製造DXで「全体最適」を阻む課題とは? 日本発の可能性――MONOist編集長が聞くインダストリー4.0から15年

2011年にドイツでインダストリー4.0が提唱され、日本で製造DXへの関心が高まってから10年以上が経過するが、日本の製造業は部分最適にとどまり、大きなビジネス価値を得るまでに至っていない企業も多い。これらの状況をどう打破すべきなのだろうか。マクニカで製造DXのソリューション提案を進めてきた室崎憲太氏と、製造業のデジタル化を取材してきたMONOist編集長の三島一孝が語り合った。

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» 2026年03月10日 10時00分 公開
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インダストリー4.0が提唱されてから15年、製造DXの進捗度

MONOist 三島(以下、三島) 製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は着実に進んでいますが、その割に製造領域では、個別のライン改善などは進んでも、ビジネス面での大きな成果につながっていないという声もよく聞きます。室崎さんはどのように捉えていますか。

photo マクニカ イノベーション戦略事業本部 デジタルインダストリー事業部 技術部長代理の室崎憲太氏

マクニカ 室崎氏(以下、室崎氏) 2011年にドイツでインダストリー4.0が提唱され、日本でも製造DXへの取り組みが本格化してから15年程が経過しますが、個々の作業や工程など「一部分のデジタル化」で止まっているところが多いように見ています。例えば、工程の見える化やペーパーレスなど、一部のデジタル化による従来の置き換えで止まり、デジタルである価値や、データの活用によって従来にはないような価値を生み出すところまでは進められていません。製造業全体でDXが進む中、製造領域が特に進んでいないと感じています。

三島 確かにそうかもしれません。製造現場でのDXは、中堅中小企業ではデジタル化以前にIT化が進んでいないために難しいという面があります。また、大企業については、基本的な仕組みはあるものの、組織やシステムの壁が大きいように感じています。

室崎氏 日本では自工程完結という意識が強く、担当の工程についてはしっかり管理されています。しかし、その責任感が高くなればなるほど、部門を越えた動きが阻害されているように見えます。その結果、全体で見るとつながらない状態が生まれます。DXにおいて、取得したデータは多くの場面や組織で使用する方が効率的ですが、工程単位で切られるとデータ活用の広がりがなく、そこが停滞の正体の一つだと捉えています。

 また、大企業のデジタル投資については、「2025年の崖」で注目されたERP(Enterprise Resource Planning)システムの刷新に偏ったため、製造現場のDXには予算が回らなくなった面もあると感じています。

三島 ただ、予算はかけられないかもしれませんが、インダストリー4.0で盛り上がった時期から見ると、製造現場でも使いやすいデジタルツールが増えてきた点はポジティブに捉えています。SaaSなどITスキルが高くなくても気軽に使えるツールが普及して、現場改善ができるようになってきました。

室崎氏 私もそこは前向きに捉えています。製造現場向けのデジタル教育なども進んでおり、IT側と現場側双方の距離が縮まっています。10年前は「PCは嫌だ」といわれることも多かったですが、今はさすがにそうした声は聞かなくなりました。現場のITスキルが上がることで、これまで越えられなかった壁を越えられる可能性が出てきています。

日本の製造DXが抱える「3つの課題」とは

三島 あらためて日本の製造DXの課題をどう考えていますか。

室崎氏 大きく3つあると考えています。1つ目は、先ほども触れた通り個別最適になりがちだという点です。自工程完結の考えが強いのは、日本のモノづくりの強みである一方で、DXの文脈では壁になります。モノづくりの手法も設備も違うので、自工程に合わせた仕組みを作りたくなるのは自然なことですが、全体で見るとつながらない状態になりやすくなっています。

 本来であれば、工程が違っても、管理の観点、マネジメントの観点などは共通化できる部分があるはずです。データについても部門内で閉じた情報では横展開ができません。そこで、データのセグメントを明確にすることが現実的です。横展開できるところと、そうではないところを分けて考える。共通化できるデータは共通化し、現場固有のデータは固有のまま扱う。その上で、データ活用するための取り組みを考えれば、全体最適の仕組みをつくりやすくなります。データ構造の定義と、活用の枠組みを作っておくことが重要です。

 2つ目は、推進体制の問題です。現場側も学ぼうという意識が増えていますが、それでも業務とシステムの間にはギャップが生じやすい状況です。これらのギャップを乗り越えるために、人材面で推進や教育の仕組みが必要になります。現場で推進役になる人を多く作っていくことが必要となります。そういう人が中心になって、今までできなかった変革ができれば、そこから次の動きにつながり、プラスのサイクルが回り始めます。その動きを作れるかどうかがポイントだと見ています。

 3つ目は、ソリューションやツールの問題です。現場力を生かした日本企業のモノづくりは世界でも特殊であり、海外のツールやソリューションをそのまま持ち込んでも期待する成果を得られない場合が多くありました。そのため、従来はカスタム対応で、費用もかかるため大企業しか導入できませんでした。しかし、製造DXが注目を集めてから10年以上が経過し、かつて大企業でしか使えなかったような仕組みが、パッケージソリューションやSaaS型ソリューションとして、中堅中小企業でも使えるレベルになってきました。

 ただ、自社に合うソリューションを調べることが難しいのも課題です。DXを進めるためにツールを調べても、専門用語が多い一方で、ソリューションも従来型と最新のものとが混同しており、非常に分かりづらい環境が生まれています。自社の課題に最適なソリューションが把握できず、前に進めない企業も少なくありません。

工場データ基盤が「全社最適」への接着剤になる

photo MONOist 編集長の三島一孝

三島 これらの3つの課題を解決するために、まずはどこを押さえ、何をするべきだと考えていますか。

室崎氏 最大のポイントは、個別最適で全体最適につながらない状態を、どう乗り越えるかです。解決のカギを握るのが「生産現場データプラットフォーム」だと考えます。工程や部門ごとの部分最適でとどまってしまうのは、そもそもほかの部門の状態が「見えない」ことから生まれています。データを共通で見えるようにすれば、自然に全体最適に近づいていきます。そのためには、データの枠組みを整えて、必要な人に必要な形でデータを共有できる仕組みを作る必要があります。

 工程単位にそれぞれができる形でデータを収集して保持するのではなく、工程を超えて生産部門全体でデータ活用できる状態を目指して、そのデータ活用が取り組みやすい構造でデータ蓄積できるように、収集と処理を行う必要があります。ここまで含めて「プラットフォーム」だと考えています。

 マクニカとしても、10年以上製造現場のDXに取り組む中で、数々の失敗を重ねた上で、あらためてデータプラットフォームの重要性に行き着きました。そこで開発を進め、生産現場データプラットフォーム「DSF Cyclone」を提供しています。2024年には、工場の「ロス」ゼロを目的とした生産現場のデータ活用による改善活動支援が評価され、公益社団法人日本プラントメンテナンス協会が定める「TPM優秀商品賞 実効賞」を受賞し、2025年末には、富士キメラ総研の製造業向けデータプラットフォーム市場調査において、市場占有率ランキングでシェア第1位(2024年度実績)を獲得しました。データプラットフォームは、現場のやり方を踏まえて継続して運用できる形でなければなりません。その積み上げが、全社最適への接着剤になります。

三島 全体最適につなげるための土台の整備が必要ということですね。

人材不足と複雑化の時代にAIがもたらす可能性

三島 今後を見据えたときに、製造現場で意識すべき要素は何でしょうか。

室崎氏 製造DX自体が抱える3つの課題に、さらに社会的課題が重なることにどう対応していくのかが重要だと考えます。日本は人材不足が深刻化しています。製品へのニーズが多様化し少量多品種化への対応や、モデルチェンジへの迅速な対応などが要求される中で対応する人は減るという状況で不均衡が生まれています。簡単な業務は自動化、機械化、設備化し、難しい業務はデータを使ってうまくマネジメントしていくということが本質的に求められています。

三島 フィジカルAIなどに注目が集まりますが、AIも1つの鍵になってきますか。

室崎氏 AIへの期待感は高いですが、データが散らばったままだと、AIを入れても局所最適で終わってしまいます。AIの導入が進むほど、データ基盤が前提になると思います。また、フィジカルAIに行く前に「デジタルヒューマン」を実現することが必要だとも思っています。AIエージェントがデータ管理を担い、人は仮想上の「デジタルヒューマン」とやりとりするだけで、求める情報が得られるようになる世界が来れば、製造現場でもデータの「入力の手間」や「整理の負担」を減らせます。

 そうなれば、どんどん現場で人が減っていく中でも、業務を維持できるようになると考えています。それを実現するためには、まずはデータを整理して、蓄積しておくことが重要になりますが、データ基盤の整備を進める際にも、こうした未来を描けるかどうかでモチベーションも変わってきます。

三島 最後に日本のモノづくりの今後についてどう見ていますか。

室崎氏 複雑なモノづくりのなかで人が減るという難しい局面であることは間違いありません。ただ、必ずしもネガティブな側面ばかりではないと考えています。人口減少という課題を抱えているからこそ、日本でしかできないモノづくりが生まれる可能性があります。人手不足をAI活用などで解決する日本のアプローチから、次の10年でブレークスルーが生まれるのではないでしょうか。そういう実績のあるソリューションが、日本発で海外にも使われて、経済貢献につながる形ができるはずです。

三島 モノづくり系のソフトウェアでは、グローバルで定着している日本製品が少ないので、世界で勝負できるものが増えてくればうれしいですね。

室崎氏 そういう意味でも、われわれも勝負できるチャンスではないかと思っています。これまで積み上げてきた日本のモノづくりの解像度の高さと理解を生かし、日本だからこそ生まれているモノづくりの考え方を、ソフトウェアや仕組みに落とし込んでいきたいです。それができれば、日本の製造業にとっても、社会にとっても、次の一手に貢献できると信じています。

photo マクニカ 室崎氏(左)とMONOist 編集長の三島(右)

製造業向けデータプラットフォーム市場でシェア1位の「DSF Cyclone」

 データプラットフォームの重要性を訴えるマクニカでは、日本のモノづくりのノウハウを詰め込んだ生産現場データプラットフォーム「DSF Cyclone」を提供しています。富士キメラ総研の調査で製造業向けデータプラットフォーム市場において、市場占有率ランキングでシェア第1位(2024年度実績、ベンダーシェア)を獲得しました。

photo 富士キメラ総研の調査で製造業向けデータプラットフォーム市場でシェア1位に 提供:マクニカ

 マクニカが提供する「DSF Cyclone」は、生産現場におけるデータの収集、正規化、活用を一気通貫で実現し、現場のデジタル化を推進するソリューションです。製造現場が抱える多様な課題に対し、現場の実績データと生産計画を構造化、可視化することで、迅速かつ高精度な意思決定を可能にします。そのため、従来の経験則に依存した現場運営から、データに基づく改善活動へのシフトを実現し、現場力の強化に寄与します。

photo マクニカの「DSF Cyclone」の概念図 提供:マクニカ

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2026年4月9日