製造業の設計開発はさらなる進化へ、クラウドCAEがもたらす力:HPCクラウド
製造業のクラウド活用が設計、開発、試作/検証などのR&D領域にも拡大しつつある。その需要を捉えるべく、マイクロソフトがクラウド「Microsoft Azure」を基盤に展開を図っているのが「Azure Big Compute」と呼ぶCAE・HPCソリューションだ。
製造業におけるクラウド活用は、これまで最上流のマーケティング活動やコンセプトワーク、あるいは生産や販売などの実業を中心に進んできた。それが現在、いよいよ設計、開発、試作/検証などのR&D領域にも拡大しつつある。そこに向けてマイクロソフトがクラウド「Microsoft Azure」を基盤に展開を図っているのが、「Azure Big Compute」と呼ぶHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)を中心とするR&D向け複合ソリューションだ。
モノづくりの在り方はアプリケーションドリブンへ
マイクロソフトが設計・開発・試作/検証などのR&D領域に向けて展開している「Azure Big Compute」ソリューションは、大まかに分けて4つのカテゴリーを対象としている。
1つ目は「レンダリング」で、自動車や製造系のデザインエンジニアリング、デジタルコンセプト作成、ゲームやメディア系レンダリングワークロードなどが該当する。そうした中で需要が拡大している高精細化(4K/8K)やレイトトレーシングなど、より高負荷な処理に対するニーズにMicrosoft Azureで応えていく。
2つ目が「可視化」で、3D CADによるモデリングやVDI(仮想デスクトップ)を通じた閲覧、プリポスト処理、トポロジー最適化などのソリューションを提供。グローバルレベルでの設計データの共有化とコラボレーションを促進していく。
3つ目になるのが「CAE」だ。さまざまなベンダーとの提携により有限要素解析(FEA)、流体解析(CFD)、マルチボディーダイナミクス(MBD)、最適化や実験計画法(DOE)などのソリューションを提供。枯渇する計算リソースや超並列ジョブ実行といった課題に応える他、GPUの一時利用のニーズにも対応していく。
そして4つ目が「AI/ディープラーニング」で、自動運転(AD)や画像検知/不具合検知、先進運転支援システム(ADAS)といった最先端のR&D領域における最適化、省力化、自動化のソリューションを提供していく。
マイクロソフト コーポレーション クラウド&ソリューション事業本部 グローバルブラックベルトサービス部 Big Compute Techリードの田中洋氏は、「これらの4つのカテゴリーのプロセスをまたいだ計算がクラウド上で同時にできるようになることで、製造業の在り方を変えていく新たな価値が生み出されると考えています」と語る。
例として挙げるのは、オートデスクが提唱している「ジェネレーティブデザイン」と呼ばれる設計検討プロセスだ。デザイナーやエンジニアが、設計目標とともに機能、空間条件、材料、製造方法、コストの制約などのパラメーターをソフトウェアに入力すると、幾つもの設計案が素早く生成されるというものだ。そしてこれらの設計案に対してテストを行い、プロセスを反復しながら、最終的に要件を満たした最適なものを選択するのである。
田中氏は「これまではシミュレーションを行う際にも、オンプレミスで利用できる計算リソースには制約があり、ノウハウをもったエンジニアが自らの経験則に基づいて仮説を立て、あらかじめパターンを絞り込んだ上で実行していました。これに対してジェネレーティブデザインは、全く逆のアプローチをとっているわけです。CAEについても同様で、あらゆる可能性について漏れなくシミュレーションを実施し、さまざまな条件や要求仕様を満たした最適な試作を多数のコンピュータ上で行うという方向に向かっています。モノづくりの既存プロセスを単にデジタル化するだけでなく、モノづくりの在り方そのものが、よりアプリケーションドリブンに変わってきているのです。マイクロソフトはそうした革新的なR&Dを支援していきます」と述べる。
テンプレートからCAE環境をデプロイする「Azure CycleCloud」
マイクロソフトがMicrosoft Azureを通じて提供するAzure Big Computeのソリューションには、どのような強みがあるのだろうか。
まず田中氏が強調するのが「ハードウェアの絶対的な優位性」だ。「オンプレミスでも用いられている高速インタフェースのInfiniBandが利用できるハードウェアをクラウドで提供しているのはMicrosoft Azureだけです。また、そのリソースの使用量を事前予約することなく、完全なサブスクリプションモデル(従量課金)で利用できます」(同氏)という。
次に訴求するのが「R&Dユーザー環境への投資」で、Microsoft AzureはAvere vFXTやNetAppなどオンプレミスストレージ環境との連携をサポートするほか、Crayスーパーコンピュータの演算能力をクラウド上のHPC環境と組み合わせて利用することも可能となっている。
さらにはHoloLensに代表される革新的なデバイスの提供、AIをはじめとするさまざまなクラウドベースのサービスを活用したコラボレーション、AD(Active Directory)やAAD(Azure Active Directory)と連携したユーザー認証によるセキュリティ強化、Azure Stack(ファットエッジ)やIoT Edge(ライトエッジ)によるエッジコンピューティングのプラットフォーム統合など、Microsoft Azureの優位性を裏付ける技術要素は枚挙に暇がない。
そして2018年の秋、Microsoft Azureの新たな武器として加わったのが「Azure CycleCloud」である。Microsoft Azure上でCAEワークロードを実行したり、Big Computeクラスタを作成、運用したりする際に必要な管理機能を無償で利用できるソリューションだ。
Azure CycleCloudを使用することでユーザーは、CAE Azureクラスタを動的に割り当て、クラウドネイティブまたはハイブリッドクラウド環境でワークフローのデータとジョブを統合することができる。さらに、アラートやモニタリングの機能を提供するほか、CAEインフラストラクチャを自動的にスケーリングし、あらゆる規模で効率的にジョブを実行できるようにする。加えて、予算管理やリソース使用状況に関するレポート作成、AD/LDAP統合、監視とアラート、監査/イベントログなどの高度なポリシーならびにガバナンス機能を提供。ユーザーが、どんな設計開発を、どこで、どれくらいのコストで実行しているのかを一元的に把握することができる。
「CAE・HPC分野で一般的に利用されるスケジューラーがあらかじめ組み込まれたクラスタを標準テンプレートからすぐに展開できるため、ユーザーは既存のオンプレミスのCAE・HPC環境にアクセスするのとまったく同じ感覚でクラウドを利用できるのがポイントです」と、田中氏はAzure CycleCloudのメリットを説明する。なお、今後に向けて標準テンプレートを提供するアプリケーションとしては「SIMULIA Abaqus」「ANSYS Fluent」「CSI CONVERGE」「LS-DYNA」「STAR-CCM+」「OpenFOAM」「ANSYS CFX Mechanical」「NAMD」「GROMACS」「LAMMPS」「ESI Pam-Crash」などを予定しているとのことだ(商用ライセンス・IPにかかわるバイナリなどは持ち込み)。
シーメンスの「STAR-CCM+」による流体解析で1万1520コアまでスケール
マイクロソフトがMicrosoft Azureを通じて提供するCAE環境は、スケールの観点でも他のクラウドサービスを圧倒している。2019年5月28日〜6月1日に台北で開催された「COMPUTEX 2019」で基調講演を行ったAMD プレジデント兼CEOのリサ・スー(Lisa Su)氏は、「Microsoft Azure上で稼働する仮想マシンHBシリーズは、シーメンスの『STAR-CCM+ V14.02 Le Lemans 100M』による流体解析で1万1520コアまでスケールした」と発表したが、この事実がまさにそれを裏付けている。
HBシリーズを用いた仮想マシン上での「STAR-CCM+ V14.02 Le Lemans 100M」による流体解析は256ノードまでスケールした。1ノード当たり45コアなのでコア数は1万1520になる
繰り返すが、この無限大ともいえるスケーラブルなリソースを、R&D部門のユーザーは先述したAzure CycleCloudとの合わせ技により、オンデマンドで利用できるのである。「R&Dで必要とされる新たなリソースをオンプレミスで調達する場合、予算を組んで稟議を通し、さまざまな機材やソフトウェアを購入してキッティングを行い、本番稼働に漕ぎつけるまでに最低でも6カ月程度の期間を要します。これに対してMicrosoft Azure上で例えばSTAR-CCM+の環境を単純にデプロイするだけなら30分もあれば可能です。自社独自のテンプレートを用意して社内ユーザーに提供する場合でも、1カ月もあれば体制を整えることができます」と田中氏は語る。そして当然のことながらこのスピードアップは、開発リードタイムの短縮にダイレクトに反映されることになる。
クラウドCAEの引き合いが急増「年間の伸び率は2倍近い勢い」
このような変革を指向し、CAEをはじめとするR&D領域でMicrosoft Azureを使いたいという引き合いは急増しており、「年間の伸び率は2倍近い勢いです」と田中氏は語る。そうした中で、実際に大きな成果を上げたR&Dの事例を紹介しておこう。
各種メカニカルシール、特殊バルブ、プラント機器、船舶用製品、金属ベローズなどを主力商品とするイーグル工業は、次世代のメカニカルシール製品のR&Dを推進する中で、シール部分の流体の挙動確認や製品の性能評価を行うため、MSC Marcを活用している。シール部分の解析は微細構造そのものが製品性能に大きな影響を及ぼすことから形状簡略化によるメッシュ数削減が難しく、また、繁忙期のリソース確保に苦戦をしていた。そこで開発スピードを加速するために、Microsoft AzureのスケーラブルなCAE環境を導入したのである。結果としてイーグル工業は、解析に費やす計算時間を大幅に短縮。現在は非定常解析のみならず、最適化解析や製品設計データとの連携により開発スピードのさらなる向上を目指している。
また、1991年からソーラーカープロジェクトに取り組んでいる東海大学は、レース用マシン「Tokai Challenger」の開発にあたり、Microsoft AzureのCAE環境を活用している。ソーラーカーレースでは「空力を制すものがレースを制する」とも言われており、空気抵抗を可能な限り減らすことが優勝の絶対条件となっている。Microsoft AzureのCAE環境を適用したのはまさにこの空力解析であり、東海大学は空気抵抗を33%以上低減することに成功。世界最高峰のソーラーカーレースとされる「World Solar Challenge」の2017年大会において日本勢トップの4位入賞、翌2018年に南アフリカ共和国で開催された「Sasol Solar Challenge」でも総合2位となるなど好成績を勝ち取った。
上記の2つの事例は、必要なときにスケーラブルな計算リソースを活用することが可能となることで、R&Dで得られる成果そのものが大きく変わることを意味している。マイクロソフトはCAE・HPCインスタンスの「H/HB/HCシリーズ」の他、計算用途GPUインスタンスの「NC/v2/v3シリーズ」、可視化用GPUインスタンスの「NV/NVv2シリーズ」、機械学習用GPUインスタンスの「ND/NDv2シリーズ」などラインアップを拡充するとともに、コア時間あたり単価でもコスト競争力の高いメニューを用意している。Microsoft Azureは、CAE・HPC環境でもあらゆる企業が利用可能な現実解になったといえるだろう。
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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年9月29日