IoTの可能性を広げるマルチキャリア、1枚のSIMカードでプロファイルを自由に切り替え:IoTデバイス開発
IoT市場が拡大を続ける中で、通信がつながらないという課題への対応がより重要になっている。課題解決の糸口となる、複数の通信キャリアを選択できるマルチキャリアサービスにおいて、IIJが新たに開発したのが「IIJマルチプロファイルSIM 2.0」である。
組み込み機器をはじめとするデバイスをインターネットにつなぐ「IoT」という言葉が広く使われ始めてから、すでに10年以上が経過した。バズワードとしての熱狂が落ち着いた後も、国内のIoT市場は着実に拡大を続けている。
そうした中で存在感を高めているのが、2018年にフルMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)となったインターネットイニシアティブ(以下、IIJ)だ。フルMVNOとは、一般的なMVNOとは異なり、加入者管理機能を自ら運用することでSIMの発行や管理、認証を自社の裁量で行えるMVNOのことである。
IIJ モバイルサービス事業本部 MVNO事業部 ビジネス開発部 フルMVNO推進課長の遠見洋一氏は「フルMVNOのこの自由度こそが、IoT向けをはじめとする法人向けモバイルサービスで大きなアドバンテージとなります」と強調する。
実際、その成果は回線契約数の伸びにも表れている。同社の公開資料によれば、モバイル総回線数は2023年度末の約483万回線から、2025年度(2026年3月期)末には約640万回線へと1.3倍に増加した※)。伸びをけん引しているのはIoT用途を中心とする法人向けモバイルサービスである。
IoT導入を阻む「つながらない」問題
IIJのフルMVNOサービスが法人分野で需要を拡大している背景には、IoTデバイスに関する2つの大きな課題がある。
1つは、IoTデバイス開発の難しさだ。IoTデバイスで使える通信方式の多様化が進んでおり、自社のアプリケーションや利用環境に最適な通信方式を見極めるのは容易ではない。IoTデバイスを開発した経験のない企業にとっては、そもそも何から着手すべきかも判断しにくい。IIJは、アンテナやモジュールなどデバイス側の要件まで踏み込んで、顧客とともに検討する体制を整えている。モバイルサービスに加え、クラウド基盤を活用したIoTサービスなどを組み合わせた提案もできる。
もう1つは、ネットワークが「つながらない」問題への対応だ。これまでの携帯電話網のカバレッジは都市部や郊外、またそれらから外れるルーラルエリアでは人が居住しているところを中心に整備され、特に山間部では端末台数もそれほど多くなかった。それが現在では、IoT端末のルーラルエリアへの展開が進み、特に山間部ではそもそも電波が入らなかったり、端末台数の急増に伴う電波の輻輳(ふくそう)によってつながらなくなったりするケースが散見されるようになった。
IIJ モバイルサービス事業本部 MVNO事業部 ビジネス開発部 フルMVNO推進課の米盛博光氏は「日本国内であれば、モバイル回線はいつでもどこでもつながると考えている方が多いのですが、実際はそうはいきません。単一キャリアのSIMだけでIoTを運用しようとした場合、『5〜10%くらいの端末で、つながらない問題が発生してしまう』という企業の悩みを聞いています」と指摘する。
1枚のSIMでマルチキャリア対応を可能に
そこでIIJが、この課題の解決策の一つとして提案しているのが、マルチキャリアの活用である。IIJは、NTTドコモとKDDI、双方のモバイル回線をMVNOとしてサービス提供しており、以前から両社のSIMカードやeSIMを提供してきた。
ただし、スマートフォンやタブレット端末とは異なり、多くの場合物理的なSIMスロットを1つしか持たないIoTデバイスでは「SIMを1枚にまとめたい」という要望が強い。そこでIIJは2022年、1枚のSIMカードにIIJプロファイルとローミングプロファイルの2つを格納した「マルチプロファイルSIM」を開発した。ハードウェアを再設計することなく通信を冗長化できる点が高く評価され、さまざまな業界/業種の企業で採用が検討されている。
しかし、マルチプロファイルSIMにも課題が残っていた。ネットワークがつながらない際の切り替え先にローミング回線を使う構成のため、大容量通信が発生するケースでは通信コストが膨らんでしまうのだ。
この課題を克服するためIIJが新たに開発し、2025年8月に技術発表したのが「IIJマルチプロファイルSIM 2.0」である。ローミングを用いることなく、NTTドコモまたはKDDIのネットワークに直接接続することを特徴とするものだ。
「いずれの通信プロファイルを使用した場合でもコストを抑制することが可能です。エリアごとに最適なキャリアの通信プロファイルに切り替えることで、通信網障害に備えた冗長性確保はもとより、広域で展開するIoTサービスにおいて特定キャリアの電波が届かない場所で代替通信が必要なケースや、場所を移動しながら利用するケースなどにも柔軟に対応できます」(遠見氏)
ローミングに頼らない国内2キャリア接続の強み
「SIM1枚で複数のネットワークにつながる」というマルチキャリアサービスは、他社からも提供されている。そうした他社サービスと比較して、“真のマルチキャリア”と呼べるIIJマルチプロファイルSIM 2.0ならではの強みを、さらに掘り下げて見ていくことにしよう。
マルチキャリアサービスの多くが採用しているのは、海外キャリアのローミングSIMを国内に持ち込む方式だ。複数キャリアにつながる利点を得られる一方、「通信が海外を経由することによる遅延」をはじめ、「閉域ネットワークを組みにくい」「ローミング料金によるコスト増」「低容量用途に限定されやすい」といった課題があり、国内の法人用途では利用が広がっていなかった。
IIJは、この課題の裏側にある企業の潜在ニーズに踏み込んだのである。遠見氏は「IIJマルチプロファイルSIM 2.0は、当社自身が運用する国内のMVNO設備と国内キャリアのネットワークのみで完結するため、遅延を最小限に抑えることが可能です。また、多彩なサービスメニューを通じて、マルチキャリアと閉域ネットワークを両立させた構成にも柔軟に対応できます」と述べる。
また、ローミングキャリアを含め複数キャリアに接続できるサービスを提供している他事業者と、IIJマルチプロファイルSIM 2.0が大きく異なるのは、「通信プロファイルの切り替え制御に対する思想の違い」である。他事業者が、キャリアの切り替えをSIM内部で自動的に行うのに対し、IIJはあえて切り替え条件をIoTデバイス側に委ねている。
「さまざまなお客さまへのヒアリングを重ねた結果、どういうトリガーでキャリアを切り替えたいのか、用途によって大きく異なることが明らかになりました。例えば、1日数回しか通信しないセンサーと、リアルタイムで大容量通信する監視カメラでは、エラー判定の条件がまったく違います。死活監視に基づいて切り替えたい、電波強度を捉えて切り替えたい、その両方を組み合わせたいなど、画一的なパターンではどうしても対応できない要件があり、キャリア切り替えをIoTデバイス側でカスタマイズできる形にしています」(米盛氏)
IIJマルチプロファイルSIM 2.0では、切り替えプログラムをIIJが提供し、IoTデバイスへの組み込みは顧客側で実施するという形を取っていて、ユーザーの意図に沿って接続先ネットワークを制御させることを優先した設計思想だ。なお、SIM1枚で国内2キャリアの通信プロファイルを任意に切り替えて利用する技術については、IIJの独自仕様となっておりその内容は特許を取得済みである。
今後の展望――ローカル5Gへの対応も
インターネット、セキュリティ、クラウド、SI、モバイルを事業の柱とするIIJの根幹にあるのは、「ネットワークにどうつなげるか」という使命である。キャリアのモバイル回線からインターネットを経由することなく、IIJの閉域ネットワークを介して、自社クラウドサービスである「IIJ GIO」をはじめAWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどの主要クラウドとセキュアに接続できる。さらに「IIJ IoTサービス」と組み合わせることで、データ収集やデバイス管理を含めたIoTシステムの構築から運用までを一貫して支援している。
IoTの現場でこうした閉域接続がますます強く求められる中、IIJマルチプロファイルSIM 2.0が果たす役割は大きい。マルチプロファイルSIMはIP無線機などでの利用が進んでいるが、今後はインフラ分野や官公庁分野など、閉域接続へのニーズが高い領域での活用も期待される。 米盛氏は「現在はIP無線機などを中心に採用が進んでいます。IIJマルチプロファイルSIM 2.0は閉域ネットワークとの組み合わせにも対応できるため、高い信頼性やセキュリティが求められるインフラ分野や官公庁分野での活用にも期待しています。また、通信の安定性がビジネスに直結する決済システムにおいて、すでに導入が決定しています。キャリアを切り替えても同一の通信プランのデータ通信容量を共通利用でき、それぞれのキャリアごとに通信プランを契約しなくてよいため、監視カメラなどの大容量通信においてもコストコントロールが極めて容易です」と意気込む。
もちろん、製造業の現場も有望な分野である。遠見氏は「工場や倉庫では、メーター監視を始めとするさまざまな用途での通信が必要ですが、広い建物内では単一のキャリアでは十分なカバレッジが確保できない場合が考えられ、IIJマルチプロファイルSIM 2.0が有効です。セキュリティ上の要件から、Wi-Fiを使いにくい現場でも、モバイル回線が利用できると考えています」と語る。
さらにその先では、接続先の選択肢の拡張が視野に入る。「今後、ローカル5G/sXGPに接続できる回線を用意できれば、キャリア回線とのハイブリッド構成も可能となります。仕組み自体は同じで、組み込む回線が異なるだけです。お客さまの要望に合わせ、柔軟に対応したいと考えています」(米盛氏)。
ローカル5Gは利用可能なエリアが限られるが、エリア外ではキャリア回線に切り替えられる構成をSIM1枚で実現できれば、利便性は大きく向上する。
IIJマルチプロファイルSIM 2.0の価値は極めてシンプルだ。従来は2枚のSIMで提供していた機能を、1枚に集約した点に尽きる。必ずつながることを突き詰めたこの進化が、IoT活用の裾野の拡大を支えていく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社インターネットイニシアティブ
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年10月31日








