事業構想と研究テーマ共創から始めるオープンイノベーションの新たな姿産学官連携による共創連携の価値

イノベーション創出や自社だけでは解決できない社会課題解決のため、社外の力を有効活用するオープンイノベーションが注目されている。しかし、テーマ設定や体制構築に課題がある場合も多い。産総研グループでは、企業戦略に密着した研究テーマ開発の段階から共創する取組を進めており、代表事例とともに紹介する。

» 2025年01月30日 10時00分 公開
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 イノベーション創出や自社だけでは解決できない社会課題の解決に向け、産学官連携などを生かしたオープンイノベーションへの期待が高まっている。ただ、研究機関や企業などそれぞれの主体で目的が異なるために、実際に連携を進め、成果を生み出していくのは簡単なことではない。また、事業課題と研究テーマのつなぎこみがうまくいかず、個別の研究テーマで連携がうまくいったとしても単発で終わり、求める課題解決までには届かないケースも多い。

 こうした中で産業技術総合研究所(産総研)の研究と、企業の求めるニーズを包括的にコーディネートし、コンセプト共創から研究開発の実施、成果の権利化やスタートアップ事業創出に至るまでの仕組みで成果を生み出そうとしているのが、産総研グループのAIST Solutionsだ。企業の事業計画や研究の出口を明確化し、共同でテーマを立てて進める共創型技術コンサルティングや、パートナー企業名を冠した連携研究室(冠ラボ)を含めた共創を積極的に活用する島津製作所と産総研グループの取り組みについて紹介する。

オープンイノベーションの課題と産総研グループの取り組み

 製造業など研究開発を担う企業にとって、オープンイノベーションは、新たな価値創出や競争力の強化を目指す上で欠かせない要素となっている。その中でも国の研究機関や大学の研究テーマなどを活用する産学官での連携が大きな注目を集めているが、実際に連携を進め、事業につながる成果を生み出すのは容易ではない。

 その要因の1つとして、研究者と企業の間で目的の違いがある。研究者は新しい知見や成果をできるだけ早く論文などで発表することを使命としている。一方で、企業側は競争上の理由から、その発表を慎重に進めたい場合も多い。また、企業側は具体的な事業計画や利益拡大のために使える技術を探しているが、研究者は純粋な探求心から研究を行っているため、研究の方向性がかみ合わない場合も生まれる。このような立場の違いをうまく調整する必要がある。

 こうした立場の違いを乗り越えて産学官連携を円滑に行うために取り組んでいるのが、産業技術総合研究所(産総研)グループのAIST Solutionsだ。AIST Solutionsは、産総研の技術資産と研究資源を活用し、研究成果の創出と社会実装を通じて社会課題解決と産業競争力の強化に取り組んでいる。その中で、コーディネート事業では、企業ニーズと産総研の技術資産を組み合わせ、連携を進めている。社会が複雑化する中で、抽象的な企業ニーズからのスタートであっても、共同研究の枠組みまで一歩進めた形で展開するのが、共創型技術コンサルティングだ。

 共創型技術コンサルティングは、企業の事業計画や研究の出口を明確化し、共同でテーマを立てて進めることで、企業と研究機関の真のパートナーシップを構築する手段としている。

共創型技術コンサルティングの概要 共創型技術コンサルティングの概要[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions
AIST Solutions コーディネート事業本部 連携推進部AI・半導体チームのマネージャの久納弘幸氏 AIST Solutions コーディネート事業本部 連携推進部AI・半導体チームのマネージャの久納弘幸氏

 AIST Solutions コーディネート事業本部 連携推進部 AI・半導体チームのマネージャの久納弘幸氏は「従来の共同研究では、企業側からは技術的な課題だけが与えられるため、そこにかみ合うものがなければ、それ以上進みません。共創型技術コンサルティングでは、最初に企業側のビジョンや方向性を共有した上でどういう研究テーマが最適かを模索しますので、1つの技術シーズがかみ合わなくても他の技術でなんとかできないかというアプローチや、近い領域の応用でなんとかできないか、といったアプロ―チが生まれます」とその価値について語る。

 この成果の1つが、島津製作所とのオープンイノベーション連携だ。両社は、2018年から包括的な共創型技術コンサルティング契約を締結しており、これまで複数の共同研究を推進してきた。久納氏は「島津製作所さんには、ビジョンや企業としての課題などを最初にお話いただき、研究の出口を共有していただきました。これにより、産総研グループ側も同じ方向性で研究テーマやアイデアを出すことができるようになり、研究者の熱意も高まったように感じています」と語る。

冠ラボを活用した島津製作所の国際標準化と微生物研究の共創

 この枠組みを生かし、さらに「連携研究室(冠ラボ)」として発展させた。冠ラボは、産総研内に企業の名称を冠した研究室を設置し、特定の企業のニーズに特化した研究開発を進める仕組みだ。2016年度に導入され、オープンイノベーションを実践する場として、産総研グループの技術シーズ、設備、人材、産総研グループが持つチャネルといったリソースを最大限活用することができることが特徴だ。

「冠ラボ制度」の概要(上)と活用事例(下) 「冠ラボ制度」の概要(上)と活用事例(下)[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions

 冠ラボの意義について、島津製作所 技術推進部 シニアマネージャーの笹倉健介氏は「従来の仕組みでも連携は行えますが、研究者が同じ研究室の一つ屋根の下で議論し、膝を突き合わせて研究を進められる環境がイノベーションには重要だと考えています」と述べる。

 2024年10月に「島津製作所-産総研 アドバンスド・ソリューション連携研究ラボ」を設立。3年間の設置期間で「プラネタリーヘルス(人と地球の健康)」を目指し、革新的な技術や製品の開発を行う。具体的には「先端的分析計測手法の国際標準化」と「新たな微生物探索システムの構築」という2つのテーマで取り組みを進めている。

島津製作所 技術推進部 シニアマネージャーの笹倉健介氏

 国際標準化については、島津製作所の各種分析計測機器がグローバル市場で競争力を発揮するために欠かせない要素として力を入れる。「島津製作所でもさまざまな国際標準化について取り組んでいますが、グローバル化により各地のさまざまな規制が生まれる中、これらの動向を全て的確に捉えて対応していくことは難しくなっています。産総研グループでは、多くの研究者が国際標準関連の専門委員会(TC)の中心メンバーとなっており、国際標準化についての知見を持っています。連携を通じて、国際標準の動向に合わせて、島津製作所として製品やサービスをいち早く適応できるようにしていきたいと考えています。さらに、国際標準化に関わる島津製作所内の人材育成にも期待しています」(笹倉氏)。

 もう1つのテーマが微生物研究分野での共創だ。笹倉氏は「微生物研究の可能性は無限大です。しかし、島津製作所内では専門家が少なく、ここで産総研グループとの連携が鍵を握ることになります。冠ラボを通じて、われわれが提供するキーワードや課題を基に、適切な研究者や研究テーマを迅速に提案いただいています。さらに重複領域の調整などが行えることも大きな価値があります。これまでの研究で培った知見を無駄にせず、さらに付加価値を加える形で展開したり、調整したりできる点が、効果的だと考えています」と語る。

 共創によるこれらの円滑なコミュニケーションを促しているのが、研究と事業の両面に対応できる柔軟な姿勢を持つAIST Solutionsのコーディネータである。「産学官連携においても研究テーマが事業成果につながることが重要だと考えています。そのため、産総研グループの研究者と共創企業を最適に結んでいくことが必要になります。これは、逆に研究者への好影響もあると考えています。共創企業がどのような事業に育てたいのかといった“出口”を共有することで、挑戦的なテーマにも積極的に取り組む環境を作ることができるからです」と久納氏は述べている。

「島津製作所-産総研 アドバンスド・ソリューション連携研究ラボ」の概要 「島津製作所-産総研 アドバンスド・ソリューション連携研究ラボ」の概要[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions

島津製作所との共創が生む新たな可能性

 島津製作所と産総研グループによる共創は、2社での関係にとどまらない。笹倉氏は「島津製作所は食品メーカーや素材メーカーに分析計測機器を提供していますが、産総研グループではこれらの企業とも共同研究を行っています。産総研グループとの連携により、これらの企業との3社連携での研究なども可能だと考えています」と産総研グループが持つネットワークの価値について語る。

 さらに、島津製作所では技術ロードマップの最適化なども産総研グループとの連携を生かして行っているという。島津製作所の研究開発は、基礎研究を行う基盤技術研究所と各事業部が持つ開発部門で行っており、基盤技術研究所は中長期、各事業部の開発部門はすぐに事業化できる領域で研究開発を進めている。「基礎研究と事業部の製品開発をどうギャップなく結び付けるかが鍵だと考えています。産総研グループでは最先端の技術開発情報が集まってきています。その情報を基に、島津製作所内の技術を見ていただくことで『この技術はこういった応用が可能だ』や『通常の期間よりは長いが事業化が見込めるので事業部門で担当したほうが良い』などの判断を行うことができ、技術開発を円滑につないでいくことができるようになります」と笹倉氏は共創の意義について語っている。

 その他、島津製作所が強化するヘルスケア事業では“ミッシングピース”を埋める取り組みを産総研グループと協力して行っている。「われわれの持つコア技術と、産総研の広範な技術資産を組み合わせることで、これまでにない装置やシステムを生み出すことが可能になります。事業の全体像を描き、それに基づいて研究を進められる点が、この連携の強みです」(笹倉氏)。

 ここまで見てきたように、島津製作所では冠ラボを含め、産総研グループをテクノロジープラットフォームとして活用することで、さまざまな事業価値創出に取り組み、実際に成果を生み出しつつある。

 既にAIST Solutionsがコーディネートしている冠ラボも数多く存在することから今後は冠ラボ間の連携などを含め、産総研グループを技術的なハブとしてさらに、新たな価値創出を技術基盤から生み出していくことを目指すという。久納氏は「企業と公的研究機関が長期的な視点で連携することで、研究成果が社会実装へとつながります。島津製作所さんとの取り組みを通じて得た知見を、他の産学官連携プロジェクトにも応用していきます。さらに冠ラボ同士の連携や情報共有の枠組みを構築することで、イノベーションの加速につなげていきたいと考えています」と語っている。

 オープンイノベーションを進める中で事業課題を技術的テーマに落とし込むことができなかったり、組み先を見つけられなかったりするケースも見られるが、そういう企業は、まずは最先端の技術情報を保有しさまざまな研究開発を担っている、産総研グループの力を生かしてみるのはいかがだろうか。まずはAIST Solutionsのコーディネータに相談することで開ける展望もあるかもしれない。

AIST Solutionsの久納氏(左)と島津製作所の笹倉氏(右) AIST Solutionsの久納氏(左)と島津製作所の笹倉氏(右)

※本記事はTechFactoryで掲載された記事の転載版です。



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