モデルベース開発はSDVにつながっていく、その価値を発揮するには?車載ソフトウェア

自動車業界で注目を集める「SDV」。その価値を実現していくには、ソフトウェアの開発や設計を抜本的に刷新することが求められる。言葉や概念としては目新しいが、刷新のヒントはすでに自動車業界でよく知られた「モデルベース開発」にある。モデルベース開発はどのようにSDVにつながっていくのか。自動車メーカーやティア1サプライヤーに伴走するネクスティ エレクトロニクスに聞いた。

» 2025年02月03日 10時00分 公開
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 経済産業省が2024年5月に発表した「モビリティDX戦略」。モビリティの産業構造の変化が進むことを踏まえて官民の戦略がまとめられている。モビリティのDXを推し進める技術の1つが、ソフトウェアデファインドビークル(SDV)だ。

 モビリティDX戦略の中では、SDVが実現する価値として「車両の安全性や操作性などの機能を常に最新にアップデートすること」「追加機能やサービスを選択して自由にカスタマイズできること」を挙げている。自動車メーカーやサプライヤーなど製造側にとっては「ハードウェアとソフトウェアの分離による開発効率化」「発売後の柔軟なソフトウェア設計変更や機能アップデート」「異業種とも連携した多様なマネタイズポイントの設定」がSDVの価値になる。

 ただ、こうしたSDVの価値を実現していくには「モビリティの開発や設計を抜本的に刷新することが不可欠だ」と経済産業省は言及。SDVのための抜本的な刷新というと、全く新しいアプローチによる非連続な飛躍が求められるように思えるかもしれないが、これまでの取り組みと地続きの部分もある。カギを握るのは、モデルベース開発(MBD)とその中で生まれるモデルの流通だ。

 豊田通商グループのエレクトロニクス商社であるネクスティ エレクトロニクスは、車載ソフトウェアの開発やMBDに長年関わってきた経験を生かしたプラットフォーム「moderix(モデリックス)」を通じて、SDV時代に不可欠なソフトウェア開発の効率化を実現していく。

SDVが注目される前から課題を洗い出してきた

 moderixに含まれているのは、暗号化と利用者管理によりモデルの安全な流通を促進する「モデル棚」、自社のモデルを開示せずに他社のモデルと連携したシミュレーションが行える「秘匿連成シミュレーション」、PCのOSやスペックの違いによるトラブルを回避するクラウドベース統一開発環境「シミュレーションワークスペース」などソフトウェア開発の効率化を強く意識したソリューションだ。moderixが立ち上がったのは2021年度だが、SDVが話題になる以前からソフトウェア開発の課題に着目し、プラットフォームとして構築してきた。

ソフトウェア/モデル流通プラットフォーム「moderix」の機能[クリックで拡大] 提供:ネクスティ エレクトロニクス

 経済産業省は2015年に「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」を設置し、企業間のすり合わせ開発をシミュレーションで行いながら高度化する構想「SURIAWASE2.0」を発表した。ネクスティ エレクトロニクスは経済産業省の研究会の活動を参考にしながら、SURIAWASE2.0の実現に向けた課題を独自に整理し、特定のツールに片寄らない商社ならではの立ち位置を生かしてmoderixの構築がスタートした。

 「2015〜2016年ごろからハードウェアとソフトウェアを分離しようという考えが広がり始めます。ただ、そもそもソフトウェアを分離して作ることができるのか、ソフトウェアをハードウェアと同じ部品の1つと見なしたときに部品調達や部品の品番管理がどうなるのか……という課題が出てきました。まず、われわれはハードウェアと分離したソフトウェアの開発にMBDを使おうと取り掛かりました。2017〜2018年には自動車メーカー向けに100人規模のエンジニアリングサービスを提供していたこともあって、MBDを進める環境は社内にそろっていました」(ネクスティ エレクトロニクス ソフトウェアバリューチェーンカンパニー XaaSユニット ユニット長の木内範義氏)

ネクスティ エレクトロニクスの木内範義氏

 同時期に「デジタル大部屋」への関心が高まったことも、moderixに大きく影響した。SURIAWASE2.0ではデジタル空間での大部屋活動が提案された。「ツールのライセンス管理や、関係各社が自社のIP(知的財産)を持ち寄れるクラウドプラットフォームを用意し、その中ですり合わせができるとデジタル大部屋ができそうだと議論したことも、moderixに反映されています」(木内氏)

モデル流通の難しさを踏まえたソリューション

 MBDとモデル流通に端を発するmoderixだが、モデルを流通させることは簡単ではない。モデルは「動く設計書」ともいわれるように、ノウハウや知見、過去の改修など重要な情報の塊だ。そんな設計書を社外に見せるには高度な情報管理が欠かせない。モデルを安全に渡したり、限定された環境でのみ使えるようにしたりするだけでなく、モデルの中身を見せずにシミュレーションを行いたいというニーズもある。

 moderixではモデルに暗号化や鍵管理の仕組みを施し、安心安全なモデル流通の環境を提供している。コロナ禍でさまざまなファイル共有サービスが普及したが、「一般的なサービスでもアクセス権を設定できますが、モデルのやりとりには不十分だと考えられます。moderixは漏えいを防ぐのは大前提ですが、万が一漏えいしたときにモデルの中身がのぞかれるリスクを下げることを重視しました」(ネクスティ エレクトロニクス XaaSユニット プロダクト事業部 部長の福田了平氏)

ネクスティ エレクトロニクスの福田了平氏

 また、ある自動車メーカーは海外に展開できないモデルを使って海外開発拠点とシミュレーションを行うため、モデルを渡さずにクラウド上でシミュレーションが実行できる「秘匿連成シミュレーション」を利用。シミュレーションで事前検証を行うことで、大きな費用削減効果があったと試算されている。「ある車種の機能の1つでかなりの効果があるので、車両全体のシミュレーションに活用するとさらに費用対効果で貢献できると考えています」(福田氏)

 moderixは、実務だけでなく教育や研修のプラットフォームとしても活用されている。あるコンソーシアムでは、moderixを通じて教育コンテンツを配信し、会員向けにMBD普及のための教育に使っているのだ。

 ある日系自動車メーカーと日系サプライヤーも、経済産業省が中心に作ったジェネリックモデルでクラウド連成シミュレーションのトライアルを実施した。そこで手応えを得て、翌年には市販車に搭載する制御ソフトウェアを使ったシミュレーションに発展した。研修やトライアルから実務に移行しやすいことが確認された。

 MBDとモデル流通は、その裾野を大手企業から中小企業に広げていくことが自動車業界全体の課題だ。moderixを研修で利用することで実務にもスムーズに移行できれば裾野の広がりに貢献できると見込み、ネクスティ エレクトロニクスは今後、MBDやCAEの導入教育をmoderix上で提供することも検討している。

デジタルアセットの流通を担うプラットフォーマー

 moderixはMBDやモデルの流通だけをターゲットにしたものではない。今後はソフトウェアの協調開発や流通の他、将来的にはユーザー向けのアプリケーション提供にもプラットフォームを広げ、当初からの目標でもある「デジタルアセットの流通を担うプラットフォーマー」を目指していく。

 今後、SDV向けには複数の開発会社が協調しながらソフトウェアを開発していく必要がある。そして協調開発する領域は、これまでMBDが対象としていたECUの制御ソフトウェアにとどまらず、車載ソフトウェア全般に拡大し開発負担が増していく。

 「ハードウェアとソフトウェアの開発が本格的に分離されると、ソフトウェアは共通化されたOS的な協調領域と、協調領域を土台に差別化するアプリケーションの領域がより明確になります。そこで、共通部分はmoderix上で流通させることを考えています。moderix上に持ち込まれた共通のソフトウェアプラットフォームを基に、アプリケーションの差別化にリソースを投入してもらえるようにします」(木内氏)

SDV時代の水平分業や分離調達[クリックで拡大] 提供:ネクスティ エレクトロニクス

 AUTOSARやROS、車載Linux(AGL)、Android Auto、そして自動車メーカーが開発する車載OSなど、アプリケーションを載せるさまざまなソフトウェアの“器”が自動車業界で活用されている。「moderixとしては、どのような“器”が来ても受け止めるバーチャルマシンの準備を整えています」(木内氏)

 「並行してソフトウェアとハードウェアの開発を進めても、評価のタイミングでハードウェアが必要になる場面がまだ残っています。ハードウェアが調達できないことで開発がストップして開発期間が延びてしまうことも考えられます。開発環境でハードウェアをある程度模擬できるようになれば、分散開発が一層進むのではないでしょうか。そこに対しても、特定のハードウェアに依存しないレファレンス環境を提供するなどアプローチしていきます」(福田氏)

標準ソフトウェアの流通と検証環境[クリックで拡大] 提供:ネクスティ エレクトロニクス

 SDVでは車両の販売後もソフトウェアのアップデートなど開発が続くため、協調領域の共通ソフトウェアのバージョン管理も重要だ。バージョンが違うことで競争領域のアプリケーションにどのような影響が出るのかなどを分析する必要があり、そうした課題にもmoderixで対応していく考えだ。福田氏は「競争領域への影響を誰がどうやって管理するのか、空白地帯になる可能性が高いです。そこで、moderix上で共通ソフトウェアとアプリケーションが連動する部分のトレーサビリティーを確保し、差分を管理することを研究しています」と述べる。

 ソフトウェアのトレーサビリティーは今後自動車メーカーとしても重要な領域だ。ティア1サプライヤーがソフトウェアの品質や供給に責任を持つだけでなく、どのようなソフトウェア開発会社が開発に関わって納品されたのかを把握する次世代取引基盤の普及もmoderixでは視野に入れている。Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)などの動向を踏まえて、ソフトウェアの流通環境を構築する。

※ 次世代取引基盤に関するネクスティ エレクトロニクスのプレスリリース:モデル流通プラットフォーム(moderix)を活用し、NEDO「次世代取引基盤構築」の研究開発へ参画

ハードウェアとソフトウェアを分離することへの危機感

 今後、本格的にハードウェアとソフトウェアが分離されていくことで、サプライヤーの中には部品のハードウェアのみの製造会社になってしまう企業も出てきかねない。

 こうした懸念に対し、木内氏は「機能はソフトウェアで作られますが、別の会社が作ったソフトウェアを渡されてハードウェアに載せるだけになってしまうとハードウェアだけで差別化するのは困難です。MBDやモデル流通などシミュレーション技術を積極的に取り込みたいという危機感は、自動車メーカーだけでなくサプライヤーでも高まっています」と語る。

 ネクスティ エレクトロニクスは、SDV時代に向けたソフトウェア開発の課題を先取りして分析しながら、自動車産業をサポートしていく。

ネクスティ エレクトロニクスの池畠佑介氏

 「MBDに関連する受託開発を長年やってきた中で、自動車メーカーやティア1サプライヤーの現場レベルのニーズも集めてきました。JAMBE(MBD推進センター)などのコンソーシアムや委員会活動にも積極的に関与し、MBD標準化と中小企業含めた裾野拡大に取組んでいます。また、自動車産業の共通課題を先んじて想定し、こんなアクションをとっていきませんかと提案しながら合意形成し、アクションに移しながら車両開発の効率化に貢献したいと考えています」(ネクスティ エレクトロニクス XaaSユニット プロダクト事業部 マーケティンググループ グループリーダーの池畠佑介氏)

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提供:株式会社ネクスティ エレクトロニクス
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年3月2日