高度自動運転を目指すAUTOSAR次世代規格「Adaptive Platform」が始動:eSOL Technology Forum 2017レポート
イーソルのプライベートイベント「eSOL Technology Forum 2017 IoT時代のソフトウェアプラットフォーム」では、インテリジェント機器の代表例ともいえる自動運転技術とソフトウェアの関係について多くの講演が行われた。
全てのモノが通信するIoT(モノのインターネット)、そしてそれらのIoTから得たデータから新たな知見を生み出すAI(人工知能)への注目が集まっている。これまでの組み込み機器は、IoTやAIを活用することによって“インテリジェント機器”へと生まれ変わりつつある。
インテリジェント機器の価値は、ハードウェア以上にソフトウェアによって生み出されるようになる。組み込み機器向けのOSやソフトウェア開発ツールを展開してきたイーソルは、これらインテリジェント機器の開発に向けた新たな製品やソリューションを提案している。
同社が2017年10月3日に東京都内で開催したプライベートイベント「eSOL Technology Forum 2017 IoT時代のソフトウェアプラットフォーム」では、「高度自動運転をはじめとしたインテリジェント機器開発の潮流」を副題として、インテリジェント機器の代表例ともいえる自動運転技術とソフトウェアの関係について多くの講演が行われた。
AUTOSARの次世代規格の策定に貢献
イーソル 取締役CTO 兼 技術本部長の権藤正樹氏は「AUTOSAR Adaptive Platformの概要」と題して、欧州の車載ソフトウェア標準・AUTOSARの次世代規格に位置付けられるAUTOSAR Adaptive Platform(以下、AP)について解説した。
これまでのAUTOSARは、シングルコアマイコンなどを用いる従来型のECU(電子制御ユニット)に組み込むソフトウェアの構造を規格化し、ソフトウェアを再利用可能にすることを目的にした標準である。これに対してAPは、HAD(Highly Automated Driving:高度自動運転)の実用化に求められるインテリジェントECU向けの次世代規格となる。
HADでは、AIをはじめとするさまざまな新しい処理のために、多くのデータと多くの演算を高速に処理する技術が必要になる。車載ネットワークもCANからイーサネットへ、計算処理もマイコンからプロセッサへ移行する。権藤氏は「このような要件が求められるAPは、組み込みでHPC(High Performance Computing)をやるようなもの。従来のAUTOSARとは全く異なるため、新しいメンバーで策定しようということになった。イーソルは、シングルコアからマルチ・メニーコアプロセッサまで対応する新世代のリアルタイムOS『eMCOS』を研究・開発した優れたOS技術や並列コンピューティングの知見が認められてAUTOSARプレミアムパートナーとして承認を受け、AP仕様策定当初より活動に参加してきた」と語る。
APは、本格的に活動が始まった2016年3月から1年間をかけて、2017年3月に最初のリリースである「Rel.2017-03」を発表。基本機能と骨格に当たるこのリリース以降は、約半年ごとにリリースを出してしていく方針だ。
APについて、主要なAUTOSARソフトウェアベンダーは、ほぼ全てが対応中もしくは対応予定であり、複数の自動車メーカーが量産採用を時期を含めて決定している。「2017年から、APの仕様を策定する各グループに自動車メーカーが参加し始めているのは、APへの期待の表れだろう」(権藤氏)という。
権藤氏は、APの特徴として、ROS(Robot Operating System)やWebサービスと同じサービス志向アーキテクチャ(SOA)であること、高性能なアルゴリズムの実装で最も多く用いられているC++言語の採用、並列処理への対応、既存のオープンな標準仕様を最大限活用していることなどを挙げた。APの仕様開発は、アジャイルソフトウェア開発手法の1つであるスクラムで開発されているという。
また、APのアーキテクチャが、アプリケーション層のARA(AUTOSAR Runtime Environment for Adaptive Applications)、プラットフォーム層のAdaptive Platform Foundation、ハードウェアの3層に分かれることなどについて説明した。「APでは、プロセッサ、GPU、FPGA、アクセラレータなど複数種類のチップを用いるヘテロジニアスコンピューティングが想定されるので、スケーラブルな対応が可能なeMCOSのようなOSが必要になるだろう」(権藤氏)としている。
最後に、AUTOSARのAPの技術が、医療や産業機器など、車載システム以外の分野への応用に向けた動きがあるとし、あらゆるインテリジェント機器開発者に対し、今後の展開への注目を促した。
アーキテクチャの再構築で車載ソフトウェア規模を半減
基調講演では、デンソー エグゼクティブフェローの村山浩之氏が「車載ソフトウェア開発の変革に向けて」と題した講演を行った。
村山氏は、現在の自動車業界が迎えている技術革新と社会変化について、コネクティッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)の4つを挙げ「100年に1度のイノベーションが起こりつつあるタイミングであり、このイノベーションの鍵を握るのはソフトウェアだ」と強調する。
その上で、デンソーの車載ソフトウェア開発における取り組みを紹介した。まずアーキテクチャについては、機能の構造に当たる論理アーキテクチャと、装備の配置に対応する物理アーキテクチャに分離するトップダウン開発を進めた。ある事例では、それまで9万5000行の規模があったソフトウェアについて、アーキテクチャの再構築によってほぼ半分となる4万9000行まで削減できたという。
次に人材開発では、標準開発プロセス向けの変革型人材と、量産開発プロセス向けの改善型人材の育成について紹介。最後に、ソフトウェア開発リソースの確保に向けた戦略として、グループ会社や下請けのソフトウェア企業を含めたグローバル開発体制の構築について説明した。
特別講演に登壇したのは、東京大学大学院 情報理工学系研究科 准教授、名古屋大学 未来社会創造機構 客員准教授で、ティアフォー 取締役 兼 最高技術責任者を務める加藤真平氏だ。「完全自動運転に向けた組込みプラットフォーム技術」というタイトルで講演を行った。
加藤氏は、オープンソースの自動運転ソフトウェアである「Autoware」を開発したことで知られる。自動運転の実験車両にAutowareを用いれば、時速50〜60km程度であれば自動運転をすぐに行えるという。現時点において、AutowareはNVIDIAの自動運転車開発プラットフォーム「DRIVE PX2」で動作させるのが一般的だ。加藤氏は「とはいえ、消費電力や耐久性を考えるとプラットフォームの改善が必要だ。現在、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトでは、フランス企業Kalray社の256コアプロセッサとeMCOSを用いてAutowareを動作させる実証実験を行っており、DRIVE PX2並みの自動運転を消費電力20Wで実現できている」と語る。
この他、自動運転技術で重要な役割を果たす高精度3次元地図データを収集する「MapTools」や、LiDARやカメラなどセンサー情報と連携した自動運転操作の難しさ、自動運転が実現した後に生まれる新たなサービスの一例となるVR(仮想現実)ゲームなどについて紹介した。
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提供:イーソル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2017年12月7日