生成AIでモノづくりはどう変わるのか シーメンスとマイクロソフトが描く将来像シーメンス×マイクロソフト対談

生成AIを含むAIの進化によりモノづくりはどう変わるのだろうか。シーメンスとマイクロソフトは協業により、新たなモノづくりプロセスのあるべき姿の構築に取り組んでいる。両社の対談により、モノづくりプロセスの目指すべき方向性について紹介する。

PR/MONOist
» 2025年07月25日 10時00分 公開
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 生成AI(人工知能)の活用がさまざまな業務で進んでいる。その中でモノづくりの工程でもこれらを活用した新たなプロセス構築への取り組みが進んでいる。

 その中で「人とAIが協働する次世代のモノづくりを実現する」ことを目指し、協業を進めているのが、Siemens(シーメンス)とMicrosoft(マイクロソフト)だ。両社は35年以上にわたり、パートナーシップを構築してきた。2023年10月にはシーメンスが展開する産業界向けのソリューションに、マイクロソフトの生成AIテクノロジーを組み合わせた「Siemens Industrial Copilot」を展開することを発表し、製造業をはじめとする産業領域へのAI導入の加速に取り組んでいる。

 両社の協業により、モノづくり工程はどのように変わるのだろうか。シーメンス 営業本部 バイスプレジデントの北村守氏と、マイクロソフト アジア本社 アジアパートナー事業本部 SDC/ISVビジネス統轄本部 リージョナルパートナー アカウントディレクター 清水豊氏が対談により、生成AIを活用したモノづくりプロセスのあるべき姿について紹介した。

生成AIで人手不足など製造業が抱える恒久的な課題を解決

photo シーメンス 営業本部 バイスプレジデントの北村守氏

 日本の製造業の現状は厳しい環境に置かれている。熟練労働者の減少があり、人手不足が深刻化し、技能伝承なども難しくなってきている。一方で、グローバル競争が過熱する中、ビジネススピードが早まっており、従来通りにモノづくりのスピード感では対応が難しくなってきている。シーメンスの北村氏は「既存の体制やシステムではスピード感に対応できないことが明らかになってきています。対応するためどう変革すべきかを真剣に考えるようになっています」と説明する。

 一方でマイクロソフトの清水氏は「SDV(Software Defined Vehicle)などが注目される自動車業界で顕著ですが、製品そのものがソフトウェア化し、開発サイクルが短くなったり、リカーリング型の新たなビジネスモデルを生み出したりする動きもあります。従来の改善型の取り組みだけでは追随できない状況が生まれています」と危機感を訴える。

 こうしたモノづくりプロセスにおける難しい現状を解決するために、注目を集めているのが生成AIの活用だ。2022年11月にChatGPTがリリースされて以降、多くの業務で生成AIが使われるようになっている。しかし、モノづくり工程において本格的に業務に活用するには、モノづくり工程で使われる専門データを学習したり、信頼性やセキュリティを確保したりすることが必須となるため、なかなか利用が広がっているとはいえなかった。

 シーメンスとマイクロソフトが発表した協業は、これらを加速すると期待されている。「Siemens Xcelerator」ビジネスプラットフォームを通じて、CADの「NX」、PLM(製品ライフサイクル管理)の「Teamcenter」を含む数多くの製造業向けアプリケーションを展開するシーメンスと、テクノロジープラットフォーマーとして「Microsoft Azure」によるクラウド関連技術やAIの先進技術を持つマイクロソフトが組むことで、製造業に求められる信頼性を確保したうえで、生成AIによる業務プロセス変革を実現することを目指している。

photo シーメンスが展開する製造業向けのソリューション群[クリックで拡大] 提供:シーメンス

 両社は2023年10月に、協業により生成AI搭載型アシスタント「Siemens Industrial Copilot」を展開することと、PLMのTeamcenterとの連携を進めることを発表した。続いて、2024年夏には製造現場のオートメーションの統合管理を行う「TIAポータル」と連携した生成AI搭載製品「Siemens Industrial Copilot for TIA Portal Engineering」をリリースしている。また、2025年3月には「Siemens Industrial Edge」と「Microsoft Azure IoT Operations」を組み合わせることで、生産ラインからエッジ、そしてクラウドへとシームレスなデータフローを実現し、ITとOTの統合を簡単にする取り組みも発表している。

photo マイクロソフト アジア本社 アジアパートナー事業本部 SDC/ISVビジネス統轄本部 リージョナルパートナー アカウントディレクター 清水豊氏

 モノづくりプロセスで生成AIを活用する効果について清水氏は2つの効果があると語る。「1つ目は、自然言語のやりとりで指示やコード作成が行えることで、専門知識がなくても簡単にデジタル技術やデータを活用できるようになる点です。2つ目が組織や言語の壁を越えることが容易になるという点です。Teams Copilotでのリアルタイムの翻訳により地域の壁を越えたり、設計と製造など部門の壁を越えたりすることも容易に行えます」(清水氏)。

 さらに、今後はAIエージェントにより業務をまるごと任せるようなことも可能となる。自律的な業務遂行支援の他、若手技術者へのガイダンスなどで育成を支援するようなことも可能となる。

シェフラーやティッセンクルップなど多くの導入実績

 両社の協業の成果は既に多くの導入実績も生み出している。1つがドイツの自動車部品メーカーであるSchaeffler(シェフラー)の事例だ。シェフラーはグローバル100拠点以上を持ち、その生産性の向上やダウンタイムの削減、技術伝承の加速が課題となっていた。そこで、Siemens Industrial Copilotを導入し、SaaS(Software as a Service)型PLM「Teamcenter X on Azure」とコミュニケーションツール「Microsoft Teams」を組み合わせて課題解決を進めたという。

 Copilotを組み込むことで、製造現場でトラブルがあった際に現場作業者がTeamsに自然言語で事象を書き込むと、Teamcenter上のさまざまな関連情報が示される他、遠隔地の専門家の指示もすぐに得られる。これによりダウンタイムが大幅に削減できるようになり、トラブル情報などトレーサビリティーも容易に確保できるようになったという。

 北村氏は「多くの製造業で設計と製造の間にある壁が長年指摘されてきました。これらの壁を越えることがモノづくりプロセスを抜本的に改善する大きなきっかけとなります。PLMはそれを目指したシステムだったはずですが、現実的には設計現場を中心に活用され、製造現場との連携を実現しているところは多くありませんでした。ただ、AIやクラウドを活用することで製造現場からのフィードバックも簡単に取り込めるようになり、いよいよ本格的にライフサイクル全体をカバーできるようになります」と期待を込める。

 もう1つの事例が、ドイツの機械メーカーであるThyssenkrupp(ティッセンクルップ)の取り組みだ。工場ではさまざまな機器がPLC(Programmable Logic Controller)で制御されているが、PLCプログラムができる技術者は年々減少傾向にある。そこで、ティッセンクルップでは、電気自動車のバッテリー品質検査で使用される機器においてSiemens Industrial Copilotを導入し、ドイツ語の自然言語での指示を与えるだけで、TIAポータルでPLC用の構造化制御言語(SCL)コードを迅速に作成できるようになったという。これにより反復的で単調なタスクを削減した。一部工場から開始したが成果が確認できたため、グローバル展開も順次進めていくとしている。

 北村氏は「特定の工程での課題に対し、自然言語で対話するだけでコードを生み出すことができます。プログラム作業の負荷が大きく低減できたため、製造ラインの稼働率が上がり、人材育成にも効果がありました」と述べている。

photo ティッセンクルップで導入したエンジニアリング領域でのCopilotの活用。自然言語で対話しながらPLCプログラムを作成できる[クリックで拡大] 提供:シーメンス

 今後は、さらにSaaS型CADの「NX X」とSiemens Industrial Copilotの連携も本格化する。「例えば、設計者が『さらに軽量化するにはどうしたらよいか』とたずねるだけで、AIによりパーツの提案や設計変更案を示せます。また設計変更の妥当性などをAIが評価してくれます」と北村氏は機能の方向性について語る。

 設計情報は機密性が高いものも多いが、その場合に合わせてオープンなLLM(大規模言語モデル)を使うものだけでなく、設計専用のSLM(Small Language Model)を使用できるようにする。将来的には、単なる設計補助だけでなく、調達や製造、安全性などの複合的な要素を総合的に判断するようなことも可能とする。「自動車メーカーなどで行われている大部屋活動をデジタル上で表現できるようにするイメージです」(北村氏)。

photo NX X上でCopilotを使い自然言語でのやりとりで材料レポートなどを作成することも可能[クリックで拡大] 提供:マイクロソフト

セキュリティやクラウドなどマイクロソフトの持つ技術の重要性

 このようにモノづくりの工程で深く生成AIを使おうとすればするほど、重要になるのが、基盤となる技術の信頼性だ。日々進化する生成AIの先進技術を取り込んだり、これらを有効活用するためのデータの蓄積や統合を行ったりするためには、優れたクラウド関連技術が欠かせない。さらに、これらのセキュリティが確保されていることも非常に重要になる。マイクロソフトは、テクノロジープラットフォーマーとして、AI関連技術だけでなく、これらを支える技術でも重要な“縁の下の力持ち”となってくれている。

 「マイクロソフトは世界で最もサイバー攻撃を受けている企業です。しかし、大きなセキュリティインシデントを起こしてはいません。そういう面でも安心して使用できるクラウドを提供できているといえます。さらに、プライバシー問題で懸念が指摘されるAIについても『責任あるAI』を掲げ、6つのコミットメントを示して外部に公開しています。業務の根幹にかかわる領域でも使用できる信頼性を確保し、製造業の業務プロセスをしっかり支える技術、体制を整えています」と清水氏は強調する。

 今後は、さらに両社でこれらの協業の成果を国内製造業にも展開し、導入事例を生み出していく方針だ。「AIとクラウドでもたらされる新たな価値を国内でも少しでも早く実現し、成果を体感してもらいたいと考えています」と清水氏は述べる。また北村氏は「『失われた30年』などともいわれますが、現場とAIを組み合わせることで、新たな可能性が日本の製造業には開かれていると感じています。両社でAI活用のボトルネックを取り除き、日本の製造業の再興に貢献したいと考えています」と抱負を述べている。

 生成AIは日本の製造業が抱える課題をさまざまな形で解決する可能性を秘めているのは間違いない。しかし、モノづくり業務で実際に活用するには、専門業務で使用するアプリケーションとの融合、使用するための基盤技術やその信頼性など、越えなければならないハードルが数多く存在する。その点で、シーメンスとマイクロソフトの協業体制は、日本企業が変革を遂げるための「現実解」として、これらのハードルを一気に飛び越える大きなきっかけとなるのではないだろうか。

photo シーメンスの北村氏(左)とマイクロソフトの清水氏(右)

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年8月6日