技術者を“インドア”から解放、最新GPU搭載モバイルワークステーションの可能性:モバイルワークステーション
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、製造業の設計開発業務にもリモートワークが求められている。そのソリューションの1つとしてモバイルワークステーションの採用が検討されているが、これまでは業務を行うのに十分な性能を出せないという評価が多かった。しかし、NVIDIAの最新GPUを搭載する「HP ZBook Mobile Workstation」であれば、デスクトップワークステーションに引けをとらない性能を発揮できる。
古来、技術者は“インドア”だった。
彼らの多くは設計室であり研究室であって、膨大な“紙の”資料と“紙の”図面と実験装置と試作品に囲まれて日夜働いていた。膨大な資料と図面がデジタルデータに代わり、実験装置と試作品が物理的ハードウェアからデジタルで再現した仮想空間におけるシミュレーターに移行したことで、ワークステーションと高速なネットワークがあれば事足りるようになったが、それでも、高い処理能力を持つワークステーションは大型のデスクトップタイプが主流で、屋外に持ち出すことは困難だった。
一方で、技術者を必要とする場所は社内他部署や社外関係会社との共同開発や、生産施設もしくはプラントの現場といった“外の世界”に拡大しつつある。さらに、台風や水害、そして震災といった大規模災害が繰り返し発生したことで、開発研究拠点に通うことができない、もしくは、拠点そのものがダメージを受けた場合における事業継続計画の策定にあたってリモートワークの必要性が意識されるようになってきた。そして、2020年になってから全世界規模で問題になっている新型コロナウイルス感染症の感染抑制施策として、リモートワークへの移行が強く求められるようになった。
この変化は、これまで“インドア”だった技術者たちに対しても同様だ。GPUコンピューティングを推進するNVIDIAでは、「Remote Work With NVIDIA」というビジョンを掲げて、技術者たちの活動範囲を開発研究拠点から外に拡張しようとしている。その核となるのは強力なGPUコンピューティングを拠点の外でも利用できるようにするリモートワーク推進ソリューションだ。その1つにモバイルワークステーションに最新のGPU「Quadro RTXシリーズ」を搭載できる「RTX for Mobile」がある。
RTX for Mobileは、グラフィックスアーキテクチャとして「Turing」を採用する。従来アーキテクチャの「Pascal」ではできなかった浮動小数点演算と整数演算の並列処理ができるようになり、リアルタイムレイトレーシングエンジン「RTコア」とディープラーニングに特化した「Tensorコア」を追加した。また、それまで、モバイル向けではデスクトップ向けよりスペックダウンしていたところを、同等のスペックでラインアップを用意した上で、発熱状況に合わせて動作クロックを細かく変更して高い処理能力の維持と軽量薄型を両立する「Max-Qデザイン」の導入やデスクトップ向けにはない「Quadro RTX 3000」を追加するなど、多様なモバイルワークステーションへの搭載に対応している。
「Quadro」のモバイルワークステーション向け製品ラインアップ。白色で示しているのが最新のTuring世代で、「RTX for Mobile」には、デスクトップにはない「RTX 3000」を用意するなど、より細かい対応が可能になった(クリックで拡大)
RTX for Mobileの登場によって、モバイルワークステーションでもデスクトップワークステーション相当の処理能力を発揮することが可能となり、高性能なモバイルワークステーションを持ち歩けるようになったおかげで、インドアを“強いられていた”技術者も、リモートワークに対応することが可能となっている。
技術者の活動領域を拡大する「HP ZBook Mobile Workstation」
時代の変化が求めるRTX for Mobileに対応したモバイルワークステーションは、ノートPCベンダーから各種モデルが登場している。その中で、特に高い支持を得ているのが日本HPの「HP ZBook Mobile Workstation」シリーズだ。日本市場において日本HPのワークステーションは12年連続で国内シェア第1位(「IDC's Worldwide Quarterly Workstation Tracker Share by Company, 2020 Q2」より)という実績を残している。
この理由について、日本HP クライアントソリューション本部ソリューションビジネス部 ビジネスディベロップメントマネージャーの島崎さくら氏は、「ISV認定の動作保証による高い信頼性、東京生産による初期不良低減と短納期、東京サポートによるワークステーションユーザー専用サポート窓口、休日にも対応する翌日オンサイトサポートの3年間保証」を挙げている。
そのHP ZBook Mobile Workstationの最新モデルとして、日本HPが2020年6月29日に発表したのが「ZBook Studio G7」「ZBook Firefly 15 G7」「ZBook Firefly 14 G7」だ。今回発表の“G7”世代のラインアップは、共通の特徴として、堅牢性と軽量薄型ボディーを両立するための素材「CNCアルミニウム」やネジを使用しないユニボディーを採用した。また、処理能力と静音性のトレードオフをユーザーが設定できる「Zパワースライダー」や、ファンの回転数を負荷状況によってスムーズに制御できる「Z予測ファンアルゴリズム」といった機能も搭載している。
これら4機種の中でも、ZBook Studio G7は、Quadro RTXシリーズを搭載したRTX for Mobileに準拠するモデルであり「高性能なれど軽量薄型ボディーでモバイル利用も重視したモデル」(島崎氏)という役割を担う。
例えば、HP ZBook Mobile Workstationラインアップで最上位となる17型ディスプレイ搭載モデルの「ZBook 17 G6」は本体重さが3kg以上、ZBook Studio G7と同じ15.6型ディスプレイを搭載する「ZBook 15 G6」でも2.6kgにもなる。これらに対してZBook Studio G7は、最軽量構成で1.9kgと、2kgを切る軽さを実現している。加えて、カバンへの収納性に影響する本体の厚さに関しても、ZBook 15 G6が最薄部で26mmなのに対してZBook Studio G7は17.9mmと最新のモバイルノートに相当する薄さを実現した。この軽くて薄いボディーに、インテルの最新CPU「Core i7-1085H」とQuadro RTXシリーズを搭載しているのだ。バッテリー駆動時間は最大約14時間で、こちらも最新の薄型軽量モバイルノートと同等レベルを確保している。
ZBook Studio G7は、従来モデルの「ZBook Studio G5」と比較して、演算処理能力が向上したCPUとGPUを搭載しながらも、本体のサイズと重さがコンパクトかつ軽くなっているが、それを可能にした1つの要因がディスプレイベゼルの狭額縁化だ。ZBook Studio G5と比較して上部ベゼル幅が73%減、左右ベゼル幅が52%減、下部ベゼル幅が13%減とそれぞれ狭くなっている。特に大幅に狭くなった上部ベゼルではカメラユニットの小型化も実現している。
CPUとGPUの処理能力とともに作業効率に大きく影響するのがキーボードの使いやすさだが、ZBook Studio G7はその部分にも注力している。キーピッチは18.7×18.7mmとデスクトップPC向けキーボードとほぼ同等のサイズを維持しただけでなく、キーストロークでは1.5〜1.7mmと17.9mmの薄型ボディーとしては十分な“距離”を確保している。加えて、タイピング音を抑制するためにキートップ機構に静音ラバードームと打鍵音を抑制するアンチラトルブラケットを導入した。
エントリーモデルは20万円以下に
一方、エントリーモデルのZBook Firefly 15 G7とZBook Firefly 14 G7は、CPUに省電力を重視した第10世代Coreプロセッサ「Comet Lake」を搭載し、GPUにはPascal世代のQuadroモバイルを採用するが、その分、価格は20万円を切るほどに安く、かつ、本体の重さは14型ディスプレイを搭載するZBook Firefly 14 G7では1.4kgに収まっている。軽量で低価格のモバイルワークステーションを必要とする企業にとっては、有力な選択肢となるモデルといえる。
また、このような需要に応えるZBook Fireflyシリーズの15.6型ディスプレイ搭載モデルとして、今回ZBook Firefly 15 G7が追加されたが、このモデルの存在意義としては、15.6型ディスプレイの他にも「CADユーザーにニーズが高いテンキーを備えていることも訴求していきたい」と島崎氏は語っている。
なお、既にRTX for Mobileに準拠しているZBookシリーズの最上位モデルのZBook 17 G6とZBook 15 G6は、2020年内に後継モデルが登場する予定だ。
リモートワークに必須のセキュリティ機能が充実
これらの HP ZBook Mobile Workstationは、企業の業務用途で特に重視されるセキュリティ機能が充実していることも大きな特徴だ。島崎氏は「新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりリモートワークが求められたことで、モバイルワークステーションの需要も拡大しています。このリモートワークで大きな課題になっているセキュリティは、当社が取り組みを強化してきた分野でもあります」と強調する。例えば、HDDやSSDといったストレージとは別途組み込む「HP ENDPOINT SECURITY CONTROLLER」による状態復帰や、AI(人工知能)の活用で未知のマルウェアに対応する「HP SURE SENSE」などだ。
この他にも、リモートワーク需要の拡大によって高い評価を得ているリモートアクセスソフトウェア「ZCentral Remote Boost」や、ユーザーによりマシンパフォーマンスを最大化可能な「HP Performance Advisor」といったHP独自のソフトウェアも用意している。
DSWSが開く新時代の技術者の可能性とは
現在、NVIDIAは、Quadro RTXシリーズを搭載するワークステーションの新たな活用法として「データサイエンスワークステーション(以下、DSWS)」を提案している。先述した通り、Turingを採用するQuadro RTXシリーズは、リアルタイムレイトレーシングエンジンのRTコアに加えてディープラーニング向けの行列積和演算エンジンTensorコアも搭載しており、高度な3Dグラフィックス処理だけでなく、AI開発をはじめとするデータサイエンスにも力を発揮できる。DSWSは、このデータサイエンス用途に主眼を置いたワークステーションなのだ。
DSWSの導入事例としては、アメリカン航空における貨物輸送モデルの強化による貨物スペースの利用率向上と燃料消費量の削減、そして、NASA(米国航空宇宙局)における太陽の観測画像解析でデータ処理を実施している各ツール(TensorFlow、Dask、CuPy、RAPIDSおよびCuDFなど)の処理速度向上などがある。
これらの事例はデスクトップ型のワークステーションを用いているが、NVIDIAは2020年からRTX for Mobileの中でもハイエンドのQuadro RTX 5000をDSWSに対応可能なラインアップに加えた。つまり、Quadro RTX 5000を搭載するモバイルワークステーションであれば、いつでもどこでもデータサイエンス関連の業務を効率良く行えるようになるわけだ。
そういった需要に対応すべく、Quadro RTX 5000搭載のZBook 17 G6を用いたDSWSソリューションを構築して提供しているのが、情報機器を取り扱う販売代理店のアスクだ。アスク エンタープライズ営業部 FAEグループ グループ長の児島雅之氏によると、ZBookをDSWSソリューションとするには、OSにUbuntu 18.04またはRed Hat Enterprise Linux 7.5を導入する他、NVIDIA認定のデータサイエンスソフトウェアをコンテナ化した「NGC」をプリインストールする必要がある。アスクは、これらの複雑なセットアップ作業を一括して行い、システムインテグレーターなどに供給している。
児島氏は「当社がセットアップすることにより、NVIDIAからの『NGC Ready』の認証が得られます。NGC Readyなモバイルワークステーションは、さまざまなデータサイエンスソフトウェアや開発環境を提供しているNGCにアクセスが可能になり、NVIDIAのディープラーニング関連チームからの直接サポートを受けられるNGCサポート契約の対象にもなるのです」と語る。
従来、データサイエンスに用いるHPCのソフトウェアは、データサイエンティスト自身がセットアップすることがほとんどだった。しかしNGCは、GPUに最適化されたデータサイエンスソフトウェアをコンテナで提供することで、そういったセットアップ業務から解放してくれる。また、AIの開発を加速させるためにデータサイエンティストを雇用する企業側にとっても、その業務環境を一律して提供できるメリットは大きい。
また、アスクが提供するZBook 17 G6を用いたDSWSソリューションは、デスクトップワークステーションと比べても遜色のない処理性能が得られる。「在宅勤務が求められる昨今では、デスクトップだけでなくモバイルでもデータサイエンスの業務が行えるという選択肢の広がりは重要ではないでしょうか」(児島氏)という。
DSWSの需要もさまざまな分野で拡大している。アスク エンタープライズ営業部 ソフトウェアソリューション営業グループの鈴木信雄氏は「自動車業界では、自動運転技術の開発用途での引き合いが強いですね。この他にも、創薬、建築、通信など裾野は広がりつつあります」と説明する。
「Discovery Live」や「TWINMOTION」の処理も高速化
RTX for Mobileは、強力な3Dグラフィックス処理やDSWSの他に、各業界で注目を集めるアプリケーションの処理性能の向上にも貢献する。
製造業では、リアルタイムでの構造解析ツールとしてANSYSの「Discovery Live」が注目を集めている。Discovery Liveは、PTCの3D CAD「Creo」にも連携しており、3D CADによる設計と、リアルタイムシミュレーションによる検証を、Creoの中で迅速に繰り返すことでよりスピーディーな開発が可能になる。これまでDiscovery Liveの機能を十分に生かすには、デスクトップワークステーションが必要だった。しかし、RTX for Mobileの登場により、モバイル環境でもDiscovery Liveを用いた設計作業を行えるようになった。
また、建築土木業界向けのリアルタイムビジュアライゼーションツールとして存在感を高めている「TWINMOTION」も、RTX for Mobileにより処理速度の短縮化やビジュアルエフェクトの機能追加を行える。建築土木業界では、デザイン内容を客先で見せるためにモバイルワークステーションが広く利用されてきたが、RTX for MobileとTWINMOTIONの組み合わせで顧客への提案をより充実させられるようになる。
以上のように、以前はノートPCの性能が貧弱であるがゆえにインドアであった技術者も、HP ZBook Mobile WorkstationをはじめとするRTX for Mobileに準拠のモバイルワークステーションの登場によって、時代が求める事業継続もリモートワークで対応できるようになった。実際、児島氏によると、DSWSの引き合いが2020年2月以降、大幅に増えているという。加えて、RTX for Mobileによる活動領域の拡張は技術者や企業の研究開発活動に新たな可能性を広げてくれることにもつながる。生き残り策を模索する製造業にとって、これまで紹介してきた「RTX for Mobile」の導入は今や“必須”といっていいのかもしれない。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年10月14日