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正常品データだけで構築可能なAIが熟練工を全数目視検査から解放するリアルタイム異常検知システム

工場内にはいまだに熟練作業者が目視で製品の品質検査を行っているラインが数多く残っている。この課題を解決すべく、システムインテグレータが2018年10月24日にリリースしたのが「AISIA-AD」だ。熟練工による全数目視検査の負荷を大幅に軽減できる、現実的なAI異常検知ソリューションとなっている。

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事業の新たなテーマとしてAIへの取り組みを始動

 日本のソフトウェア業界といえばエンジニア常駐派遣型の企業が多い。そんな中、「海外のまねをするのではなく、将来を見越して独自のアイデアで製品を企画して開発する」ことに強いこだわりを持ち、常に時代のニーズに合ったソフトウェア製品を創り続けているのがシステムインテグレータである。

 1996年に日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」をリリースし、2004年にはまたしても日本初となるWeb型ERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で企画/開発。さらに2008年には、世界でも類を見ない統合型のプロジェクト管理システム「SI Object Browser PM(OBPM)」を、続いて2013年には設計支援ツール「SI Object Browser Designer(OBDZ)」をリリースするなど、そのベンチャー精神あふれる挑戦的なソフトウェア開発力は多方面から注目されるところだ。

 そんなシステムインテグレータが、新たなテーマとして乗り出したのがAI(人工知能)をベースとするソフトウェア開発だ。数年前までスーパーコンピュータなどのハイパフォーマンスな専用マシンが要求されたAIシステムだが、現在ではクラウドのIaaSから提供されるGPUの並列演算能力やスケーラブルなストレージリソース、PaaSとして提供される機械学習やコグニティブ(認知)の機能を組み合わせることで、比較的簡単かつ低コストで構築することが可能となった。

システムインテグレータの八尾政俊氏
システムインテグレータ 製品企画室 担当部長の八尾政俊氏

 同社 製品企画室 担当部長の八尾政俊氏は「まさに機は熟しました。『今、AIに取り組まずして、2020年以降あるいは10年先の社会に、われわれが存在する将来はあるのか』という経営トップの意志に基づき、本格的な開発を開始しました」と語る。

 手始めにマイクロソフトのクラウド「Microsoft Azure(以下、Azure)」上で実験的に開発されたAIシステムが、ゲームを楽しみながら花の名前を簡単に覚えられるスマートフォンアプリ「花の名前ダウト」の第2弾となる「AISIA FlowerName(この花な〜んだ?)」である。名前の分からない花の写真をスマートフォンのカメラで撮ってアップロードすると、AIがその花の名前を教えてくれるというアプリで、2018年2月にリリースされると同時に大きな反響を呼んだ。

 そして、このアプリ開発を通じてAI活用の手応えをつかんだシステムインテグレータが、本格的なビジネス展開を見据えた次のステップとして開発を進め、2018年10月3日に発表したのが、生産現場でリアルタイムに製品を検査する異常検知システム「AISIA-AD(Anomaly Detection)」である。

実証実験から明らかになった生産現場のニーズ

 製造業の生産現場には、サイズや温度、圧力などのセンサーデータをもとに品質チェックを行うさまざまな検査装置が導入されている。だが、これらの装置によって検査できる範囲が広いとはいえないのが実情だ。熟練作業者による目視の検査を必要とする生産現場は数多くある。

 しかしこれは、工場の生産性向上を阻害する非効率要因であるとともに、作業者にとって極度のストレスを長時間にわたって強いられる非人間的な作業であるのは言うまでもない。八尾氏は「当社の考えるAIのコンセプトは、“人の仕事を奪う”ことではなく、“人々の生活を豊かにする”ことにあります。その意味でも目視検査の課題をAIによって解決することは、私たちのビジョンと合致します。そして何より、この課題を抱えている生産現場は非常に多いだけに、大きな市場性が期待できます」とAISIA-AD開発の狙いを示す。

従来の課題を解決する「AISIA-AD」による異常検知
従来の課題を解決する「AISIA-AD」による異常検知

 もっとも、実際の生産現場の課題や実情を知らずして、いきなりこのようなシステムを開発できるわけではない。そこでシステムインテグレータがその前段階として取り組んできたのが、ある大手精密機械メーカーと協力して実施した異常検知の実証実験である。この実証実験からは、現在の生産現場がAIによる異常検知に求める切実かつ現実的なニーズだった。

システムインテグレータの今井亮介氏
システムインテグレータ 製品企画室 リーダーの今井亮介氏

 その大手精密機械メーカーでは、日々10万個に及ぶ製品を熟練工が全数目視検査を行っている。その作業負担は膨大なものであり、AIによる異常検知でこれを軽減できれば、熟練工を他の工程に配置でき生産現場の業務は大きく効率化される。ただし、この目的を達成する上で課題になるのが「誤検知」だ。システムインテグレータ 製品企画室 リーダーの今井亮介氏は「統計学に基づく現在のAI技術において、誤検知を100%なくすことはできません。そこで、最後に必ず目視検査のプロセスを入れることを前提にして、その目視検査プロセスにかけなければならない製品の数を大幅に減らすための開発を進めました」と説明する。

 そこで求められた要件は2つ。1つは「正常品の一部が異常品と誤判定されたとしても問題はない」。もう1つは「異常品が正常品と誤判定され、万が一そのまま出荷されてしまうと大問題となるため、こちらについては熟練工と同等もしくはそれ以上の精度がほしい」である。この要件に基づくことで、最後の目視検査プロセスは全数で行う必要がなくなり、異常品の可能性があるものを検査するだけで済むようになるわけだ。「AIといえども、現在の技術レベルで100%の精度を実現するのは不可能で、仮に限りなくそれに近い精度を求めるならば莫大なコストがかかってしまいます。お客さまの率直なご意見から、現実解として提供すべき判定精度、それを実現するために最適なディープラーニングのアルゴリズムなど、開発の基本方針を立てることができました」(今井氏)という。

AzureのPaaSでエッジコンピューティングのプラットフォームを構築

 2018年10月24日に正式リリースされたAISIA-ADの特長を、さらに詳しく掘り下げていきたい。AISIA-ADはクラウド上で学習し、生産現場で異常判定を行うエッジコンピューティングのプラットフォームとして構成されている。

「AISIA-AD」の構成例
「AISIA-AD」の構成例

 具体的にはAzure上でPaaSとして提供されている「Azure Machine Learning Service」を使って製品の画像データを用いた学習を行い、そこから得られたAIモデルを「Azure IoT Hub/Edge」を使ってエッジ側の機器に展開(デプロイ)する仕組みだ。今井氏は「エッジ側にGPUチップを搭載したサーバを配置することでAIモデルを高速処理し、生産ラインを次々と流れてくる製品のモニタリングおよび異常判定をリアルタイムに実行することが可能となります」と述べる。

 また、基盤となるクラウドサービスとしてAzureを用いた理由として今井氏は、「AIモデルの生成から管理、デプロイまで、エッジコンピューティングの基本的な仕組みをPaaSの組み合わせだけで構築できるという点で、Azureは他のクラウドサービスを大きくリードしています」というポイントを挙げる。

 さらに八尾氏は、信頼性や安全性の観点からAzureの優位性に言及する。「多くの製造業で、Windowsをはじめマイクロソフト製品は広く普及しており、日頃から慣れ親しんだベンダーが提供しているクラウドサービスとして、Azureであれば大きな信頼を得られます。東日本と西日本の両方にデータセンターを持っていることもセキュリティ上の重要なポイントとなります。もっとも、それでもクラウドに製品品質に関連するデータを上げたくない(クラウド上で学習さえしたくない)というお客さまが数多くいるのも事実ですが、そうした中で持ち望まれるのが『Azure Stack』の新展開です。このハイブリッドクラウド基盤のもとでAzure Machine Learning Serviceがサポートされた暁には、オンプレミスで複雑なシステム構築を行うことなくクラウドと同じ仕組みで学習を行うことが可能となります。そうした今後への期待も込めて、今のうちからAzureのアーキテクチャに準拠しておくことのメリットを重視しました」(同氏)。

異常品の画像が用意できなくても異常検知モデルが作成可能

 もっとも、AISIA-ADがターゲットとする異常判定は大きな市場拡大が期待できる一方で、この市場はIoTやAIをベースとしたさまざまな製造業向けソリューションを展開する他のベンダーも続々と参入している“激戦区”である。今後、システムインテグレータとしてそこにどんな付加価値を打ち出していくのかが強く問われることになる。

 そうした中で注目したいのが、同社がAISIA-ADを通じて提供するディープラーニングのハイブリッドのアルゴリズムである。

 ディープラーニングを使った異常検知を導入する際にしばしば問題となるのが、学習で必要となる教師データを集められるか否かだ。正常データならいくらでも用意できるのだが、不良はめったに出現しないだけに異常データを思うように得られないという生産現場は少なくない。「そこでAISIA-ADでは、『正常データのみ学習するモデル』と『正常異常両方を学習するモデル』の2つのモデルを装備し、さまざまな現場の事情に応じた導入を可能としています」と今井氏は強調する。

 まず「正常品のみ学習するモデル」で用いられているのが、VAE(Variational Auto Encoder)を中心としたディープラーニングの生成モデルだ。そこにシステムインテグレータの独自技術である「Chameleon filter(カメレオンフィルター)」を組み合わせることでノイズと異常を高精度で見分け、異常箇所をヒートマップ表示する。なお、このChameleon filterは、熟練工が目視検査を行う際に見ているポイントを明示的に指定し、それ以外の領域を異常判定の対象から除外する機能である。「Chameleon filterの設定はユーザー自身で行うことが可能で、生産現場でのチューニングを重ねることにより、熟練工の判定基準を反映した異常検知を行うことが可能となります」と今井氏は語る。

「AISIA-AD」のモニタリング画面と「Chameleon filter」によるヒートマップ表示
「AISIA-AD」のモニタリング画面と「Chameleon filter」によるヒートマップ表示

 一方の「正常品と異常品の両方を学習するモデル」で実装しているのは、ディープラーニングで広く用いられている「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」というアルゴリズムである。これは先述のAISIA FlowerNameでも用いられており、少量データで時間をかけずに学習できるのが特長だ。AISIA FlowerNameは現在257種類の花の名前を覚えているが、1種類の花に使用した画像はわずか50枚程度であり、異常検知においても同様に高精度の学習を短時間で行うことが期待されている。

ベルトコンベヤー上における「AISIA-AD」を用いたリアルタイム異常検知システムのデモ
ベルトコンベヤー上における「AISIA-AD」を用いたリアルタイム異常検知システムのデモ。カメラと照明、エッジデバイスとディスプレイで構成している

 また、AISIA-ADのような画像を利用した異常検知システムは、工場で生産される製品だけでなく多くの分野に応用が広がっていく。例えば、内視鏡や超音波の画像などの動画を使って病変部を発見する医療分野、農作物の生育状況や規格外農作物を自動仕分けする農業分野などは特に有望だ。また、ドローン映像を基に橋やトンネルなどのひび割れ、破損を検知するインフラ保全などでは、既に幾つかの引き合いが寄せられているという。

 「広い意味での外観検査をターゲットとする中で、今後は単に人間の目視を代替するだけでなく、人間が目で見ても分からなかった異常を検知するためのAI活用も模索していきたいと考えています。AIはあくまでもツールの1つであり、他のさまざまな独自技術も組み合わせながら課題解決を図っていく、多くの“引き出し”を持っていることが私たちの最大の強みであると自負しています」と今井氏は語る。

 「マイクロスコープや産業用カメラなど光学機器については松電舎、エッジデバイスについては岡谷エレクトロニクスと協業するなど、ハードウェア領域でもパートナーシップを広げており、IoTやAIに関するお客さまの多様なニーズにワンストップでお応えしていきます」と八尾氏も訴求し、今後のマーケットをリードしていく構えだ。

今後の「AISIA-AD」の展開拡大に向けて意気込む八尾氏(左)と今井氏(右)
今後の「AISIA-AD」の展開拡大に向けて意気込む八尾氏(左)と今井氏(右)

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製品検査をリアルタイムで実現、低コスト・短期間で導入できるAI異常検知

工場などでの完全自動化検査をはじめ、医療や農業など、幅広い分野での活用が期待されるAI異常検知技術。コスト面などから、導入のハードルは高いと思われてきたが、容易に利用できる製品の登場が現状に風穴を開けようとしている。


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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年12月31日

 

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