件の入手から設計検討完了までの工数は80%削減された。
軸受諸元の最適値探索機能は、最適な設計諸元をAI(人工知能)に分類される遺伝的アルゴリズムを用いて自動で探索するものだ。軸受諸元は従来、複数の計算ツールを駆使して設計担当者が諸元変更と特性計算を繰り返して最適値を求めていた。そのため作業者の熟練度によって必要な時間にばらつきが生じていた。
ABICSであれば最適値を自動探索できるため、作業者のスキルに依存しない最適設計が可能だ。ハブベアリングの設計業務に携わるNTN 自動車事業本部 アクスル製品ユニット アクスルユニット製品開発部の佐野伊織氏は「これまで設計計算は担当者が要求を検証しながらトライ&エラーを繰り返して最適値を導き出していました。ABICSの導入によって自動で特性計算ができるようになり、工数とリードタイムの大幅な削減が可能になりました」と語る。
3D形状モデルの自動作成機能は、FEM解析および作図に必要な3D形状モデルを自動作成するものだ。これまではCAD専任者が軸受諸元を基に3D形状モデルを作成していたため、待ち時間や作業時間がかかっていた。ABICSは、テンプレート化された形状と寸法パラメーターから3D形状モデルを自動的に作成する。3D CADの操作スキルがない人でも3D形状モデルを作成できるようになり、工数とリードタイムが削減される。
FEM解析の自動実行機能は、応力/全体剛性計算のプリ処理、計算実行、ポスト処理を自動化する。これにより、CAE専任者でなくてもFEM解析ができる。その効果について佐野氏は、「これまでの設計はプロセスごとに分業化されていたことから、軸受設計の担当者がCAD専任者やCAE専任者と密に連絡を取り、納期や進捗(しんちょく)状況を管理する必要がありました。現在はABICSで進捗状況を把握できます。納期管理という観点でも非常に効率化されています」と説明する。
既存情報の活用で注目したいのが、ジョブ管理・データ管理機能だ。これは設計計算結果を一元管理する機能で、過去データを有効活用できる。「いつ、誰が、どんな目的で、どのような方法で、どんな評価をし、どんな結果が得られたのか」といったデータを探索可能だ。
NTN 自動車事業本部 アクスル製品ユニット アクスルユニット製品開発部 開発グループ 主幹の北田達哉氏は、「われわれはこうした情報をデータベース化し、後々の設計に再利用しています。特定の設計値から過去の類似設計を参考にするといったことも可能です。3Dモデルなどは過去データを再利用できますし、解析条件なども過去の資産から流用できます。ABICSとは別の解析においても、これまで全て手動作成していた3Dモデルや解析条件の一部をABICSのデータ資産から流用することによって、解析業務全体の工数が半減しました」とその効果を語る。
解析業務に関するデータを一元管理して資産化できる「i-SPiDM」
ABICSにおけるユーザーインタフェース、ジョブ管理、データ管理を担いシステムの基盤を支えているのが電通国際情報サービス(以下、ISID)の国産SPDMシステム「i-SPiDM(アイ・エスピーディーエム)」だ。i-SPiDMはISIDが2005年に開発したCAE効率化Webフレームワーク「CAE-ONE」の後継データベースシステムで、CAE-ONEを含めるとSPDMとしての実績は15年以上になる。NTNのABICSはもともとCAE-ONEをベースに構築されていたが、現在はi-SPiDMへの移行が完了している。
i-SPiDMは基本的なSPDMの機能に加え、外部システム連携を容易にするコネクターやAI訓練用データ出力機能などを搭載し、検証業務ポータルとしての役割を備えている。ISID エンジニアリングユニット CAE技術2部 プロジェクトディレクターの若林英一氏は「i-SPiDMはカスタマイズも可能で、市販/内製を問わず多くのソフトウェアやシステムと連携可能です。効率的に業務サイクルを回す検証業務ポータルの役割を果たすと同時に、製品設計に関連する検証データを蓄積して資産化する役割を担います」と説明する。
i-SPiDMの豊富な機能のうち、将来のさらなる業務効率化に役立つのがAI訓練用データ出力機能だ。設計パラメーターを入力すると、AIが解析の簡易予測を瞬時に返してくれる。i-SPiDMに蓄積されているデータをAIツールに合わせて柔軟に組み替えて出力することも可能だ。北田氏は「解析関連のデータが蓄積されれば、i-SPiDMのAIツールを使うことで、これまで以上に解析時間を短縮でき、創出された時間をより高度な設計や解析に充てられます」と関心を寄せる。
NTNとISIDのパートナーシップは20年以上にも及ぶ。そうした長い付き合いを踏まえ、石河氏はISIDを「サポート体制を含めて信頼できるパートナーだ」と高く評価し、その理由を次のように述べる。
「ABICSを構築する際、ISIDはわれわれの課題を正しく理解し、要件定義から開発完了までしっかりと支援してくれました。特に素晴らしいと感じたのは、要求の吸い上げです。われわれでは気が付かないことや担当者の立場では言いにくいことなどをうまく吸い上げ、要求に組み入れてくれました。ここまで踏み込んだやりとりができるのはISIDの顧客に対する真摯(しんし)な姿勢であり、大変ありがたく思っています」(石河氏)
ISIDは、高い技術力だけでなく提案力、サポート力に強みを持ち、顧客満足度の高いソリューションを提供し続けている。「われわれはi-SPiDMの開発元として、お客さまから要望を直接吸い上げ、製品やサービスに反映することができます。この強みを生かして今後は製造業の設計解析業務だけではなく、実験業務を含めた検証業務全体のデータプラットフォームとしてDX時代のものづくりに重要なデータ活用を推し進めてまいります」(若林氏)
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提供:NTN株式会社、株式会社電通国際情報サービス
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年12月3日