2026年6月3〜4日に開催されたオンラインセミナー「MONOist AI Forum 2026 本格実装フェーズに入った製造業AI、現場課題解決の最前線」(主催:MONOist編集部)に、日本IBM コンサルティング事業本部 サプライチェーン&インテリジェント・コネクテッド・オペレーションズ パートナー/理事の飯田泰治氏が登壇し、「AI×サプライチェーンが変える経営――エンタープライズITの再定義」をテーマに講演を行った。本稿では、その内容をお伝えする。
サプライチェーンを取り巻く環境は難しさを増している。ここ20年を見ても、東日本大震災や、熊本地震、能登半島地震などの自然災害や、コロナ禍などの大規模感染症の影響、米中貿易摩擦や中国のレアアース輸出規制、米国関税などの通商問題が相次いでいる。世界的にサプライチェーンに大きな影響を与える事象が頻繁に続いており、サプライチェーンは常にイレギュラー対応が迫られている状況だ。
さらに人材不足は深刻化しており「変化は早まるが、人は減り、判断の複雑さは増しているという状況です。生産性だけでなく変化追随力が問われる時代になっています」と日本IBM コンサルティング事業本部 サプライチェーン&インテリジェント・コネクテッド・オペレーションズ パートナー/理事の飯田泰治氏は語る。
こうした複雑な状況を乗り切るためには、進歩が著しいAI(人工知能)活用をベースとし、経営やオペレーションを再構築する必要がある。例えば、経営面では拠点配置の最適化や、供給レジリエンスの確立などをAIの支援によって実現する仕組みを構築したり、暗黙知のデジタル化や技能伝承のAI化など、AIファーストでのオペレーションの構築や人的資本の組み替えを行ったりすることが求められている。
飯田氏は「『何をAIにゆだねられるのか』ではなく、主体的に『何をAIにゆだねられる状態まで持っていくのか』というように考え方を変える必要があります。何もせずにAIを使える場所を探すのではなく、必要な場所でAIを使えるようにするために何をするのかという発想の転換が必要です。既にこうしたユーザー主導でAIエージェントを活用した新たなオペレーションは広がりつつあります」と強調する。
AIエージェントで変革が進むオペレーションの例として、1つは「供給リスク管理」がある。サプライチェーンにおいて、外部環境で問題が発生した際に、供給断絶リスクを回避し生産ライン停止を未然に防ぐことが求められるが、従来は問題があった場合、手動で影響を調査し、各地に電話で連絡するようなやり方が中心だった。場当たり的で対応も後手となり時間も長くかかるケースが多かった。
AIエージェントを前提に業務フローを変革すると、「リスク監視」や「市場分析」「アウトソーシング戦略」「コミュニケーション」などの各種AIエージェントが自動的に必要情報を参照しながらやりとりし、最適な対応策を短時間で導き出すことができるようになる。人の役割は、最終的な判断承認と実行のみとなり、空いた時間を生かし、サプライチェーン担当者に求められる戦略サプライヤーとの交渉や調達代替先候補の開拓など、人にしかできない仕事に充てられるようになる。
2つ目が「需給シナリオ検討」の効率化だ。需給シナリオを取りまとめるには、営業や製造など各部門からのデータ収集が必要になる。従来はこれらをExcelのバケツリレーなど人手中心で集めて計算し、それぞれの部門で調整を進めながら、最終案を確定するという流れで今までは進められてきた。
AIエージェントを前提とした変革を進めることで、データ統合を行う「データ統合AI」やシナリオを作成する「シナリオ生成AI」「評価AI」などのAIエージェントが相互にやりとりしながら、最適なシナリオ案を導き出す。こちらも人の役割は、最終的に絞り込まれた最適案を承認するだけで済む。
3つ目が「製造現場オペレーション」だ。現状では、製造ラインの計画変更があった際に、変更内容の解釈や再計算、設備やロボットの設定変更、部品の確認をほぼ人手で行っている。これをAIエージェントやフィジカルAIの活用が進めば、「計画変更AI」や「製造順序最適化AI」などが自動でやりとりをしながら最適なライン計画を立案し、それを「フィジカルAI」によってティーチングや再プログラミングすることなく設備やロボットを自動で再設定できるようになる。
現状では、これらのAI中心のオペレーションが全て実現できているわけではないが、サプライチェーンの複雑性が増す中で、AIありきでオペレーション負荷を抜本的に下げる方向性に進むことは間違いない。そうした場合にどういう準備が必要になるのだろうか。
多岐にわたる部門やシステムの情報が必要になるサプライチェーンの運営において、まず必要になるのが「各システムに記録された散在データを業務の文脈で束ねていくこと」だ。飯田氏は「各システムはそれぞれの業務に最適化されている一方で、横ぐしで需給シナリオやリスク影響を見るためには不十分です。多くの製造業での問題の本質は、データがないことではなく、横断的に使える形で接続されていないことです」と説明する。
しかし、サプライチェーン管理での活用を視野に各システムとデータ連携を行い、業務内での文脈を保持しながらデータの整理を行え、便利にデータを活用できるようなデータ基盤はそれほど多くはない。
そこで日本IBMが2025年10月から展開しているのが、サプライチェーン向けのデータ駆動型フレームワークである「Supply Chain Ensemble(サプライチェーン・アンサンブル)」だ。Supply Chain Ensembleは、複数の業務プロセスやシステムの情報をAIが統合して、予測、分析し、適切な対応を示唆するための基盤だ。サプライチェーンのデータをリアルタイムで分析し、在庫管理の最適化とリスク管理の強化を図ることで、企業のサプライチェーン管理に関わる販売、需要、生産、調達、物流の各責任者などが迅速に意思決定を行える。
飯田氏は「多岐にわたるサプライチェーンにおいて部分的なAIソリューションを導入しても効果は限られます。Supply Chain Ensembleは、サプライチェーンの多岐にわたるデータをAIが活用できる形で蓄積できるフレームワークです。既存のサプライチェーンソリューションと結ぶことで、簡単にAIエージェントなどの支援を受けられるようになります」と説明する。
さらに、サプライチェーンの最適管理を実現するためには、ITとOT(Operational Technology)の融合が重要になる。サプライチェーンの管理は、生産計画などの計画系と、倉庫管理や物流管理などの実行系に分かれるが、計画系はIT、実行系はOTで駆動する場合が多いためだ。変化に柔軟なサプライチェーンを実現するためには、OTでの現場の変化を的確に捉え、ITでの計画系に反映し、それを再びOT側に戻して実行を進めるという一連のデータサイクルをシームレスに行えるようにしなければならない。
飯田氏は「高度化されたサプライチェーン管理において精度の高い計画の流れを構築する必要があります。そのためには、ITとOTの分断をAIとロボティクスで橋渡しすることが求められます」と考えを述べる。
その1つの取り組みとして、日本IBMでは、ITとOT、AIの融合により製造現場の作業指示と搬送の無人化を実現するワンストップ自動搬送AIソリューション「Orchestrated Robotic Intelligence ON-demand(ORION)」を展開している。
ORIONは、製造現場での計画立案、現場実行、自動搬送、実績フィードバックを一体のアーキテクチャで束ねることで、現場に集中しがちな情報収集、判断、指示の負荷を軽減しつつ、計画から実行までを包括的に支援するソリューションだ。具体的には現場での工程間の仕掛品搬送、部材の供給搬送、完成品の搬出から倉庫入出庫などを対象に、AGV(無人搬送車)への指示から実績回収や異常時の差し替えまでを一気通貫で自動化する。これにより、生産プロセスにおけるサプライチェーンのレジリエンス強化を図る。
飯田氏は「IT(データの流れ)とOT(モノの流れ)を一元的に管理できる仕組みがあれば、従来発生していた工程の無駄な部分が削減できる可能性があります。人材不足の解消や在庫量の最適化を実現できることになります」と語る。
さらに、日本IBMでは、ORIONをさらに発展させ、AMR、ロボットを活用した工場自動化を実現するAIソリューションを構築中だとしている。具体的には、少量多品種化が進んだ際に製造現場での運搬回数が増加するケースで、これらをAIで最適化するソリューションや、「次の加工品を探し運搬する」手間をAIとロボットが担うようなソリューションを用意する計画だ。
飯田氏は「AIの一般化により、ユーザー主導の業務変革が進む中、効果創出のボトルネックは、散在するデータを業務文脈で束ねられるか、基幹と現場を円滑に連携できるかにかかってきています。実際に、全社でのAI変革に現在取り組んでいる企業では、業務へのAIエージェントの適用により、30〜50%の業務削減が可能な見込みとなっているケースがあります。進化が激しい領域だからこそ、着手しないことが大きなリスクになり得るため、ぜひ一歩踏み出してもらいたいと考えています」と訴えている。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年8月29日