AI時代の日本の製造業の強みは「残り10%」にアリ――Aras新CEOが語るPLMの未来Aras新CEOに聞く

AI時代を迎え、モノづくりプロセスは大きく変容しつつある。その中でPLMはどのような役割を担っているのだろうか。Arasの新CEOとなったレオン・ローリセン氏とMONOist編集長の三島一孝が対談した。

PR/MONOist
» 2026年03月25日 10時00分 公開
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 主要PLM(Product Lifecycle Management)ベンダーのArasは、2025年9月に新CEOとしてレオン・ローリセン(Leon Lauritsen)氏が就任した。日本になじみの深いローリセン氏は、AI(人工知能)時代を迎え大きく変化するモノづくりの在り方をどのように捉えているのだろうか。ArasのAIへの取り組みと、日本の製造業の今後について、MONOist編集長の三島一孝と対談を行った。

photo Aras 新CEOのレオン・ローリセン氏(左)とMONOist編集長の三島一孝(右)

柔道を通じて日本と交流してきた知日派の新CEO

MONOist 三島(以下、三島) 2025年9月にArasの新CEOに就任されました。率直にどのように感じていますか。

Aras レオン・ローリセン氏(以下、ローリセン氏) 私は2007年にMinerva(2022年にArasに合併)の立場でAras Innovatorのコンサルティングを始め、2022年にArasへ入社しました。入社を決めたのは、Arasが製造業の現場の課題を従来と異なるアプローチで解決できると感じたからです。従来のIT業界は長い間、あらゆる企業に同じやり方を押し付けようとしてきました。“Fit to Standard”と言えば聞こえはよいですが、製造業の業務、特にエンジニアリングチェーンに関わる領域は、業種や規模などによって大きく変わります。

 それぞれの企業が異なる業務プロセスを採用しているのに、ソフトウェアの論理で業務をそこに合わせることを正解だとは思いません。誰もが同じ作り方をするのであれば、製造業としての差別化は難しくなります。自社の強みを生かす形で、ITシステムには柔軟な対応が求められています。特に製造業の仕事は一度決めたら終わりではなく、日本語で言うところの「カイゼン」のように日々の創意工夫の下、変化していきます。そうしたカイゼンの成果がITシステムに反映できなければなりません。現場経験を通じて、この確信が生まれました。

 ArasのPLMであるAras Innovatorは、モジュラーアーキテクチャを採用しており、最適な機能を業務に合わせて組み合わせてソフトウェアを構築できます。こうした点がArasの魅力だと感じています。そして今、AIによってその可能性がさらに広がっています。他の誰もできない形で製造業の課題を解決できるという可能性が見えてきました。その中で、話をいただいたことでCEOを引き受けることにしました。

三島 ローリセンさんは日本と深いご縁があるとも伺っています。

ローリセン氏 実は私はずっと柔道をやっています。最初に父が始め、私と娘も柔道家です。私はデンマークで生まれ育ったのですが、東海大学がデンマークに練習拠点を持っており、約5年間にわたり、日本人コーチから指導を受けました。そこで、柔道の技だけではなく日本流の哲学や文化まで学びました。これは私の人生において非常に大切な経験となりました。PLM業界でも、大きな競合企業が存在しますが、“柔よく剛を制す”という柔道の精神で、向き合っています。

モノづくりプロセスでAIを使いこなすのに必要な3つのポイント

三島 CEOを引き受けた理由の1つにAIの可能性を挙げていますが、具体的にどのようなことを感じていますか。

ローリセン氏 世界的な競争環境は強まっているため、製造業はより俊敏に市場の動きに対応しなければなりません。一方で、製品の複雑性が高まる中で開発リソースがより多く必要になるにもかかわらず、人手不足は深刻化しています。つまり、一つ一つの作業をより少ない人数や力で実現することが求められているということです。AIはこうした難しい環境に置かれた製造業の課題を全方位的に解決できる可能性があると考えています。

photo 「AIは魔法ではない」と訴えるローリセン氏

 ただし、現時点のAIは万能ではありません。AIをあたかも魔法のように捉えている経営者も少なくありませんが、AIについての根本的な理解が不足していると、ハルシネーション(もっともらしい間違った情報を生成してしまうこと)などのリスクを避けられません。AIを有効に活用するためには、企業内の全てのデータを整備し、正しくつなぐことが必要です。

 具体的には「データの適切な管理」「アクセス権限の管理」「セキュリティ」の3つが特に重要だと考えています。多くの企業は、生成AIやAIエージェントの革新的な機能に関心を示しますが、それは氷山の一角に過ぎません。水面下にあるデータ整備こそが本質です。

 また、PLMは製品開発のコンテキストを記録するシステムです。Aras Innovatorはデータそのものだけでなく「なぜそのデータが生み出されたのか」というコンテキストまで管理できます。どんな背景や経緯から、誰が変更を承認し、誰が実行したのかなど、コンテキストの記録があってこそ、AIは正しい答えを返すことができます。

 近い将来、大企業においては数十、数百にとどまらず、数千ものAIエージェントが互いに連携しながら意思決定を行う時代を迎えることになるでしょう。その中で、AIエージェント間の情報のやりとりが正しく行われているかどうかは非常に重要なポイントとなってきます。機密情報にアクセスしていないかどうかやAIエージェントそのもののガバナンスなど、全く新しいコンピテンシーを確立する必要があります。Arasはエンジニアリングチェーンにおいて、そのAIプラットフォームとしての役割も目指しています。

AIとPLMを融合する「Aras InnovatorEdge」の狙い

三島 実際にAIプラットフォームとして、このほど「Aras InnovatorEdge」をリリースされました。あらためて、AIとPLMの融合についてどうお考えですか。

ローリセン氏 「Aras InnovatorEdge」は、PLMに蓄積されたエンジニアリングデータを起点に、AIを業務プロセス全体へ実装するためのプラットフォームです。

 「Edge API」「Edge Builder」「Edge AI」の3要素で構成され、Edge APIはPLM内のデータや業務ロジックを外部のAIや他システムと安全に連携させるためのインタフェースです。Edge Builderは、ローコードでAIエージェントや業務アプリケーションを構築するための開発環境で、Edge AIは、生成AIや分析AIを活用し利用するために必要な機能を提供します。これらを組み合わせることで、専門的なプログラミングを前提とせず、ローコードで現場の業務に即したAIエージェントを段階的に構築し、業務プロセスへ組み込むことができるようになります。

photo Aras InnovatorEdgeの全体イメージ[クリックで拡大] 提供:Aras

 こうしたAI機能を自由に組み合わせられるのも、Aras Innovatorがオープンな設計思想を持っているためです。LLM(大規模言語モデル)を中心とした生成AIは多くが専門ベンダーによって開発されており、これらを状況に合わせて選択して採用する必要があります。しかし、一般的なPLMベンダーの多くがクローズドなシステムを採用しており、ここにAIを実装するのは簡単ではありません。Aras Innovatorはもともとオープンであり、“機能の組み合わせ”の一環としてAIのレイヤーが加わっても基本の設計思想は変わりません。企業ごとに独自のAIエージェントを構成し、追加できることが、市場からのニーズとなっています。

 PLMで最もコストがかかるのは、導入時のライセンス購入ではなく、その後の継続的なカスタマイズや変更です。そうした運用コスト負担も、AIによって大幅に削減できる点は大きな魅力になると考えています。

 2026年4月13日に米国で開催する年次イベント「ACE 2026」では、私自身がステージ上でライブデモを行う予定です。「私でもできる」のだから、誰でも簡単に使いこなせることを、身をもって示したいと思います(笑)。

三島 それはとても楽しみですね。

「残り10%」を追求するカルチャーこそAI時代の日本の強み

photo MONOist編集長の三島一孝

三島 グローバルでの立場から見て、日本の製造業の現状を、どのようにご覧になっていますか。

ローリセン氏 日本の製造業に対する期待は非常に大きいです。私が一貫して感心しているのは、日本企業は長期的な視点で物事を考えることです。欧米の企業の多くは四半期ごとの数字しか見ておらず、数年単位の思考で会社を最適化するのは困難です。一方で日本企業は中長期的視野でモノづくりに必要なものは何かをしっかりと吟味する傾向があります。こうした長期的な視点を持つ日本企業こそ、AIを最も有効に活用できると感じています。

 また、日本の製造業の方は自虐的に「保守的だから」と話しますが、世界中の企業を見渡しても、変化を拒む文化を持つ企業はたくさんあります。これに対して日本にはカイゼンの精神があり、どうすればさらに良くなるかを常に考え続けています。変化を受け入れてより良いものにしようとする土壌は、むしろ日本のほうが強いと私は見ています。確かに意思決定には時間がかかるかもしれませんが、決まった時にはすでにコンセンサスが形成されています。欧米の企業は判断こそ速くても、実行段階で各拠点の現場と衝突が生じ、実際に形にできないものの数が非常に多くあります。最終的な実行フェーズまで考えると日本の製造業は決して保守的ではないと感じます。

三島 AIが今後さらに普及していく中で、日本の製造業にはどんなチャンスがあると思いますか。

ローリセン氏 例えば、究極の製品品質を100点とし、品質合格基準が80点に設定されている場合、80点から85点の品質を目指すのは、どの国のどの企業でも振る舞いとしては同じだと思います。優れたAIを活用すれば品質活動の時間を節約すると同時に90点も目指せるでしょう。しかし、多くの企業はそこで活動を止めてしまいます。しかし、日本企業はAIを活用して同じ余った時間で100点の品質を目指すことができます。この最後の10%が、AI時代における日本の製造業の強みだと考えます。

 このカルチャーを持っているのは日本だけです。そのマインドセットを製造現場だけでなく、データを作る段階にも適用してほしいのです。データの完成度を100点に近づけることで、AIが導き出す答えの精度も格段に上がります。日本企業がAIを正しく使えば、再び日本のモノづくりが世界一になれると、心から思っています。

三島 とても心強いお言葉をありがとうございます。最後に、ローリセンさんご自身の今後の抱負をお聞かせください。

ローリセン氏 AIの世界では数年後の将来さえ誰も正確に予測できません。勝者が誰になるかも分かりません。だからこそわれわれの使命は、いかなる状況でもお客さまを最善の形でサポートし続けることです。より良い機能を、必要なタイミングでお届けし、お客さまが成功することがArasの成功だと考えています。

 AIが人間の仕事を奪うことを危惧する方もいると思いますが、新しいテクノロジーの歴史を振り返ってみても、必ず人間は新しい役割を見つけてきました。モノづくりの現場でも情報を探す無駄な時間をなくし、優秀なエンジニアが本当に創造的な仕事に集中できるようになることが重要です。AIを恐れるのではなく、新たなチャンスとして捉えてほしいと思います。そして日本の製造業は、そのチャンスを誰よりもうまく生かせる素地を持っていると考えます。

三島 ありがとうございました。



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提供:アラスジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年4月24日