組織の壁やシステムの限界で「DX」の掛け声が空回りしがちな中、多くの企業が直面しているDXの課題を鋭く指摘し、化学物質管理の領域におけるAI活用の可能性を力強く語ったのが、ケミカン代表取締役CEOの清水俊博氏による講演「AIで変える化学物質管理――SDSから始める真のDX」だ。複雑でリスクの高い化学物質管理の現場において、規制順守と業務効率化の両立を実現する強力なツールとしてAI活用にフォーカス、SDS(安全データシート)をAIで正確かつ効率的に管理することで確実に成果を生み出すDX手法を紹介した。
清水氏はDXが進まない原因について、非効率な組織構造がシステムに反映される「コンウェイの法則」や、経営からの無理な指示がシステムに集約され「組織の不合理の集積地」となる問題を指摘した。また、固定的な仕様を求める従来型システムは、変化し続けるビジネス現場に対応できず、これがDX失敗の大きな要因だと分析する。
この行き詰まった状況を打破するゲームチェンジャーこそが「AI」だ。清水氏はAIの最大の強みを「従来のシステムにはなかった“柔軟性”にある」と強調する。プログラムは正しく命令されなければ正しく動かない。しかしAIは、多少曖昧な指示であっても文脈を理解し、意図を汲み取ってくれる。これは、システムが人間側に歩み寄ってきた大きな変化であり「複雑なものを複雑なまま任せられる」時代の到来を意味する。
清水氏は、現代人がもはやPCやスマートフォンがない時代に戻れないのと同じく、いずれAIがないビジネス環境も考えられなくなると予測する。「労働からAIへの代替は今後加速する。それは単純な人員削減ではなく、人間がより高度な意思決定に集中するために、AIとの協業が不可欠になるという未来。AIが情報を収集・整理し、複数の選択肢を提案し、人間が最終的な判断を下す。そんな新しい業務スタイルが標準になる」
では、具体的にどこからAI活用を始めればよいのか。清水氏は2つのポイントを提示した。
1つ目は「小さくスタートすること」。全社的なプロジェクトや部署をまたぐような大規模なものでなく、業務内容が比較的明確な領域から始めることが成功の鍵だという。2つ目は「段階的に導入すること」。まずは人の作業をAIに置き換える「できる化」から始め、次にそれを「自動化」する。そして最終的には、AI自身が新たなパターンや方針を提案する「自創化」へとステップアップしていくべきだと語った。
この条件に照らし合わせたとき、AI活用に最も適した領域の一つが「化学物質管理」だと清水氏は説く。化学物質管理の世界は、まさに「曖昧さ」と「複雑さ」の塊だ。一つの物質に複数の名称が存在し、構造式も一意に定まらない。さらに、年々厳格化・複雑化する国内外の法規制(労働安全衛生法、化管法、PRTR、欧州のPFAS規制など)を常にキャッチアップし続けなければならない。
法令違反は厳しい罰則や取引停止、リコールに直結するため、リスクは増大する一方だ。しかし、これら全てに対応できる専門知識を持つ人材の確保は極めて困難であり、現場の負担は限界に達している。この「例外が多く、曖昧で、かつ専門性が高い」という分野こそが、AIの柔軟性と学習能力を最大限に生かせる領域だと清水氏は力説する。
製品品質情報管理の課題解決・管理業務向けSaaS「ケミカン」は、曖昧で複雑な化学物質管理やリスクアセスメントをAIで効率化するクラウドサービスだ。現場担当者がSDSなどの関連ドキュメントをシステムにアップロードするだけで、AIと専門スタッフがその内容を解析・データ化し、一元管理を可能にするというものだ。
煩雑なデータ入力作業は不要で、ただファイルを「放り込むだけ」。データ化された情報は、各種法規制や、取引先ごとの独自の調達基準(紛争鉱物不使用など)と自動で照合され、コンプライアンスチェックが行われる。これは、これまで多大な時間と労力を要していた含有物質調査などの業務を劇的に効率化する。
ケミカンが目指すのは、単なる業務効率化に留まらない。清水氏は「曖昧なところ、暗黙知が多いところ、今までのシステムでは解決できなかったところにこそ、AI活用の価値がある」と語る。ケミカンの取り組みは、化学物質管理という専門領域における「真のDX」の姿を具体的に示す好例と言えるだろう。
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提供:株式会社ケミカン
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年10月22日