設計現場でAI活用への期待が高まる一方、「何に使えばよいのか」「どこまで任せられるのか」と戸惑う企業も少なくない。AIに3D CADを扱わせるには、AIそのものの性能だけでなく、CAD側の“扱いやすさ”も重要になる。人にもAIにも扱いやすい「IRONCAD」は設計現場をどう変えるのか。AIとタッグを組む新しい共創設計の可能性を探る。
製造業の設計現場では、リードタイム短縮やコスト低減、品質向上など、さまざまな要求への対応が求められている。その一方で、類似形状を何度もモデリングしたり、過去の2D図面から3Dモデルを起こしたりといった作業に多くの時間を費やすケースも少なくない。ベテラン設計者が培ってきた設計手順や判断ノウハウが属人化し、組織内で十分に共有できていないという課題もある。
こうした中で期待が高まっているのがAI(人工知能)の活用だ。3D CADソフトウェア「IRONCAD」の日本総代理店であるクリエイティブマシン 代表取締役の芳賀卓也氏によれば、展示会などで「AIに対応したCADはありますか」と尋ねられる機会が、近年急速に増えているという。
「会社の上層部から『AIを使って業務を改善しろ』と言われ、まず情報を集めているという印象だ。ただ、何に使えるのか、どう使うのかまでは定まっていないケースも多い」(芳賀氏)
では、AIに何を任せられるのか――。その第一歩は、AIの得意/不得意を理解し、適用する作業を見極めることにある。
現在のLLM(大規模言語モデル)は、入力された情報から次のトークンを予測しながら出力を生成する仕組みを基本とする。画像なども扱えるようになったが、人間と同じように立体形状を頭の中で思い描いているわけではない。そのため3D CADでは、空間的な位置関係の把握や面/エッジの選択、入り組んだ寸法線の認識、複雑な拘束などが苦手になりやすい。
そこで重要になるのが、「AIが扱いやすいCADかどうか」という視点だ。
IRONCADは、画面内の「カタログ」から直方体や円柱などの基本形状、それに対応する穴や切り欠きなどをドラッグ&ドロップし、組み合わせながらモデルを作成できる。面を選択してスケッチを描き、寸法拘束を設定して押し出す方法も利用できるが、カタログを活用すれば形状要素を直感的に組み合わせられる。
この特長を支えるのが「フィーチャーベースのダイレクトモデリング」だ。形状を直接編集できる柔軟性を持ちながら、フィーチャー情報も保持する。さらに、カタログに登録された形状要素に名前や意味を持たせることで、「ブロックを配置する」「穴を追加する」といった言葉とモデル操作をAI側でも結び付けやすくなる。つまり、カタログが設計上の意味とモデル操作をつなぐ、いわば「中間言語」のような役割を果たす。
「一般的なフィーチャーベースのパラメトリック系CADでは、拘束やさまざまな定義が複雑になりやすい。一方、一般的なダイレクトモデリングではフィーチャー情報が残らない。IRONCADはフィーチャーを持ちながら拘束に厳しくない。両方の“いいとこ取り”ができており、AIにとっても扱いやすい」(芳賀氏)
さらにIRONCADは、部品同士の位置や方向を定義して自動配置する「結合点」や、寸法、穴数などが異なる形状をパラメーターテーブルで管理する「デザインバリエーション」も備える。CAD側にこうした仕組みが備わっていれば、AIが苦手とする精密な空間配置などを減らしながら、アセンブリを構成できる。
IRONCADでは、2025バージョンからAI関連機能の搭載が始まった。「AIチャットボット」は、IRONCADのナレッジデータベースを基に、操作方法などに関する質問へ自然言語で回答する機能だ。
グローバルでの最新バージョン「IRONCAD 2027」では、「AIデザインアシスタント」も搭載されている。自然言語で指示すると、AIがカタログ内の部品やフィーチャーを選択して3Dモデルを構成する。画像を分析し、既存のカタログ部品などを組み合わせてモデル化する「スクリプトモード」も用意されている。生成したモデルはフィーチャーやアセンブリ構造を保持しており、後から編集できる。
同じくIRONCAD 2027では「AIドローイングアシスタント」も用意されている。既存の2D図面や3Dカタログ部品から自社の作図ルールを学習し、新たな図面に寸法や公差、記号、注記などを自動で付与する機能だ。
そして、芳賀氏が特に重視するのが、日本語版の現行バージョンである「IRONCAD 2026」から実装されたPython統合を活用した外部AIとの連携だ。PythonからIRONCADを操作できるようになったことで、外部AIがPythonコードを生成し、そのコードを介してIRONCADを直接動かす環境を構築できるようになった。
「AIの進化は速すぎる。独自のAIを開発してCADに組み込むより、AIはAIベンダーの元で進化してもらい、IRONCADはそうした優れたAIが扱いやすいようにする方がいい。もともと人間に使いやすいCADとして進化してきたものを、その延長でAIにも使いやすくするという考え方だ」(芳賀氏)
クリエイティブマシンでは、この考え方を「IRONCAD AI-Ready」と呼んでいる。特定のAIだけに依存せず、進化し続ける外部AIから操作しやすいCAD環境を整えるという発想である。
クリエイティブマシンでは、「Claude Code」や「Codex」などのAIエージェントとIRONCADを直接接続し、さまざまな実験を進めている。芳賀氏自身はプログラミングの専門家ではないが、AIと対話しながら接続環境を構築し、IRONCADを操作させるところまで実現した。
その1つが、2D図面からの3Dモデル生成だ。PDF図面を読み込ませて「IRONCADでモデリングして」と指示すると、AIは図面を画像として分析し、形状や寸法を読み取る。そしてPythonコードを生成してIRONCADを操作し、3Dモデルを作成した。さらに生成後には、AIが自ら画面をキャプチャーし、元の図面と見比べて結果を確認する動作も見られたという。
もちろん、最初から完璧だったわけではない。段付き形状を単純な板として認識したり、タップ穴を誤った位置に配置したりするケースもあった。そこで芳賀氏が「段が付いている」「配置が違う」と指摘すると、AIは作り方を修正していった。
「接続した直後のAIは、何の研修も受けていない、大学を出たばかりの新入社員のようなものだ。ちゃんと教えてあげれば、正しいことができるようになる」(芳賀氏)
PDFでは寸法線と輪郭線を取り違える場合もあったが、DXFを直接読み込ませた実験では、内部の幾何情報や数値情報を利用できるため、認識ミスが大幅に減ったという。また、IRONCADのトレーニング資料をAIに読ませ、手順に従って複数部品を作成し、アセンブリまで組み上げることにも成功した。
こうした試行錯誤で得た操作手順や注意点は、Markdown形式のスキルファイル「SKILL.md」として整理し、AIに参照させることができる。これを別のAI環境に読み込ませれば、蓄積した操作手順やノウハウを共有することも可能だ。
クリエイティブマシンでは今後、自社の設計部隊が実験を重ねて蓄積したスキルファイルをユーザー企業へ提供することも検討している。設計ノウハウをAIが利用できる形で蓄積し、組織で再利用するという、新たな技術伝承の可能性も見えてくる。
クリエイティブマシンでは、2D図面の3D化以外にもAIの可能性を試している。例えば、ボルト穴だけが開いた治具モデルに対し、AIが適切なキャップスクリューのサイズや長さを選んで配置したり、カタログに登録したアルミフレームを自然言語の指示から組み上げたりする実験を進めている。
こうした取り組みから見えてくるのは、AIに設計全体を丸投げするのではなく、定型作業や“見習いに任せるような仕事”をAIへ振り分ける使い方である。その分、設計者は構想や判断、創造といった、より人間らしい仕事に時間を使う。現時点では、設計方針を決め、結果を評価する主役はあくまでも人間だ。
「今は、設計者にAIアシスタントが付くようなイメージだ。AIに雑用をやらせている間に、設計者はもっと人間らしいことを考える。的確な指示を出したり、出てきたものを評価したりするには、設計者自身の経験やスキルが欠かせない」(芳賀氏)
だからこそ、AIを遠巻きに眺めるのではなく、「まず使ってみる」ことが重要だ。機密性の低いデータから始め、AIサービスのデータ利用設定や契約条件を確認し、重要な処理には人による確認を残した状態で小さく試す。その中でAIの得意/不得意を理解し、自社に適した活用方法を探っていく――。
クリエイティブマシンでは、こうしたスモールスタートを支援するため、1年間の期間限定ライセンスを活用した導入や、AI連携に向けた環境構築の手順書、スキルファイルの提供なども検討している。まずAIとIRONCADを組み合わせて試し、自社のどの業務で効果を発揮するのかを見極められる環境を整えていく考えだ。
「まずは一歩踏み出して、IRONCADとAIを組み合わせて実験し、試して、遊んでみることが大事だ。使っていくうちにAIの特性や付き合い方も分かってくる。ベテラン設計者こそ、自分のノウハウをAIに教え、優秀な新人を育てるように使ってほしい」(芳賀氏)
AIの進化をただ待つのではなく、AIが扱いやすいCAD環境を整え、設計者自身が使い方を探りながら育てていく――。IRONCADが示すのは、設計者とAIがタッグを組み、それぞれの強みを生かしながら設計を進める、新しい共創設計の姿だといえる。
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提供:株式会社クリエイティブマシン
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年10月8日