メイドインジャパンの“カッコいいクルマ”実現を支える、モノづくり技術の進化:アークオンラインサービス事例
「東京モーターショー 2013」で自動車ベンチャーのイケヤフォーミュラが発表した真っ赤な国産スポーツカー「IF-02RDS」。そのデザイン・開発に携わるアッシュインスティテュート代表の大津秀夫氏は、自分たちの考える“カッコいい”を具現化したスポーツカーを「ナンバーを取って公道を走れるように」2017年中の販売開始を目指して日々奮闘している。その部品製作において、“オンラインとオフラインのいいとこ取り”の試作サービス「アークオンラインサービス(AOS)」を選択した理由について尋ねた。
「東京モーターショー 2013」(2013年11月23日〜12月1日:一般公開期間)の会場で映えた、真っ赤な国産スポーツカー「IF-02RDS」。フォーミュラ車両や市販車用アフターパーツのメーカーとして知られる、自動車ベンチャーのイケヤフォーミュラが独自開発した「シームレストランスミッション」を搭載した車両である。シームレストランスミッションとは、シンプルな操作で、加速時のトルク切れを防いで、ドライバーが「クルマを操る楽しさ」を存分に体感できることを目指した技術だ。(詳しくは参考リンク「シームレストランスミッション」について:イケヤフォーミュラ)
IF-02RDSは、レーシングカー然としたたたずまいでありながら、上品で涼しげな顔立ちとスマートさも併せ持つデザインにまとまっている。
IF-02RDSのデザイン・ボディ設計・カウル製作に携わる、アッシュインスティテュート代表の大津秀夫氏は、「1990〜2000年代のレーシングカーで印象的だったものの中から、自分がカッコいいと思うところ、好きなところを抽出して、再構成し、それに(イケヤフォーミュラ代表の)池谷信二さんの好みを反映してアレンジした」とそのデザインについて語る。
かつて1980〜90年代に存在した自動車競技におけるカテゴリー「グループC」の車両は「スポーツプロトタイプ」と呼ばれるもので、その最終進化形ともいえるジャガー「XJR-14」、プジョー「905」は『F1カーにカウルと屋根を付けたような』と形容されるほど、それまでの同カテゴリーの車両とは一線を画す内容で、そのスタイリングもまた別格に洗練されたものだった。 そして1990年代末、再びスポーツプロトタイプでチャンピオンシップが競われることになるきっかけとなった、トヨタ自動車の「TS020(TOYOTA GT-One)」。さらに、2000年代後半のローラ・アストンマーチン「LMP1」など――これらが、大津氏が今回のデザインで参考にした車種である。
「現在はレギュレーションの関係からほぼ姿を消してしまった、低くてシャープなフロントエンドを持つこれらの耐久レーサー。その姿を、公道を走れる車で再現できたら、どんなにいいだろう……」。大津氏も池谷氏も同じような思いを抱いていて、デザインの好みも非常に近いものだったという。
そんな両氏の考える「カッコいい」がふんだんに盛り込まれたIF-02RDSは、熱心なファンを獲得。販売価格が決定していないにも関わらず「ぜひ注文したい!」という声が展示会中から寄せられた。
東京モーターショー 2013展示当時はまだコンセプトカー(試作車)だったが、2016年12月現在、そのロードバージョン(市販バージョン)を開発中である。自動車デザイン・製作を行うYDSと、フリーランスモデラーであるNYコネクト内藤豊氏と共に、2017年春の走行テストを目標に2号車の車両製作や調整をコツコツと進めている。以後は同年開催の「東京モーターショー 2017」で展示し、いよいよ一般に向けに販売開始する予定だという。
IF-02RDSは今のところ、一般的な量産は考えておらず、受注生産で数〜十数台を製作することになるのではないかという。そう聞くと、富裕層の人にしか買えないような販売価格になるのではないかと思ってしまうが、「できれば、一般のサラリーマンでも頑張れば買えるような価格、皆さんに『これなら買えそう』と思ってもらえるような価格設定になるよう、頑張って工夫して開発しています。現実は厳しいですが……」と大津氏は述べる。
モノづくりツールの進化とプロセス変革
IF-02RDSの開発においては、自分たちが「良い」と思える形を実現することが第一優先だという。同時に開発費と販売価格の両方をどうすれば下げられるか、そのことを大津氏は常に考えてきた。「安く」とは言っても、この形や雰囲気を壊す「安っぽさ」があってはならない。そういう意味で、品質を妥協するわけにはいかない。
大津氏は車両開発を進めながら、粉末焼結積層による試作に対応するメーカーを探していた。粉末焼結積層は、自由な形状をした設計データで直接造形ができること、高い精度の造形、しなやかな延性を持つ材料が魅力だ。
しかし、なかなか納得のいくメーカーに出会えなかったという。そんな中、調べていくうちに、あるオンラインサービスの情報を見つけた。粉末焼結積層による試作品がオンラインで見積もりでき、さらに注文もそこからできるという「アークオンラインサービス(AOS)」だった。
そして、そのサービスの提供元の企業名を見て、「これは、いいものを見つけたかもしれない」と大津氏は思ったという。同氏の過去のキャリアから、「アーク」の名前はよく知っていて、実際にその試作品を手に取ってみたこともあった。ただ、オンラインサービスをやっていることまでは知らなかったという。
「自分の知る、あの『アーク』なら信頼できそうだ」。大津氏は、アークに対し「大手メーカーの御用達」というイメージを抱いていたことから、「品質はまず間違いない」という確信を持ちながらも、「このプロジェクトに見合うコストで製作ができるのか」と正直心配したという。ただし、その考えはすぐに大きく覆されることになる。
実際、粉末焼結積層に対応するメーカー何社かに相見積もりを取ってみたところ、「納期とコスト両方の面で、AOSが最も有利。早くて安かった」と大津氏は述べる。特に「最短30分」で得られるという見積もりのスピードは際立っていたという。従来の試作メーカーによる見積もりは、少なくとも数日はかかるのが常だ。
「実際に会っての打ち合わせが省けたことも非常によかった」と大津氏は話す。「電話やインターネット上のメッセージを用いたやりとりでも、質問に対して的確で納得できる答えが返ってきます。メーカーによっては、この段階で何となく不安になるところもありました。一方、アークの場合は、やりとりを重ねるたびに信頼感が増していきました」。
アークの粉末焼結積層で実際に製作したのは、製作中のロードバージョン(2号車)に搭載するヘッドライトハウジングなどである。IF-02RDSの「涼しげな目元」を構成する、大事なパーツであり、1号車では池谷氏もとても気に入っている部分の1つである。
このハウジングは一体で造形するのではなく、造形機の大きさに合わせてパーツを分割して、造形後に接着して仕上げている。これは大津氏が指示したものではなく、アーク側が合理的に判断したものだという。アークでは、長年の自動車部品の製作経験に基づき、部品形状から機能をある程度予測しながら、強度や品質をなるべく損なわず、かつ最も効率のよい製作方法を現場のエンジニアが選択しているのだという。今回選択された工程も、アークの考えるQCDのベストバランスによる結果だった。
>>アークの製作現場について「Webから届ける、3Dプリンタと技術の匠が織り成す高品質な試作品」
大津氏は、その仕上がりに非常に満足しているという。「後に製作することになるであろう3号車以降にも、アーク製のパーツを使うことになるのではないかと思います」。
大津氏がまだ若手デザイナーだった1990年代前半頃までは、試作車の設計はドラフターによる手描き製図もまだ当たり前だった。もちろん、車両のモックアップも一から手作りである。そして設計や試作には何カ月もかかることが普通だった。
現在、デザインの現場でコンピュータでの3D設計が普及し、粉末焼結積層も試作の現場で身近になった。クレイモデル製作も今や一からの手作りではなく、デジタル化が進み、製作数自体も大幅に減ってきているという。さらに、見積もりや製作進行の確認が、実際に会って打ち合せをしなくてもインターネット上のやりとりで十分行えるようになった。見積もりから発注、納品までが数日〜数週間程度で済んでしまう。
「昔からしたら、これは夢のような話ですよ、本当に」と大津氏は昔を振り返りつつ、笑顔を浮かべた。
メイドインジャパンで、「自分達が本当にカッコいいと思うクルマ」を追求する、大津氏のモノづくりに今後も要注目だ。
取材協力
アッシュインスティテュート
カーデザインに関する各種業務、市販車(新車/中古車)の大幅改造と車検取得。企業広告、商品広告、技術資料、プレゼンテーション、プロモーション用等の画像(静止画)、動画製作。自動車部品、自動車用品、ホイール、カーナビ、カーオーディオ、自転車(ロードバイク)、自転車用品、PC周辺機器、ウェアラブル端末、家電等の各種プロダクトデザイン、家具、ジュエリー、ペット用品、他。
NYコネクト
自動車用パフォーマンスパーツの企画・デザイン・販売。自動車用OEMパーツの企画・デザイン・製作。自動車用ワンオフパーツの企画・デザイン・製作。自動車をメインとした、デザインモデルなどの製作(クレイモデル・FRP・3DCGデータなど)。
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提供:株式会社アーク
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2017年2月9日