データドリブン経営が注目されている製造業では、各所から収集したデータに対して、高精度なクレンジングを実施し、高品質なものに変換することが求められている。これをコストや工数を抑えて実現する方法を解説する。
今日のデータ活用において、極めて重要と見なされている要素がある。それはデータの一元管理と整理だ。現在、最も多くのユーザーを擁するWebブラウザの提供企業は、膨大なWebページなどを独自のシステムアーキテクチャとアルゴリズムに基づいて収集・分類・整理している。これによって卓越した性能を持つ検索エンジンを全世界のユーザーに提供し、誰もが膨大なデータにすぐアクセスできる環境を作り上げたのだ。
だがこれと同様の仕組みを、企業内のデータ活用のシーンで構築するのは難しい。前提として、企業内のクローズドな環境で運用されているデータは、テキストやスプレッドシート、スライド、PDFなど多様なフォーマットで保存されており、統一されていないからだ。
エフティー 代表取締役会長の加藤大雄氏は、「誰もがデータに簡単にアクセスできるようにするには、データを構造化した上で、分析可能な共通フォーマットに落とし込んで整理しなければなりません。ただ、膨大な工数とコストが求められるため、これまでなかなか取り組みが進みませんでした。国内製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が停滞している要因の1つです」と指摘する。
これに続き、加藤氏は次のようにも述べた。「社内のあらゆる情報を標準化されたフォーマットに落とし込んでクレンジングし、データベース化する。データ活用環境としては理想的ですが、国内製造業の誰もが同じように取り組めるかというと不可能に近いでしょう」
では、どうすればよいのか。ここで、求められるのが前述の“コロンブスの卵”的発想の転換だ。エフティー ビジネス戦略・開発部 執行役員 部長の鳥井晋吾氏は「自分自身でデータ整理を行う、ということに固執する必要はありません。各業務現場や工場から収集したデータをそのまま格納するだけで、自動的に整理され、誰もがいつ、どこでも必要な情報を検索できる仕組みを作ればよいのです」と指摘する。
こうした仕組みを実現するサービスとしてエフティーが提供しているのが、次世代ナレッジ型データメッシュプラットフォーム「Kraken.」である。
Kraken.は企業内で異なる使われ方をする用語や部品などの名称をAIで学習し、その意味に基づいて自動的にデータを整理し、データの民主化を実現する駆動型データプロダクトだ。いわば社内の“方言”を学んで、どの言葉が同じ意味を持つもの同士かを判定する機能がある。
Kraken.が備える機能的特徴は、頭文字をとって「4つのA」として表現される。1つ目のAが意味するのは、「Anyone(誰でも)」だ。プログラミングやデータベースの知識を有することを前提としないノーコード環境で、現場のユーザー自身が容易にデータ入力や分析を行える。データ活用のシーンの裾野が広がり、組織全体の生産性を向上させる。
2つ目のAは、「Anything(どんなものでも)」だ。オープンアーキテクチャを採用しており、構造化データだけでなくテキストやスプレッドシートなどの非構造化データや半構造データまで、全て取り込んで統合的に活用できるようにする。
3つ目のAは、「Anytime(いつでも)」だ。Kraken.上のデータはリアルタイムで更新されるため、最新の情報に基づき意思決定を行える。さらにデータ間の関係性を可視化する動的ナレッジグラフによって、データの構造や品質のばらつきにも柔軟に対応し、必要な情報を直感的かつ効率的に検索/活用できるようにする。
そして4つ目のAは、「Anywhere(どこでも)」だ。各部署がデータドメインの管理権限を持っており、自律的で機動的なデータ活用を可能にする。データの安全性を所有者自身が担保するので、部門間の壁を越えたデータ共有とコラボレーションが実現できる。
では、Kraken.は具体的にどうやって「4A」を実現しているのか。簡単に言えば、企業内に点在する構造化・非構造化・半構造化データを自動的にチェックし、データを構造化した上で動的ナレッジグラフを構築しているのだ。先ほどWeb検索エンジンがインターネット上の膨大なWebページやデータを収集する仕組みに言及したが、これと同様に社内の情報を「クロール」して情報整理を行っている。
「イメージとしては石油精製のプロセスに例えられます。原油を蒸留または分解することでガソリンや灯油などの成分を抽出します。同様に、Kraken.も収集した元データを、調達データや設備データ、コストデータなど意味別にデータを細分化することで、すぐに『使える』状態にして蓄積します」(鳥井氏)
Kraken.はデータ活用環境の継続的な運用においても強みを発揮する。一般的なデータ統合の仕組みでは、データセットを新規に作成するたびに、目的に応じたデータの収集や整理、データ間の関係性の構築を手動で行わなければならない。しかも、目的によってデータセットは異なる要件で構築する必要があるため、使い回しもしづらい。製造業の情報システム部門にとって大きな業務負荷となる作業だった。
Kraken.は動的ナレッジグラフを活用した機能によってこの課題を解決する。鳥井氏は「動的ナレッジグラフを使うことで、データ間の関係性を自動的に維持、更新できます。データ間の関係性があらかじめ明白になる上、新規データの情報更新も容易です。データセットを再利用しやすくなり、作成にかかる時間と労力を大幅に削減できます」と強調する。
新しい動きとして注目されるのが、PLMの世界的ベンダーであるArasが提供し、多くの製造業が活用している「Aras Innovator」とKraken.の連携だ。Aras Innovatorには図面やBOM(部品票)、仕入れ先や生産、販売に関するデータが集約されている。しかし、これらのデータの中には同じ意味にもかかわらず、バリューチェーンやエンジニアリングチェーンの上で異なる名称や製番、表現で扱われている多々ある。結果として、必要なデータをうまく活用できない場面もあった。
アラスジャパン コミュニティ/営業 ディレクターの中根宏氏は、「Aras Innovator にKraken.を組み込むことで、フレキシブルなデジタルスレッドでデータ同士を関連付けることが可能となります。PLMを通じて必要なデータを簡単に検索し、これまで以上に活用しやすい環境を提供できます」と説明する。そして、「Arasとエフティーのパートナーシップにもとづき、このベストマッチのソリューションを共同展開していきます」と力強く語った。
Aras InnovatorとKraken.によるソリューションは、製造業のデータドリブン経営実現に大きく貢献しそうだ。中根氏がユースケースの1つに挙げるのが造船業だ。近年、国内造船業界はグローバル市場での生き残りをかけた合併が進んでおり、もともと異なる文化をもっていた企業が1つにまとまる事例が増えている。それゆえの問題も噴出している。
「企業のサプライチェーンをまたいで製品のトレーサビリティー強化策を展開したくとも、工場ごとに部材の名称も日常作業で飛び交う用語もばらばらでは困難です。そうなれば全社的な共通のデータ規格を策定したくなるでしょうが、これまでのやり方を変えたくない現場から猛反発を受けるのは火を見るより明らかです」(鳥井氏)
そこでAras InnovatorとKraken.の連携ソリューションを導入すれば、現場の“方言”を修正せずとも、データ統合に関わる作業を本社が一括して担当すれば済む。しかも、その作業の大部分は自動化されるのだ。
「既存のシステムアーキテクチャのもとでETL(抽出、変換、格納)ツールやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどを使って手作業で目的別にデータセットを作成する場合と比較すると、作業に費やす労力を控えめに見積もっても70%以上削減でき、大幅なコスト削減も見込めます」(鳥井氏)
中根氏は「特に日本の製造業では、過去数十年にわたる作業日報や設備の故障対応報告などの履歴データが大量に蓄積されていますが、うまく活用できていないのが実情です。そうした非構造化データ同士をKraken.で自動的にひも付け、名寄せできるのであれば、Aras Innovatorに多くのデータを格納していく動機が生まれます。そうすれば、PLMの活用もより一層加速していくでしょう」と力強く語った。
これを受けて鳥井氏は、「私たちはKraken.をAras Innovatorに不可欠な要素として位置付けられる存在にすることを目指しています。互いの製品の相乗効果で、国内製造業の生産性を20%向上できると見込んでおり、さらに、その成果を現場の従業員に還元できるようなDXを支援していきたいと考えています」と答えた。
今後、国内製造業が国際的な競争力を高めていく上で、高品質かつ検索性の高いデータ利活用環境を整備することは何より重要だ。「国内製造業が再び世界から『ジャパンアズナンバーワン』と呼ばれるようにしたい」(中根氏)という理想を掲げ、両社は企業課題を抜本的に解決可能な、画期的なソリューション開発にまい進している。
提供:アラスジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年5月24日
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.