時短はしても妥協しない! ビーサイズの製品開発を支えるプロトラブズ:面談不要の加工・成形屋さん(10)
ビーサイズの新製品・ワイヤレス充電器「REST」の開発プロセスには、たくさんの乗り越えるべき課題があった。理想の家電を実現するために妥協しない小さな家電メーカー ビーサイズの挑戦を支えたプロトラブズの利点とは。
本連載「面談不要の加工・成形屋さん」第3回で、小さな家電メーカー ビーサイズの八木啓太氏のプロトラブズ活用事例を取り上げた。その記事で、開発中のワイヤレス充電器の試作品を紹介した。
記事の公開から約1年後、その製品は2013年10月に「REST(レスト)」という名称で販売開始された。
RESTは、その名の通り「スマートフォンが休む台」だ。使い方は、スマートフォンをそこに置くだけ注1。置くと、木漏れ日のような白いLED光が灯(とも)る。
RESTの筐体材料として選ばれたのは樹脂ではなく、なんと木材。しかも、木材の中でも特に“扱いづらい”といわれる杉だ。
第3回の試作以後も、そんなビーサイズらしい「こだわり」を実現するために、プロトラブズの試作を活用した。
杉の加熱圧縮加工と筐体設計
杉(Cryptomeria japonica)は日本固有の木で、国内各地に生息する。日本においては豊富な木材で、比較的安価であるにもかかわらず、あまり使われない。間伐材も、廃棄の道をたどることが多い。また増殖した杉林が、土砂崩れや花粉症をもたらす原因にもなっている。
日本にあり余った「持続可能な資源」ともいえる杉を活用したい――「真善美」(学問・道徳・芸術の3つを追求する)を企業理念として掲げるビーサイズとしては、そんな杉を家電に活用することで社会貢献したいと考えた。
杉は、木目が粗くて節が多く、水分を多く含むことから寸法が安定せず、しかも密度が低い故にやわらかい。家具の材料としても使われることはあまりなく、家電の筐体となれば“到底使えない”ものだった。
その解決策が加熱圧縮加工で、岐阜大学の棚橋光彦教授と家具メーカーの飛騨産業らが共同開発した技術だ。水と熱と圧力により杉を圧縮し、組織をち密かつ均質にし、硬度を高める。人工的な加工を施すものだが、外観上は「普通の木材」だ。
懸念の材料強度については、この技術でクリアできた。問題は生産における加工精度の確保だった。切削加工やコーティングの際に反りや割れが発生してしまうのだ。現実的な歩どまりを出すには、乗り越えるべき課題があることは、事前に予測出来た。
故に生産準備の段階では、歩留まりの改善に集中するために、それ以前の設計的な問題は慎重につぶしておき、デザインも完全にフィックスさせる必要があった。
ビーサイズの設計を支えたサービス
RESTは、木製のメイン筐体と樹脂製の足、ワイヤレス充電基板とLED基板、放熱板などによるシンプルな構成だ。部品点数はそれほど多くはないものの、薄さを実現するために筐体内部の部品は緻密に詰め込まれている。細く長いパイプの中にさまざまな部材を詰め込んだLEDデスクライトSTROKE同様、無駄を許さない設計がなされている。このような洗練された設計に至るまでには、試作品で評価をして、設計へフィードバックすることが繰り返されるわけだが、多くの開発現場同様、試行錯誤に十分な時間とコストをかけられない。
限られた時間と予算の中で、1日でも早く開発を完了させたい。しかし絶対にクオリティは妥協しない! それに応えたのが、3Dプリンタとプロトラブズのサービスだった。
木製の筐体部については、あらかじめ想定されていた大きな寸法ばらつきを考慮して余裕ある寸法で設計した。一方、放熱板や樹脂足側は寸法精度を追い込み、組み合わせを担保した。その試作には、3Dプリンタによるデザイン(意匠)評価を経て、プロトラブズによる切削加工「FirstCut」で評価をするという流れとした。
木漏れ陽のような光の演出を実現するのにも、プロトラブズのサービスが生かされている。
スマートフォンを置くと、RESTの下部から均一な光がこぼれてくるが、これを実現しているのは、内部部品の光学設計によるものだ。内蔵基板に実装されているLEDは消費電力と製造コストの観点からわずかに絞り、最小限のLEDの発光を導光板と拡散板によって均一化させたという。
導光板を試作するにあたっては、手持ちの3Dプリンタでは積層精度が粗く、また透明材料で造形できなかった。そのため、量産と同じ素材で評価部品が作れるプロトラブズの切削加工サービスを利用することにした。
光の拡散を担う樹脂足については、近似色の素材で切削加工を実施し、最終素材の確定には、サンプルプレートなどで光拡散を測定して絞り込んだという。
光学部品の設計には、光学シミュレーションを活用した。導光板に刻まれた斜めの溝を最適化し、光の均一化を実現したという。その際「切削での実物試作→光学シミュレーション→最適化」のサイクルを素早く回すのに活躍したのがFirstcutの特急納品プランだった。
「16時までにプロトラブズに試作を発注すると、翌日には発送してくれました。つまり私の手元には発注後1営業日を挟んで届いていました注2。部品を使って光を実測し、シミュレーションとの間に差が出たら、ぱっと設計修正して、評価サイクルを素早く回す。何度もチューニングできたので、時間短縮につながりました。」(八木氏)。拡散板の評価が1週間に2回のペースで行えたという。
導光板については、設計がフィックスした後に、プロトラブズの射出成形サービス「Protomold」で生産準備を進め、最終製品の生産でも引き続き活用している。STROKEの部品と同様に、プロトラブズ側と電話で相談しながら、多数個取りにするなどしてコストを抑えるように工夫した。
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STROKEにしても、RESTにしても、ビーサイズの家電は、デザインでも機能でも妥協しない姿勢を貫いている。八木氏は、頑固ともいえるほどに、「理想とする家電」を実現する道を力強く歩んできた。短納期で高品質な部品を提供するプロトラブズのサービスが、それを力強く支えた。
また八木氏は、3Dプリンタ、プロトラブズ、中小製造業(町工場)、それぞれの強みを見極め、うまく生かしている(関連記事:「面談不要の加工・成形屋さん(5):世の中を作るためには、3Dプリンタだけでは足りない」)。さまざまな企業や組織と横でつながり、お互いが協力し合い、高め合うこと。それもビーサイズの製品開発における大事な考え方でもある。
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提供:プロトラブズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2013年12月26日