複雑化する産業システム――製造現場のIoT化で丸ごと解決!:モノのインターネットが実現する世界
産業システムの多くは、複数メーカーの機器で構成されている。よって機器ごとに個別のメンテナンスが必要であるなど、運用面や管理コスト、セキュリティ面での課題を抱えている。これに対し、インテルはIoT戦略の1つに掲げている「ワークロード・コンソリデーション・プラットフォーム」を提案する。
「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」は、ITに関わるさまざまな分野で重要なキーワードとして扱われるようになった。ネットワークにつながるデバイス群から抽出された膨大なデータを分析し、そこで得られた知見から新たな価値・成果を生み出すという好循環に、多くの経営者、開発者、生産者が期待を寄せている。
広範な分野にコンピューティングプラットフォームを提供するインテルも、2013年にIoTソリューション事業部を設立し、IoTを重要戦略の1つとして捉えている。
2014年5月14〜16日に東京ビッグサイトで開催された「第17回 組込みシステム開発技術展(ESEC2014)」では、「The Internet of Things starts here.」をメインテーマに、インテルが描くIoTの世界をデバイス/ソフトウェア/サービスのカテゴリに分けて紹介している。その中で、特に注目したいのは「ワークロード・コンソリデーション・プラットフォーム」だ。インテルのマルチコアCPUと仮想化技術を活用することで、従来、複数のデバイスで実現していた産業機械を1つのプラットフォームに集約するというコンセプトである。
複雑化する産業機械を1つのプラットフォームに
インテルは、製造やエネルギー、インフラなど幅広い産業分野向けのプラットフォームとして、単にパフォーマンスや消費電力性に優れたものだけではなく、付加価値の高い「インテリジェントシステム」の提供に注力している。ワークロード・コンソリデーション・プラットフォームもその一環である。
例えば、工場に設置される産業機械は、PLC(Programmable Logic Controller)やHMI(Human Machine Interface)、ビジョンシステム、モーションコントローラーなどのさまざまな要素で構成されている。目的の異なる複数のデバイスを相互に接続することで、1つの製造装置を稼働しているのだ。
だがその場合、製造機械として高度化を図れば図るほど個別のデバイスを増やす必要があり、複雑さを増すことになる。複数のデバイスを互いに接続し、それらを協調動作させ、問題が発生しないように管理するのは困難で、結果として管理コストの増大を招いている。
この課題に対しインテルは、ワークロード・コンソリデーション・プラットフォームによる解決策を提示する。高性能なマルチコアCPUを活用し、複数のワークロードを1つ1つのコアに振り分け、1つのプラットフォームでコントロールするというアプローチである。
従来、仮想化技術によってワークロードを整理統合する考え方はあったが、導入には高度な技術が必要であり、実行時のパフォーマンスに対する不安も抱えていた。しかし、現在では、マルチコアCPUの性能が向上したことで、1つ1つのコアを独立して稼働させ、産業機械に求められるリアルタイム性を十分に確保できるようになった。
もちろん、普及が期待される新しい技術ではあるが、今後の産業機械の主流になっていくことは容易に想像できる。以下では、その理由を技術的な観点から考察してみよう。
運用コストを低減、高度なセキュリティ対策を実現
図1は、インテルの4コアCPUの構造を示したものである。大きな特長は、各コアをそれぞれ別のOS上で動作できる点だ。1つ目のコアでは、確定的(デターミニスティック)なリアルタイム性を重視するOSでマシンをコントロールしつつ、2つ目のコアでは汎用的なLinuxでHMIを稼働させる。そして、3つ目のコアではセキュリティ監視を行い、4つ目のコアでは上位層との通信をつかさどることが可能となる。前述したように、従来こうしたワークロードはそれぞれ異なるデバイスで実現していたが、このアプローチにより、単一のシステムに各デバイスが実現していた全ての機能を集約できるわけだ。
一方で、各コア(ワークロード)に必要となるI/Oを自由にマッピングできる機能も備える。例えば、HMIをつかさどるOSには、グラフィックス/ネットワーク/USBインタフェースなどのリッチなI/Oを提供し、単機能を提供するOSには情報をやりとりするためのネットワークのみを割り当てるなど、システムの構成を柔軟に変更できる。
このように1つのプラットフォーム上に複数のワークロードを集約することによって、さまざまなメリットを得ることができる。
まず、複数のデバイスで構成するよりは、1つの方がデバイスコストが安価になることは容易に想像できるだろう。機械のサイズや消費電力が小さくなるなど、総合的なフットプリントを抑えられる。
また、異なるベンダーの複数のデバイスを相互に接続するような場合、高度な技術が必要であり、多くの開発コストを要する。デバイスが増えれば増えるほど、当然、故障する可能性も増大する。保守・メンテナンスにおいても、それぞれのデバイスで異なる技術やノウハウ、人員が必要となる。
複数のデバイスを1つのプラットフォームにまとめることができれば、こうした運用コストを低減できる。
さらに今後、あらゆる産業機械をネットワークに接続し、そこから得られるビッグデータを活用しようとすれば、セキュリティという新たな課題が発生する。このとき、個別のデバイスに分離している環境ではそれぞれに対策が必要となるが、1つのプラットフォームに集約していれば、CPUのコア間通信という非常にセキュアな環境が利用でき、対外的にもシンプルで統制の取れたセキュリティ対策が実現可能となる。
コンソリデーション(整理統合)することのメリットもさることながら、インテルは、ハードウェアとソフトウェアの両面で高度なセキュリティ技術を有しているため、それらのノウハウを活用できるというメリットも見逃せない。
ワークロード・コンソリデーションを短期間で容易に導入できる新製品
インテルはワークロード・コンソリデーション・プラットフォームを具現化する製品として、「インテル 産業用ソリューション・システム・コンソリデーション・シリーズ」をリリースする。
この製品は、第1弾のスタートアップキットとして位置付けられており、4コアのIntel Core i7 プロセッサーや、ウインドリバーの仮想化技術「Wind River Hypervisor」や「Wind River Linux」「VxWorks」などの組み込みOS、開発環境である「Wind River Development Tools」などが全て含まれている。
新製品は、開発キットを含む「Intel Industrial Solutions System Consolidation Series SCS 110K Development Kit」(以下、SCS 110K)と量産向けの「Intel Industrial Solutions System Consolidation Series SCS 110P Production Kit」(以下、SCS 110P)の2種類である。SCS 110Kを用いて開発した環境は、I/Oやファームウェアなどの調整を気にすることなく、そのままSCS 110Pで稼働できる。
従来このようなシステムを開発構築するには、マルチコアCPUとマザーボードなどのハードウェアを入手し、ハイパーバイザーやLinuxなどをインストールしなければならなかった。ファームウェアとOSのバージョンを適合させたり、個別に設定を最適化したりなど、さまざまな技術的なハードルがあり、開発できるベンダーも限られていた。また、そうしたインテグレーションには多大な労力が必要であり、本来注力すべきアプリケーションレイヤーに開発パワーを振り分けられていなかった。さらに、デバイスの選定やライセンス契約の準備、ハイパーバイザー、OSのインテグレーション、セキュリティ対策ソフトウェアのインストール、さらにこれらが正常に稼働するかどうかをテストする必要もあり、これらの作業だけで約3カ月は必要としていた。
そこで本製品は、インテル側で基本的な設定を完了しておき、電源を入れればすぐに開発運用ができる「Pre-integrated」方式を採用した。パッケージに含まれるUSBメモリにはデベロッパーツールがインストールされており、これを用いて任意のPCをブートすれば開発環境として利用できる。ハードウェアもソフトウェアも、既にテスト済みの信頼性の高いコンポーネントが採用されているため、不要な運用負担を抱えることなく、安心した開発ができるだろう。
産業用ソリューション・システム・コンソリデーション・シリーズの場合、製品を購入する手間のみで済むため、初期コストと準備期間を大幅に削減できる。仮想化やプラットフォームに関する技術力もインテルが肩代わりしてくれるため、貴重なエンジニアリング資産を産業機械の開発に注力できるというわけだ。
開発者もユーザーもコストを削減し、安全性を向上
インテルのワークロード・コンソリデーション・プラットフォームのコンセプトは、さまざまな産業分野に多くのメリットをもたらす付加価値の高い考え方である。製造、石油化学、発電・水道などのインフラといった幅広い分野において、特にオペレーション管理やマシンコントロールのレベルで、非常に高い効果を発揮する。
中でも発電所は、最近になってセキュリティへの関心が高まっている分野の1つだ。一般的な施設では複数のサブステーションを抱えており、それぞれ複数の脆弱なデバイスを保有することがリスクを増大している。各ステーションを1つの堅牢なインテリジェントシステムに置き換え、IPネットワークを通じてリアルタイムに管理することで、運用効率だけでなく安全性も大幅に向上できると期待されている。
開発の事例も紹介しておこう。中国最大の鉄鋼メーカー、Baosteelの子会社であるShanghai Baosight Software(上海宝信軟件)は、産業用ソリューション・システム・コンソリデーション・シリーズを活用し、ゲートウェイソリューション「iCentroGate-GAP」を開発した。本製品では、産業用ネットワークからデータを取得するタスクと、社外ネットワークへデータを転送するタスクの処理を1つのデバイスで実現している。
Shanghai Baosight Softwareによれば、2つのGAPソリューションを開発する場合に比べて、期間を60%、コストを50%削減することに成功したという。従来は1年以上の開発期間で100万ドルかかっていたものが、6カ月以内に50万ドルで開発可能となる計算だ。
また、産業用ソリューション・システム・コンソリデーション・シリーズは汎用的なx86システムで構成されているため、このプラットフォームで開発したソフトウェア資産は、今後も活用していくことが可能である。この再利用性は、“古いデバイスを使わざるを得ない”という悪しき慣習を覆すものといえるだろう。
多くの課題を抱える産業分野において、IoT技術の取り込みはメリットが多い。今回紹介したワークロード・コンソリデーションは、IoTを活用し、付加価値の高いデバイスを開発する主要技術の1つであり、開発者とユーザーへ新しい競争力をもたらすものだ。インテルは、次世代の産業を担うソリューションとして、今後も第2、第3弾のワークロード・コンソリデーション・プラットフォームを提供していく予定である。
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提供:インテル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2014年7月31日