デジタルトランスフォーメーションへの取り組み、成功に必要な3つのポイント:製造業DX
製造業を取り巻く環境が厳しさを増す中、DXへの期待が高まっている。しかし、日本の製造業で、DXで成功している企業はまだまだ少ない。その要因と解決策としてはどういうことがあるのだろうか。
製造業を取り巻く環境は厳しさを増している。労働人口減少に伴う慢性的な人手不足や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による生活様式の変化(ニューノーマル)、製品のサービス化やサプライチェーンの高度化によるビジネスモデルの変化など、多くの環境変化が差し迫った状況だ。加えて、SDGs(持続可能な開発目標)に象徴されるような「持続可能な社会へ向けた改革」などへの要求も世界的に高まっており、社会的な役割や期待度も高まっている。こうした中で競争優位性をいかに作るのかというのが、製造業にとっての大きな課題となっている。
その解決策として注目を集めているのがDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)である。デジタル技術を活用し、データを活用することで、業務の効率を高め、新たな価値創出につなげていく考えである。既に「2025年の崖」などが注目された数年前からDXへの取り組みは多くの企業で進められているが、日本の製造業におけるDXの成功企業はまだまだ少ないというのが現実だ。
取り組みを進めつつも成果が得られないのはどのような問題があるのだろうか。長年、データ分析によるビジネス価値向上を提供してきたSAS Institute Japan(以下、SAS)で、製造業向けの提案を進めるソリューション統括本部 製造インダストリーソリューショングループ 部長の池本洋信氏に話を聞いた。
DXはツールやシステムで解決できる問題ではない
日本の製造業でDXの成功企業が少ない要因について「パッケージやツールを導入するといったIT的なアプローチで済む話ではなくもともと難しいというのはあります。DXは『デジタル』というキーワードが前面に立ちがちですが、大事なのは『トランスフォーメーション』です。業務プロセスのみならず、場合によっては業態すら変えていくというのが本質です。アプローチもかつてのERPのように『システムに合わせろ』という話でもありません。トランスフォーメーションの方向性や土壌は企業個々に根差したものになるので、自社のDXについてまだ手探りで進めている企業が多いということが要因としてあると考えます」と池本氏は分析する。
また、もう1つのポイントとして他社事例をそのまま導入しようとしてうまくいかないケースがあることを指摘する。池本氏は「DXというキーワードで部分的な事例も出つつありますが、その他社の事例をトランスフォーメーションとしてそのまま自社にも取り入れられるかというと難しいのではないでしょうか。ほぼ全ての事例が新しい発想に根差しており、実現についてはその企業での理念や文化にひも付いています。DXの最初のステップは『自社なら何をどうできるか』という問いに答えを出すところです。つまり、答えは企業毎に異なるのです」と考えを述べている。
こうしたポイントは、SASが取り組むデータアナリティクスで求められるアプローチと共通の部分が多いという。「これらはわれわれのコアコンピタンスである『データを元により良い意思決定につなげる』というアナリティクスと共通部分が多いと考えます。例えば、われわれはデータ分析のお手伝いを過去に数多くさせていただきましたが、これまで全く同じ分析は1つとしてありません。顧客分析を行いたいと考えた場合、同じ業界の似たような業態、規模の企業であったとしても、プロジェクトはそれぞれ異なるものとなります。利用するデータもそもそも違いますし、分析対象の『顧客』という点は同じでも、分析した結果をどのような形で業務に反映するのか、何をどのように変えていくのかというゴールは、企業それぞれのカルチャーや価値観、市場感など、さまざまな要素が関連するため、それぞれ異なってくるからです。言い換えれば、アナリティクスはいつも新しい事に対するチャレンジです。その点で今のDXという大きな取り組みに通じるところは多いと考えています」と池本氏は語る。
こうした実績を踏まえてSASは、製造業のビジネスに寄り添い、中長期的なパートナーとして、個々のデータの価値をビジネス価値に変換する取り組みを進めている。2020年11月25日にオンラインで開催された「SAS FORUM JAPAN 2020」では、実際に製造業がDXに取り組む中での成功事例として、TOYO TIREの取り組みが紹介された。
「タイヤ力」の検知で次世代モビリティ社会への貢献進めるTOYO TIRE
TOYO TIREでは、タイヤから得られるデータを価値として転換することを目指した「TOYO TIRE タイヤセンシング技術コンセプト」の開発を進めている。現在、自動車業界は100年に一度といわれる大変革期に突入しており、各社は「CASE(コネクテッド、自動運転化、シェアリング/サービス、電動化)」による変化に対応するための技術開発とその実用化を進めているところだ。
この中でTOYO TIREはタイヤを「路面環境やクルマの稼働状況などを取得するセンサー」として位置付け、このデータを活用して得られる価値を提供することを目指している。これが、「TOYO TIRE タイヤセンシング技術コンセプト」である。同コンセプトでは、取得すべき概念として「タイヤ力」を定めている。「タイヤ力」とは、タイヤ挙動時のパフォーマンスを定義したものだ。タイヤのグリップ力の現状と限界を正確に把握することで、クルマが停止したり、曲がったりすることが可能かどうかを見通すということを価値として位置付けている。
タイヤに搭載した複数のセンサーによる情報を収集し、その情報を基に分析技術およびAI技術を駆使し、タイヤ力を推定するモデルを作る。これを走行中に稼働させ、タイヤから得られるリアルタイム情報からタイヤ力を導き出し、安全走行やメンテナンス、商品開発につなげていく発想である。この推定モデル構築などデータ活用の仕組みをSASとの協力で進めたという。
SAS FORUM JAPAN 2020の基調講演では、TOYO TIRE 執行役員 技術統括部門 中央研究所長の下村哲夫氏は「われわれはメーカーでありモノづくりには長けていますが、タイヤから得られる膨大な情報をどのように処理をすればよいのかという点については、ノウハウも人材もありませんでした。データの扱いに長けたSASと協力することで、期待するような成果が出せるようになりました」とSASとのパートナーシップの価値について言及している。
池本氏は「TOYO TIRE様の『タイヤ力』は独自の概念で、予測モデルの開発はまさに未知の領域への挑戦でした。構想の早い段階でご相談をいただき、プロジェクトのスタート時期から一緒に取り組めたことで、構想の整理や外部技術の紹介なども含めて幅広い範囲でご支援させていただくことができました。がっちりタッグを組めたことが成功への要因だったと考えます。データを扱うパートナーとして継続的にビジネス価値を高める提案を進めていけることがSASの特徴です」と語っている。
DXで成功するための3つのポイント
このTOYO TIREの事例のように、SASでは実際に多くの製造業のデータ活用を、実際にビジネス価値を生む形で支援し続けている。そのSASから見て、DXを成功に導く要因として3つのポイントがあるという。
1つ目は「People」である。DXの企画、開発、分析、推進を担う関係者や組織や人がこれに当たる。ビジネスリーダーや研究者、製品開発者、データサイエンティストなど、DXに関連するステークホルダー全てを網羅し、企業文化として推進のモメンタムを持つことが重要だ。
2つ目が「Process」である。DXを継続的に推進し、事業価値を持続的に生み出すためには、プロセスを変えていく必要がある。新たな業務プロセスの中にデータ分析を組み込んだアナリティクスプロセスを組み込んでいく必要がある。
3つ目が「Technology」である。DXを推進するテクノロジー群は広範で多岐にわたる。例えば、分析環境だけを見ても、AIやアナリティクス、データマネジメントなどさまざまなものが必要だ。これらにどう対応するのかという点についても考えが必要になる。
池本氏は「DXで成功する企業はこれらの3つの観点をバランスよく考慮している場合がほとんどです。それぞれも重要ですが、それと同じくらい3つのバランスが重要になってきます」と訴えている。
DXでSASが提供する価値
では、SASではこれらの3つのポイントを満たすために、具体的にどのような価値を提供しているのだろうか。
「People」や「Process」については、コンサルティングサービスやエデュケーションサービスを用意している。コンサルティングサービスとしては、システム面での導入支援はもちろんだが、その前段階のビジネス課題に対応した分析プロセスの提示、分析作業実施と結果報告、施策の提案と効果検証、ビジネスフローへの組み込みなどを通じて、業務課題の解決支援を行うことが特徴だ。さらに、エデュケーションサービスとして、ユーザーのスキルレベルに合わせた定期トレーニングをオンラインで実施する他、企業ごとの目的やニーズに合わせて研修内容をカスタマイズした個別トレーニングも提供している。顧客の成功を考えた際、SASにおいては単にツールを提供するだけではなく、これらサービスを提供するコンサルタントやトレーニングが充実しているのは必然だろう。
「SASはデータ分析の専門企業として、以前からデータ分析をビジネス価値につなげる提案を進めてきました。データは企業固有のもので、価値も企業によって異なります。その中で積み重ねたデータの活用についての知見は、SASの中での蓄積があります。言い換えるとお客さまと一緒に未知へのチャレンジをしてきた経験・知見が蓄積されています。こうした知見を生かしながら、データとビジネス価値を結び付ける枠組みを作り、すぐさま実証し、また提案し続けていけることがSASの強みだと考えております」と池本氏は述べている。
一方、3つのポイントの1つである「Technology」はSASの強みの1つである。SASは研究開発型の企業としてデータ分析における先進技術の開発を次々に進めている。その中で開発された先進的なテクノロジーをビジネスレベルで活用できるということが特徴である。ソフトウェア領域として、データ収集から、データ探索、モデル開発、業務実装、意思決定までのプロセスを網羅した分析プラットフォームを提供する。また、ユーザーのスキルレベルに応じたインタフェースを用意し、誰でも分析可能な環境を提供することで“分析の民主化”を進めていく発想だ。
池本氏は「日本での活動も長いので、SASというと難しそうというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、使い方そのものもシンプルで簡単に使えるようになってきています。それらを含め、SASではお客さまが自律的にアナリティクスサイクルを回せるようなサポートを徹底的に進めています。ただ、お客さまがDXに取り組む上で過渡期的にこうしたデータを扱う領域をSASが請け負い、サービスとして提供するような形もできるようになっています。製造業にとって重要なのは、自社の競争力や価値をどう高めていけるかということで、必ずしもデータを扱う事自体がメインの業務ではないはずです。こうした部分は専門企業に任せ、DXの方向性を見定める業務部分にのみ専念する、といった取り組み方もできる時代になっています」と池本氏は訴えている。
DXを推進する上で、ビジネス価値との連携や、データの活用方法などで悩む企業は非常に多く、それでDXのプロジェクトが停滞しているケースも数多く存在する。こうした企業は、ビジネス価値の構築から、先進技術を活用したデータ活用までを網羅的にサポートしてくれ、中長期的にパートナーとしてデータアナリティクスサイクルを支えてくれるSASは有力な伴走者となってくれることだろう。
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提供:SAS Institute Japan株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年2月11日