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アイシン精機の自動駐車技術を支えるCG技術とは?自動運転技術

アイシン精機とシリコンスタジオがCEDEC2020に登壇。次世代自動運転システムの開発において必要になった「駐車場のシミュレーター」をどのように開発したのか、両社のメンバーが語った。

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 アイシン精機とシリコンスタジオは、コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2020(CEDEC2020、開催期間2020年9月2〜4日)において、「Unreal Engineを用いた、駐車スペース検知のための学習データ生成〜次世代自動駐車システム実現に向けて〜」と題し、両社で取り組んだ自動駐車システム開発における「Unreal Engine」の活用事例を紹介した。

 この成果は、アイシン精機 先進開発部の小久保嘉人氏と浅田修作氏、丸山大尭氏、チームリーダーの末次恵久氏、シリコンスタジオ テクノロジー事業本部 技術統括部 テクニカルアート室 CGアーティストの武藤洋介氏、同室 室長の河野駿介氏、同事業本部 プロジェクト管理部 プロジェクトマネージャーの梅村篤志氏の連名による発表だ。

アイシン精機が取り組む次世代自動運転システム

 アイシン精機は自動車を構成する部品3万点のうち、おおよそ1万5000点を手掛ける大手自動車部品メーカーだ。関わる分野も幅広く、走る/曲がる/止まるに加えて、車体の機能性やデザイン性に関連したものや、車内の機能を連携させる情報系や電子系にも携わる。同社が現在注力する分野の1つが次世代自動運転システムの開発で、自動駐車機能など低速域の自動運転システムに取り組んでいる。

 次世代自動運転システムによってアイシン精機が目指すのは、バレーパーキング機能の実現だ。バレーパーキングとは、建物の入り口などの前でドライバーがクルマを降りた後、駐車スペースに無人運転で移動するというもの。帰りは駐車スペースからクルマが無人運転で出庫してドライバーの元に向かう。この技術により、駐車場内での事故防止や駐車場内でのドライバーの移動時間削減、駐車場内のスペースの利用効率を高めるといった恩恵が得られる。

 自動駐車システムで無人運転状態の車両が駐車位置を検知する方法は2パターンだ。1つは駐車スペースの一つ一つに専用センサーを置くなど、バレーパーキング機能向けのインフラを整える方法だが、インフラのコストが高くなるという課題がある。もう1つは、車両に搭載されているカメラを使った駐車スペースの検知だ。既に搭載されているセンサーを活用することでインフラのコストを低減できる。このとき、バレーパーキングのカギを握るのは、駐車枠を高精度に検出できるかどうかという点だ。

 アイシン精機では駐車枠の検知について深層学習(ディープラーニング)を含む機械学習を活用することを検討している。ただ、そのためには膨大な学習データが不可欠であり、全ての学習データに対してアノテーション(正解値付け)が必要になる。アノテーションには多大な工数が発生し、人手でアノテーションを行う中での誤差が認識精度の低下につながるという課題もあった。そこで、アイシン精機はシミュレーターの活用を試みることとした。

自動運転システムのシミュレーターに求められること

 自動運転システムの開発においては、実際に走行して収集した画像データだけでなく、シミュレーターによるCG活用が進んでいる。CGは天候や日照、交通量といった条件を実在する道路だけでなく、架空の道路でも自由に設定でき、汎用(はんよう)性が高いことからさまざまな画像認識機能の開発に貢献できる。すでに複数の企業が自動運転車向けのシミュレーターを展開しているが、既存のシミュレーターは駐車場への対応が十分とはいえなかった。駐車枠の高精度な検知ではさまざまなタイプの枠線を学習する必要があるが、そうした機能は実装されていないのだ。このような状況を受けて、駐車の場面に特化したシミュレーターの自社開発に至った。

 だが、シミュレーターの開発に当たっては幾つかの越えなければならないハードルがある。まずは、学習データと推論データのドメイン(見た目)の違いによる認識精度の低下で、この解決にはより現実感のあるリアルなCGでなければならない。また、天候や時間帯、日照条件などが変更可能であることも必要だ。これは、自動車の利用環境が多種多様であることを踏まえて、幅広い利用シーンをカバーすることが求められるためだ。

 さらに、膨大なパターンの駐車枠に対応することも駐車シミュレーターには必要だ。駐車枠のデザインは施設によって異なり、新たなパターンが随時見つかる可能性もある。そのため、駐車枠のデザインを自由に追加したり、切り替えたりできなければならない。駐車スペースの枠線は使われる色やかすれ方もさまざまであることから、こうした要因についてもシミュレーターで簡単に調整できることが望ましい。


駐車スペースの枠線は施設によってさまざまだ。こうした違いにシミュレーターで対応しやすいことを重視した 出典:アイシン精機

 さらにアイシン精機がシミュレーターで重視したのは、真値の利用判断だ。現実の駐車場走行シーンにおいて、駐車車両の大部分が前方の他の車両などの物体に遮蔽(しゃへい)され、空きスペースであると誤認する場合がある。このような人目でも誤認し得る状況を、厳密な教師データとして深層学習に適用することは必ずしも望ましくないため、シミュレーターの開発では各真値に「誤認しやすさ」という指標の追加を要請した。

標準機能やゲームのノウハウを活用してシンプルな操作を実現

 アイシン精機のこうした要望を受けて、駐車場シミュレーターの制作を担当したのはシリコンスタジオだ。開発した駐車場シミュレーターは、駐車スペース枠線の配置や質感を調整して駐車場のレイアウトを作成した後、環境光や路面のぬれ方、凹凸を調整し、時間帯天候効果を設定、車両の走行パスアニメーションを作成し、アノテーションデータを出力する……というワークフローとなっている。

 ブループリントで制御できる機能とユーザーインタフェース(以下、UI)を開発するとともに、Unreal Engineエディタに標準で用意されている機能を積極的に使うようにしたことで、駐車シーンの拡張に必要なレイアウトの編集やアノテーションデータの書き出しまでが、Unreal Engineエディタ上で完結する。駐車シーンの設定に必要なパラメーターを露出させ、編集を容易にすることを重視した。独自のコンフィグレーターアプリケーションの開発ではなく、Unreal Engineのエディタ機能をコンフィグレーターのように使えるようにしたことで、シミュレーターの自由度を高めている。

 具体的な操作の例を紹介しよう。朝から昼、夕方、夜間という日照条件をシームレスに変化させる場合はUnreal Engineエディタの標準機能である「Sky Atmosphere」を使用する。この機能では、緯度や経度、日時によって日照を設定できるため、調整が容易だ。数理モデルに基づいているため、CGのクオリティーに一定の根拠が担保される。


実際の場所や日時に近い日照条件を設定できる 出典:シリコンスタジオ

 雨で路面がぬれた際の表現や、路面の凹凸の変化には、路面調整パラメーターを使う。凹凸感を変化させる「Undulation」や、路面のぬれた質感を表現する「Wetness」のパラメーターによって、駐車場のシーン全体の質感を変更することが可能だ。これらの設定は、シーンを設定するブループリント(ビジュアルスクリプティングシステム)から、マテリアルの詳細を調整する「マテリアルパラメーターコレクション」を介して1つのUIで複数のマテリアルを操作できるようにしている。制御する対象ごとに補正値のパラメーターが設定できるため、土とコンクリートのぬれ方の違いまで表現することが可能だ。

 駐車場内の駐車スペースのレイアウトには、コンストラクションスクリプトを使用する。駐車スペースの枠線のバリエーション変更や駐車スペースの数やスペースの幅、車止めの有無などパーツごとに設定できる。その際、枠線のかすれ方もリアルに表現できる。シリコンスタジオでは、実物の枠線を観察して劣化の要因を「ひび割れ」「剥離」「摩耗」の3つに分類し、パラメーターとして変更できるようにしている。

 「ひび割れ」は枠線の塗膜が劣化し、表面に細かいクラックが発生した状態だ。「剥離」はひび割れよりも劣化が進行した状態で、塗膜が剥がれて欠損している。「摩耗」は枠線の塗膜がタイヤで削られることによる劣化で、徐々にアスファルトが見えてくる段階から、アスファルトが完全に露出してへこみ部分に枠線の塗料が残った段階に進行する。これらのパラメーターをまとめて少ない項目で調整できるように工夫した。こうした表現は均一に施すのではなく、頂点ペイントでかすれ方に部分的に濃淡を付けられるため、多種多様なバリエーションを用意することが可能だ。


駐車スペースの枠線をリアルに劣化させるだけでなく、部分的に濃淡をつけることも可能だ 出典:シリコンスタジオ

 このシミュレーターでUnreal Engineが出力するアノテーションデータは3種類ある。駐車区画内にオブジェクトや車両があるかどうかの判定、駐車区画の四隅の座標値、駐車車両ごとにIDを付与したマスク画像だ。これらを基に、プログラムで遮蔽判定や車両表示面積の算出を行う。

 アノテーションデータの出力は、ゲーム向けの標準機能で簡易的に行うことが可能だ。ゲーム内でキャラクターが近づくとドアが開く、キャラクターの頭上に情報などUIを表示するといった機能を応用して、駐車区画内に車両があるかどうか、区画内にどのような角度で停車しているか、駐車区画の四隅がどこにあるかをシミュレーターの中で判定できるようにしている。

シリコンスタジオの強みと実績

 アイシン精機とシリコンスタジオの協業は、2019年10月にスタート。駐車場シミュレーターはこのほど完成したばかりで、今後機械学習や深層学習での効果を検証する。

 当初、アイシン精機の社内で次世代自動駐車システムに使用するシミュレーターを検討するに当たってUnreal Engineに着目したものの、自社で開発した実績がなかった。そこでパートナーとなる企業を探す中、候補として挙がったのがシリコンスタジオだった。Webサイトで公開しているCGの品質の高さが決め手となり、アイシン精機からシリコンスタジオに声を掛けた。

 シリコンスタジオは、自社開発によるレンダリングエンジンなどのミドルウェアを有し、3DCG黎明(れいめい)期から国内外で事業を展開。近年はシミュレーターでのUnreal Engineの活用に力を入れている。Unreal Engineはハイエンドのゲーム向けに広く採用されており、高い表現力を持つ。ただ、シミュレーターではゲームほどの品質でUnreal Engineを使いこなせる企業は少ない。シリコンスタジオは、ゲーム制作に携わった経験のあるテクニカルアーティストと、エンジニアが協力できる体制を生かし、ビジュアル品質を向上することで他社にはない強みを発揮している。ゲームは広い範囲の背景を作り込むため、エディタ上での配置の自動化やパラメーター化が行われる。Unreal Engineを使ったシミュレーターにおいても、ゲーム開発を効率化するためのノウハウを活用できるのだ。

 シリコンスタジオにはシミュレーター以外にも、製造業の外観検査などに向けた教師画像となるリアルタイム3D CGの提供、自動車や住宅などのプロダクトビジュアライゼーション、自動車のコックピットなどHMI(ヒューマンマシンインタフェース)のデザインといった幅広い実績がある。こうした事例において、ゲームの作り込みで培われてきた自動化やパラメーター化のノウハウ、CG生成以外の部分を熟知したエンジニアの技術を組み合わせることにより、高度なニーズに応えている。

 3D CGは、製造業での機械学習や深層学習の活用において重要度が増していく。NGパターンが出る環境やシチュエーションが特殊で再現が難しいケース、さらには対象が特殊な形状、質感を保つため既存のツールでは満足できる結果が得られなかったり、大量のデータの用意に想定以上の膨大な時間がかかっていたりする場合などにおいて、画像データを量産できる3D CGが解決できることは多い。シリコンスタジオは3D CGを活用して製造業に広く貢献していく方針だ。

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モノづくりのコスト削減&スピードアップを実現、3D CGを最大限活用する方法

モノづくりの現場で、コストダウンとスピードアップの両立を実現すべく、3D CGの活用が進んでいる。3D CGで何ができるようになるのか。活用法やポテンシャルのほか、ソリューションパートナーに欠かせない要素を見ていく。


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提供:シリコンスタジオ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年11月18日

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