コロナ禍を経て、自由にどこでも設計できる設計環境のリモート化への要望が高まっている。しかし、VDI環境を導入しても快適にCADが使えるわけではなく、結局ローカル環境から抜け出せないという声も多い。設計環境のリモート化を実現するために何が必要なのだろうか。
製造業の設計業務において、製品ライフサイクルの短縮や、開発スピードの向上などのニーズが高まる中、より柔軟で生産性の高い設計プロセスが求められている。そこで注目されているのが設計環境のリモート化だ。従来固定されたローカルのワークステーションでの作業が当たり前だった設計環境がリモート化することで、設計者はいつでも場所を選ばず業務が行えるようになる。加えて、グローバルな分業の進展や、顧客とのコミュニケーションの多様化、異なる拠点や企業間でのデータ共有や共同作業なども容易に行えるようになる。
ただ、こうしたニーズは以前からあったものの、実際にCADやCAEなどのアプリケーションを不自由なく使えるリモート環境を実現することが難しく、なかなか普及していない状況があった。NSW サービスソリューション事業本部 クラウドプラットフォーム事業部 ビジネスストラテジストの武藤均氏は「設計環境の課題は、大きく分けて『ワークステーションの課題』と『クラウドCADの課題』の2つの側面から捉えることができます」と述べる。
ワークステーションの課題は、ソフトウェアの進化とのミスマッチが起こるという点だ。CADをはじめとする3Dモデリングやレンダリング機能を備えたソフトウェアは急速に高度化が進み、それに伴いワークステーションのスペック要件も上がってきている。その結果、手持ちのワークステーションでは最新のCADソフトウェアに対応できず、最新の設計環境を用意するためにワークステーションを入れ替えざるを得ない状況が生まれている。さらにそのサイクルが年々早まっている。
また、ソフトウェアのライセンス形態が買い切り型からサブスクリプションモデルへ移行する中、複数台のPCで利用する際の制約や、ライセンス移行手続きの煩雑さも課題だ。GPUの搭載要件が厳しくなったことも動作環境の制約などにつながっている。モバイルワークステーションという選択肢もあるが、高負荷な処理を行う際にはスペックが不足する場合も多く、重量やバッテリー持続時間、などの観点でも、全ての業務で十分に使えるとはいいがたい状況だ。
一方、インターネット経由でアクセスして利用できるクラウドCADについても、多くのCADベンダーからリリースが進み、使用できる環境は広がっているものの、まだまだ課題は多い。通信環境による作業性の問題がある他、クラウド上に設計データを保存するため、外部からの不正アクセスや情報漏洩(ろうえい)のリスクがある。特に、高度なレンダリングやシミュレーションを行う場合、処理速度の低下が作業効率に影響を及ぼす可能性がある。現在の設計環境をすぐにリモートで問題なく使えるようにするのは難しかった。
そこで、Softdrive Technologies社の日本唯一の販売代理店であるNSWと、Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)の代理店であるSB C&Sがパートナーシップを組み、Softdrive×OCIによるVDI(Virtual Desktop Infrastructure、仮想デスクトップ)ソリューションの提供を開始した。
Softdriveは、カナダのSoftdrive Technologies社が開発した、高度なグラフィックス処理やCAD向けに最適化されたVDIソリューションだ。VDIとは、サーバ上に仮想デスクトップ環境を構築し、ユーザーがリモートからアクセスできる技術だ。3D CADやシミュレーションソフトのような高負荷なアプリケーションも、サーバ側で処理を行うことで、設計者は手元の端末に依存することなく必要な設計ツールを利用できる。また、クライアント端末が低スペックでもスムーズに動作するため、高価なワークステーションを用意する必要がなく、ハードウェアコストを抑えられる。さらに、ソフトウェアのアップデートや設定変更は、管理者がサーバ側で一括適用できるため、各端末で個別対応する手間が省け、運用の効率化にもつながる。
これらにより、オフィスに限らずどこからでも業務を行えるため、設計者の柔軟な働き方の推進にも貢献する。また、顧客や海外拠点、協力会社とのデータ共有が円滑になり、複数の企業や部門、担当者などで協力して行うプロジェクトの進行なども効率化できる。
Softdriveはユーザーが使用したいデバイス(Windows、MacOS、iOS)から使用可能で、グローバルでベアメタルサーバを提供している、OCI上でしか動作させることはできない。OCIから提供されるNVIDIA A10 GPUを活用することで、他社VDIサービスでは動作が難しいCADのような高負荷なアプリケーションも、一般的なPCでスムーズに実行できる。高負荷な3Dモデリングやレンダリングにも対応可能なことから、建築、エンジニアリング、建設の分野で特に高い評価を得ている。
武藤氏はSoftdriveのメリットについて「OCIのベアメタルサーバとの組み合わせにより、高いパフォーマンスと拡張性を実現できることが最大の特徴です。特に、SoftdriveはGPUをフルに活用するため、OCIのベアメタルGPU環境が前提となります。これにより、安定した動作と高速なデータ処理が可能になり、PCのスペックやロケーションに依存せず、どこでも業務を行えます。近年の3Dモデリングやレンダリング処理の負荷増大にも対応できる最適なインフラ環境が整っており、必要に応じた性能の拡張やカスタマイズも可能です。OCIベアメタルを基盤とすることで、一般的な仮想環境では実現できない高負荷な設計業務の柔軟性と生産性の向上が期待できます」と語る。
Softdriveは独自のリモートデスクトッププロトコル「Softstream」を活用し、8msの超低遅延ストリーミングを実現している。これは従来の一般的なリモートデスクトッププロトコルと比較して5倍の速度となる。さらに、ネットワーク条件に応じてリアルタイムでストリーミング品質を調整するダイナミックネットワーク制御を備えており、ユーザーはワークステーションと遜色なく、スムーズな操作性を体感できる。
一般的なワークステーションと比較して初期費用やランニングコストが発生するものの、ハードウェアコストなどのイニシャルコストは抑えられる。加えて、快適なリモート環境の構築や複数メンバー間でのコミュニケーションの向上、リソースの柔軟な拡張やリモートワークへの対応、柔軟で効率的なワークフローの実現など、生産性の向上と運用効率化を実現する点から、単なるコスト削減だけでなく、業務効率向上と企業の競争力強化にもつなげられる。
製造業者にとって重要なセキュリティ面についても、Softdriveは高度な対策を講じている。通信の安全性を確保するためにTLS/SRTP暗号化を採用し、エンドツーエンドでのデータ保護を実施。さらに、クラウド上のデータは全て暗号化され、不正アクセスを防ぐ仕組みを備えている。クラウドサービスプロバイダーやSaaS企業が顧客のデータを安全に管理していることを証明する「SOC 2(Service Organization Control 2)認証」も取得しており、信頼度は高い。
加えて、OCI上でサービスを提供することで、OCIの高度なセキュリティ機能も活用している。顧客ごとに独立したテナントを設ける「テナント分離」と、必要最小限の権限のみを付与する「最小特権アクセス」の原則を適用し、データの保護とセキュリティリスクの軽減を実現する。強力なバックアップ機能も備えており、アプリケーションの中断やダウンタイムを発生させることなくバックアップが可能だ。これにOCIのサービス設定やアクティビティーを監視して、セキュリティ上の問題を検出、通知、修正するサービス「OCI Cloud Guard」を利用することで、セキュリティ状況を継続的に監視し、脅威に対応する体制を構築する。
「製造業においては特に、セキュリティの観点からSaaS型サービスが敬遠される傾向がありました。Softdriveは自社でのセキュリティ対策はもちろん、OCIで個別のテナントを用意し運用することで、安全で信頼性の高い仮想デスクトップ環境を実現できることが大きな強みです。セキュリティを含めた運用面についても、われわれがSIerとしての強みを生かして、個別に顧客の要件に合わせた環境を提供します」(武藤氏)
SoftdriveはカナダではすでにSaaS版としてサービスを展開し、豊富な実績を持つ。しかし、日本市場では、より柔軟な環境構築やカスタマイズ性、セキュリティ要件への対応が求められるため、SaaS版ではなくOCIのベアメタルGPU環境を活用したマネージドサービスとして本格展開する予定だ。これにより、各企業のニーズに応じた最適なインフラ設計と一括運用管理を提供し、日本市場の要求に適した形で導入が可能となる。
特に製造業、建築業、インフラ、医療、研究機関、ゲームや映像制作など、高性能PCを必要とする業界では、より柔軟なカスタマイズ性や、企業ごとのセキュリティ要件、専用環境での運用ニーズに対応するため、OCI上でのマネージドサービスとして提供する。これにより、高負荷な処理にも最適化されたリソース構成や、セキュリティポリシーに準拠した環境構築が可能となる。
「どの業界にどの程度の需要があるのか、個別の案件ごとに導入の可能性を探りながら、市場の反応を確認していく方針です。万人向けというよりは、特定の環境やニーズがある企業にフィットする形になると考えています。また、実際の現場環境に精通するパートナー企業と連携を強化し、より深く浸透を進めていくつもりです」と武藤氏は述べている。
設計環境の変化により、柔軟で自由度の高い設計プロセスへの変革の重要性が高まっている。Softdriveは、ワークステーションの制約とクラウド環境の課題を克服し、設計業務の生産性を飛躍的に向上させる有力なソリューションだ。特に、CADやレンダリングといった高負荷な作業を仮想デスクトップ上で快適に処理できる点は、従来の設計環境にはなかった大きな強みだ。設計業務の効率化や柔軟性を高めたい企業にとって、Softdriveは強力な選択肢となり得る。まずはデモ環境でそのパフォーマンスを体感し、次世代の設計環境を実感してみてほしい。
(※)Oracle、Java、MySQL及びNetSuiteは、Oracle Corporation、その子会社及び関連会社の米国及びその他の国における登録商標です。NetSuiteは、クラウド・コンピューティングの新時代を切り開いたクラウド・カンパニーです。
提供:SB C&S株式会社、NSW株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年5月30日
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