試作レスやリードタイム短縮への要求が高まる中、高品質なマテリアルデータ活用の重要性が増している。こうしたニーズに応えるべく、日本HPは次世代マテリアルスキャナー「HP Z Captis」を市場投入した。多様な素材の質感や凹凸、光沢までも手軽にデジタル化できるHP Z Captisの真価に迫る。
製品開発のスピードが競争力を左右する今、短期間で高品質な設計を実現することが求められている。近年は「試作レス」という言葉も広がり、物理試作を繰り返す従来型から、デジタル上で高度な検討を行う流れが加速している。背景にはリードタイム短縮やコスト削減に加え、環境負荷低減などの社会的要請がある。
試作レスの実現を支える要素の一つが、素材の質感を忠実に再現するマテリアルデータだ。光沢や凹凸などのディテールを正確にデジタル化することで、製品の設計段階から完成イメージに近い検証が可能となり、後工程での修正や手戻りも減らせる。さらに製品完成前から高品位なレンダリング画像を用いたマーケティング素材を準備できる点も大きな利点となる。
こうしたニーズに応えるべく、日本HPが投入したのが次世代マテリアルスキャナー「HP Z Captis」だ。
HP Z Captisは、布やレザー、木材、コンクリートなど多様な素材の質感をデジタル化するマテリアルスキャナーだ。一般的な3Dスキャナーが形状や寸法の取得を得意とするのに対し、HP Z Captisは光沢や凹凸といった素材が持つ「見た目のリアリティー」を高精度にデータ化できる。
その中核を担うのが、8方向のライトと1億800万画素(108MP)の高解像度カメラを組み合わせた撮影システムだ。円すい形の独自設計により360度の偏光制御が可能で、多方向から光を当てて角度の異なるマテリアル情報を同時に取得できる。運用モードは2種類で、スタジオやデスク向けの「Studioモード」では土台となる「Studio Base」を用いて最大30cm角の素材をスキャン可能。フィールド向けの「Explorerモード」では「Explorer Ring」を用い、より大型の素材や屋外環境にも対応する。
この柔軟な運用を支えるのが優れたポータブル設計である。「NVIDIA Jetson AGX Xavier」モジュール上に独自OSを搭載し、最大32TOPSのAI(人工知能)性能で色調補正やノイズ低減をリアルタイム処理。8方向の画像を自動合成し、従来は外部PCやソフトウェアが担っていた工程を本体のみで完結できる。8セル96Whバッテリーを備え、外部電源なしでも運用可能だ。
日本HP パーソナルシステムズ事業本部 アドバンスコンピュート&ソリューションビジネス本部 本部長の杉浦慶太氏は「Studioモードでは8つのライトに加え、素材の裏側からも光を当てて撮影します。これにより光と影、立体感や透け感を正確に捉え、凹凸や光沢といった素材の表情をフォトリアリスティックにキャプチャーできます。厚さ1cm以内で、光を完全に透過/反射しない素材であれば幅広く対応可能です」と説明する。
HP Z CaptisはAdobeと共同開発されており、「Adobe Substance 3D Sampler」とのシームレスな統合を実現している。取得したデータはまずSubstanceで処理され、編集後にSBSAR形式で出力することで、主要な3Dソフトウェアに取り込むことができる。
こうした革新性が評価され、HP Z CaptisはCES 2025でInnovation Awardsの「Best of Innovation」を受賞し、注目を集めた。
日本HPは「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2025」(会期:2025年9月9〜10日/主催:ダッソー・システムズ)に出展し、HP Z Captisを展示。ブースにはStudioモードの環境が整えられ、レザー素材を実際にスキャンする工程が披露された。
具体的には、Studio BaseにセットしたレザーをHP Z Captisでキャプチャーすると、そのマテリアル情報がSubstanceに取り込まれ、ベースカラー、ノーマル、ラフネス、ハイトマップといった複数の要素に自動分解される。必要に応じて編集を加えた後、SBSAR形式で出力し、ダッソー・システムズのハイエンド3D CAD「CATIA」に取り込むという流れだ。
腕時計の3Dモデルのバンド部分に、現物のレザーが持つ光沢や凹凸などの質感を忠実に再現したマテリアルが、ライブレンダリングによって瞬時に反映される様子は、まさにリアルとバーチャルの融合といえる。従来、物理試作を経なければ確認できなかった素材感が、スキャンからわずかな工程を経るだけで3Dモデル上に素早く、リアルに再現される様子に多くの来場者が関心を示していた。
デモ環境では、HP Z Captis本体を「HP ZBook Fury G1i 16inch Mobile Workstation」(メモリ:64GB、GPU:NVIDIA RTX PRO 4000 Blackwell)に接続し、スキャンやSubstanceを用いたマテリアル作成を実施。その後、データは「HP Z6 G5 A Workstation」(メモリ:256GB、GPU:NVIDIA RTX 6000 Ada×2搭載)へ送られ、CATIA上でのライブレンダリング処理を担当した。本来は1台でも処理可能だが、今回は2台構成とし、素材取り込みと高負荷なレンダリングを分担させた。特にCATIA上での質感確認にはGPU性能が大きく影響するため、RTX 6000 Adaのリアルタイム演算能力を活用し、取り込んだ素材が即座に3Dモデルへ反映されるプロセスを来場者に体感してもらえる構成とした。
「ライブレンダリングの際、性能の低いGPUでは描画が不鮮明なまま時間を要してしまうことがあります。一方、RTX 6000 Adaに搭載されたRTコアは非常に高性能で、瞬時に鮮明な描画を実現します」(杉浦氏)
HP Z Captisがもたらす価値の一つは、試作を大幅に削減できることだ。従来はデザイン検証のために複数の試作品を作成して比較検討する必要があったが、HP Z Captisならスキャンした素材のリアルな質感データを3Dソフトウェアに取り込める。これにより物理試作の回数を減らすことができ、環境負荷低減にもつながる。
もう一つの価値は、データ活用の高度化と業務効率化だ。従来はCGクリエイターが一から描き起こしていた素材の質感表現も、HP Z Captisを使えば高精細なテクスチャーを短時間で生成でき、クリエイターの負担を軽減できる。さらに素材はデジタルアーカイブ化でき、物理サンプルを探す手間や保管場所も不要となる。必要なシーンで即座に素材データを活用できるため、「探す」「取りに行く」「一から作る」といった作業を省き、制作プロセスを加速する。
「HP Z Captisを使えば、試作品の製作期間を短縮しつつ、限られた時間で多様なデザインパターンをレビューできます。さらに、SBSAR形式で出力可能なため、設計の枠を超え、営業やマーケティング領域での活用も見込めます」(杉浦氏)
HP Z Captisはダッソー・システムズが展開する「3DEXPERIENCEプラットフォーム」との親和性も高い。その点について、ダッソー・システムズ テクニカルコンサルタントの星宮啓氏も期待を寄せる。
「真のバーチャルツインの実現には見た目の再現が不可欠であり、HP Z Captisによるリアルなマテリアルのデジタル化は意義深いと考えます。マテリアルスキャナーは世界的にも数が少なく、特にSBSAR形式での出力に対応している点はユニークです。設計だけでなく、カタログやプロモーションといったマーケティング領域でも外部制作会社との連携が容易になると期待されます」(星宮氏)
今回のデモではCATIAとの連携までの流れを紹介していたが、同じく3DEXPERIENCEプラットフォーム上で動作するコマーシャルイノベーション支援ソリューション「3DEXCITE」への展開も可能である。HP Z Captisで取得したマテリアルデータを3DEXCITEのバーチャルツインに反映することで、製品が完成する前に、カタログやプロモーション用の素材を制作できる。
星宮氏は「近年、SNSを活用した製品プロモーションを強化する動きが目立ちますが、HP Z Captisと3DEXCITEを用いることで、高品質かつインタラクティブなコンテンツを素早く制作できます。設計からマーケティングまでシームレスに高品質なマテリアルデータを活用するという意味で、HP Z Captisは3DEXPERIENCEプラットフォームとの親和性が非常に高いと感じています」と語る。
日本HPは、自動車、建築、ファッション、インテリアなど、視覚的な質感再現が重視される業種を中心にHP Z Captisを展開する考えだ。同時に、既存の枠を超えた潜在的なニーズや新たな活用法の創出にも期待を寄せている。
HP Z Captisの販売は米国で先行していたが、日本市場での展開も既に開始している。実機は日本HPの本社ショールームで確認できるほか、貸出機も用意している。さらに、導入検討企業向けに手持ちの素材をスキャンしてデータ化するトライアルサービスも計画中だ。試作コスト削減や質感再現の効率化、レビュー迅速化を求める企業は、ぜひ実際の性能を自らの目で確かめてほしい。
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提供:株式会社日本HP
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年12月26日
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