製造現場の自動化が進む一方で、人手の必要性がないにもかかわらず自動化が遅れているのが搬送工程だ。新棟建設に合わせ搬送工程の自動化に取り組んだのがマクセルフロンティアの米沢事業所だ。エレベーターでの移動も含めて、三菱電機システムサービスと東北日立と共同で取り組んだAGVの活用事例を紹介する。
マクセルフロンティアは、ルネサステクノロジ(現ルネサス エレクトロニクス)の関連会社などの歴史を持つマクセルシステムテックとマクセル情映テックが2020年に合併して誕生した。両社がこれまで培ってきた技術力やモノづくり力を生かし、精密加工とDMS(Design and Manufacturing Service)の2つの事業を展開している。精密事業は主に車載用のヘッドライトレンズやバックモニターなどのプラスチックレンズ金型の設計及び製造並びにプラスチックレンズ成形品を製造している。
米沢事業所では、主にDMS事業を担当し、半導体製造装置などの高密度表面実装基板の製造、組み立て、受託開発、ボード組み込み用ソフトウェアの開発などを行っている。受託事業に加え、自社製品として「害獣捕獲監視システム マタギっ娘」など画像認識システムを生かしたIoT(モノのインターネット)製品の開発、製造、販売も行う。
マクセルフロンティア 米沢事業所では、事業の成長により手狭になった作業スペースの拡大をめざし、2024年に新棟を建設し、工場の床面積は従来の1.8倍に広がった。この増築した新棟を新たな製造棟とし、旧棟を部材倉庫に転換したことで、製造に対する部品の搬送距離が伸びた。そこで、新たな自動搬送システムの導入に踏み切ったという。
マクセルフロンティア DMS事業本部 製造部 部長の森谷博文氏は「米沢事業所では、以前から建屋の増築を行って生産能力を拡張してきました。そのため、搬送が非効率となり、2007年(当時はルネサス北日本セミコンダクタ)にはガイドが必要なタイプのAGV(無人搬送車)を導入しています。2024年に新棟を建設した際も、搬送距離が伸びるために搬送工程の自動化は必須だと考えていました。そこで以前から製造ラインの自動化で支援してもらっている三菱電機システムサービスさんに相談しました」と振り返る。
マクセルフロンティア 米沢事業所で、搬送自動化を進める中で、重視したのが動線そのものの効率化だ。「従来は建て増しを行ってきた経緯から、製造ラインそのものが複雑になり、それに伴う動線も複雑な形となっていました。そのため、新棟建設に伴い、製造ラインをインプット(部品の入庫)からアウトプット(出荷)まで一筆書きで行えるシンプルなライン構成としました。ただ、それにより、部品管理棟と製造棟が別棟となり、さらに、製造工程の一部は2階に設置せざるを得ない状況になり、搬送システムの構築には工夫が必要でした」と森谷氏は語る。
米沢事業所で具体的に導入した自動搬送システムでは、武蔵精密工業の100kg可搬タイプのAGV3台を独自のフリートマネジメントシステム(FleeT PaTh)で運用している。まず、旧棟(部品管理棟)に制御ステーションを用意し、2台のAGVで新棟(製造棟)の1階と2階に5カ所のステーションへ自動搬送を行っている。2階への移動については、AGVがエレベーターと連携して移動する仕組みとした。エレベーターは人も使うため、人とAGVで先に使用したほうが(AGVの場合はエレベーターに近づき通信をしたタイミング)優先される仕組みとなっている。そのタイミングでAGVのマップも切り替えるという。
もう1台のAGVは、夜間稼働も行う自動化された実装ラインと、昼間のみの稼働となる人手による組立工程間を結んでいる。カスタム荷台を搭載したAGVで搬送し、ステーションに設置されたローラーコンベヤーストッカーで人手がなくても荷物を受け渡せる仕組みとしており、稼働タイミングの違いによる搬送の滞留を解消するねらいだ。
これらのシステムの導入で、1日当たりで約10時間分に相当する労働力(5万歩/4人分)をAGVが補うことことに成功した。1日当たり35kmの搬送作業を削減できたという。
三菱電機システムサービス 産業システムセンター長の直川秀雄氏は「今回の搬送システムの特徴は、作業者とAGVの導線が同じというところです。搬送通路には、各工程の出入り口やトイレなど作業者が通路に出てくる箇所が多数あります。また、エレベーターも共用し、人とAGVの運転モードを切り替えて対応しています。AGVは障害物センサーやバンパーセンサーで安全確保は行っていますが、作業者とのすれ違いで停止すると遅延が発生するため、AGVは扉と反対の壁面側に寄せて通行する工夫も取り入れました。これからも作業者とAGVの協働作業需要は増加する見込みですが、これらの工夫でシステムを作るSIerの役割も大きくなると考えています」と力を込める。
特に、今回の搬送自動化が難しかったのは、新棟の建設と搬送システムの構築を同時進行で進めなければならなかったという点だ。
マクセルフロンティア DMS事業本部 製造部 米沢生産技術課 課長の倉嶋哲氏は「三菱電機システムサービスさんに相談した時点でまだ新棟のレイアウトは定まっていませんでした。そのため実際にどういう形で工程を組むかという点や、搬送ルートの設定も、変更の可能性がある中で、進めてもらう必要がありました。三菱電機システムサービスさんには、的確に要望をくみ取ってもらい、柔軟に対応いただけました」と語る。
通常、複数台のAGVが走行する場合、AGV同士が通路ですれ違うための相互走行方式を採用しているが、マクセルフロンティア 米沢事業所ではスペース効率の問題から相互走行を行える通路の幅を最終的に確保できなかった。そのため、幅1300mmの通路を1台のAGVが交互に走行する方式を採用している。ポイントごとに退避ポジションを設置し、AGVが円滑にすれ違えるようにしている。
三菱電機システムサービス 産業システムセンター 駆動・ロボットシステム部 駆動システム課の小川将輝氏は、「新棟が建設中で実地での試験を行うことができなかったため、AGV同士のすれ違いや待機場所をどう設定すべきかなどの問題への対応が難しい点はありました。ただ、システム面ではさまざまなシミュレーションを重ねてプログラムの精度を高めた他、訪問に加えて遠隔でもコミュニケーションを綿密に行うことで対応していきました」と対応について述べる。
安全面では、作業者が通行する通路を共用するため、AGVの速度や停止距離を厳格に設計した。人との共用のための運用ルールの策定も支援し、通路、エレベーター、自動ドアとの共存作業エリアでAGVがスムーズに動作できるようにしている。作業者が台車を搬送する際には、AGVが端を通るように設定し、速度も低速(330mm/秒)に調整した。加えて、安全喚起のためにパトライトや音響を導入し、事故を防ぐ対策も講じている。
また、5カ所のステーションで、タブレット端末によりAGVの運行状況や工場内の位置をリアルタイムでモニタリングできる他、AGVを手動で呼び出せる機能も用意した。さらに、作業者の利便性を考慮し、荷物の取り出しおよび積み込みの容易さを向上させるため、トップモジュールの停止向きの変更や作業導線の改善、ルートの追加など、現場で話し合いながら柔軟に対応を進めていった。
マクセルフロンティア DMS事業本部 製造部 米沢生産技術課 技師の堤晃洋氏は「旧棟の部品管理棟は、システム内容の話し合いを進めてからも何度かレイアウト変更もあり、再構築する必要があったのですが、その都度、三菱電機システムサービスさんにタイムリーに対応いただきました」と柔軟性が大きなポイントになったことを語る。
加えて、AGV2台に対し、非接触型充電器を2台設置するのではなく、1台が搬送ルートを走行中にもう1台が充電する仕組みとし、コストや充電時間の削減につなげる工夫も取り入れたという。「充電状況をリアルタイムで監視し、充電量が減少した場合には迅速なAGVの入れ替えを可能にしています。搬送回数を守りながら工夫により、システム全体のコストを削減できるようにしました」と三菱電機システムサービス 北日本支社 機電部 機電システム課 主任の八嶋崇志氏は述べている。
新棟のエレベーターは日立ビルシステム製であったため、AGVのエレベーター連携については、東北日立と三菱電機システムサービスとの協力でシステム連携を行った。
東北日立 営業本部 ビル施設営業部 部長の渡邉護氏は「AGVとエレベーターを連携させる基本的なシステムはこれまでにも対応したことがありました。しかし今回は新棟着工と並行して進み、エレベーターが決まった後でシステム連携を行うということになり、ハードウェア的な仕様で適合するかどうかで当初は心配しましたが、疑問点などを三菱電機システムサービスさんとすり合わせながら無事に進めることができました」と語っている。
これらの取り組みの結果、能力的には1台当たりで1日に最大60回の搬送回数を実施でき、搬送工程の大幅な負荷削減が可能になったという。倉嶋氏は「旧工場での搬送ルートの長さは片道195mでしたが、新棟ができて391mに伸びたことが大きな懸念点としてありました。今は自動搬送システムによりこれらの心配は解消されました。今後も搬送に関しては自動化を前提として考え、生産拡大に合わせて、さらにAGVを増やして対応したいと考えています」と述べている。
また、工場全体でスマートファクトリー化を進めていることから、これらの工程と搬送工程の連携を強化し、工場全体で自動化領域の拡大を進めていく。森谷氏は「米沢事業所は、多品種少量生産であることから、現在も基板実装で人手に頼る作業が多く残されています。そのため、ロボットの導入でまずは半自動化を進めるなど、引き続きこれらの工程での自動化を進めていくつもりです。加えて、搬送してきたものを工程に受け渡す部分で手作業が残っているところもあるので、これらの自動化も検討していきます」と今後について語っている。
マクセルフロンティアが将来的に製造現場で目指しているのは「工場を楽しい職場にする」ということだ。「従来の工場は環境が厳しかったり、きつかったりすることで、若い人にとってあまり楽しい職場ではなかった面があります。ロボット活用による自動化やスマートファクトリー化によりデータ活用を進めることで、工場でも楽しく仕事ができるようにすることが理想です。それが顧客にも反映でき、よりよい製品づくりにつながると考えています」と森谷氏は今後の抱負を語っている。
最新技術が次々に登場する中で、スマートファクトリー化や搬送の自動化を進めるのは容易なことではない。今回のマクセルフロンティア 米沢事業所での取り組みで見られたように、三菱電機システムサービスは、モノづくりを知り尽くした知見を持ちつつ、最新技術の要望に対して柔軟に対応する形で提供してくれる、工場の自動化推進の良い伴走者となってくれることだろう。
提供:三菱電機システムサービス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年4月30日
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