オープンイノベーションはなぜ難しいか AIによる出会いが生む新たな事業創出AIがアカデミアの技術をビジネスにつなげる

新事業を探索する企業は多く、自社にない社外の技術やアイデアを活用するオープンイノベーションへの期待は高い。だが、技術探索やコーディネーションの課題は多く、成果が出にくいのも現実だ。それを乗り越えるには何が必要だろうか。

» 2025年01月27日 10時00分 公開
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 製造業の多くは事業環境が大きく変化する中で、次の成長の柱となるような事業テーマやサービスを創出することを目指している。ただ、製品の複雑化やグローバル化が進む中、関連する技術領域や押さえるべき規制などが拡大し、市場の見通しが不透明な中でどのようなテーマを設定し技術や事業の開発をしていくべきか悩んでいる企業も多いはずだ。そういった中で、社外の知見やアイデアを活用し新たなテーマを探索したり、サービスや技術を活用し効率的に技術や事業の開発につなげたりしてイノベーション創出を目指すオープンイノベーションが古くから注目されてきた。

 ただ、日本でも多くの企業が取り組んでいるにもかかわらず、オープンイノベーションで成果を生み出している日本企業は限られている。イノベーション創出に最適な技術の探索が難しいことに加え、それらを研究している機関や企業との接点開拓などにも手間がかかるためだ。特に産学官連携などでは、研究機関や大学は先端技術を用いた差別化されたソリューションや新たなアイデアの宝庫であるものの、協力の枠組みが複雑化するため、さらにハードルが高いといえる。

 こうしたオープンイノベーションにおける産学官連携を事業につなげるために、さまざまな取り組みを進めているのが、産業技術総合研究所(産総研)グループで、技術×マーケティングのプロフェッショナルとして難易度の高い技術起点での事業開発の伴走支援に取り組む「株式会社AIST Solutions」だ。AIST Solutionsのオープンイノベーションに対する取り組みと、それを支える仕組みである「オープンイノベーションマッチングAI」を紹介する。

国内製造業のイノベーションに立ちはだかる課題

 これまでの日本の製造業は、垂直統合型の強固な構造を持ち、産業競争力を維持してきた。しかし、現在は業界構造が変化し、多くの産業で水平的な連携が必要となり、イノベーション創出のためにも業界や分野を超えた協力によるオープンイノベーションが求められるようになってきている。

 AIST Solutions コーディネート事業本部 デジタルプラットフォームチームの門井悠(かどい ちかし)氏は「水平的なビジネス構造への変化が進むのに伴い、全てのリソースを自社内に抱え込むのは難しくなっています。さらに、グローバル化が進む中で各国の法規や市場動向などの把握も必要となり、これらの観点でもさまざまな企業と連携して、新たな技術や製品を開発することが求められます」とオープンイノベーションの必要性について述べる。

AIST Solutions プロデュース事業本部 デジタルプラットフォーム事業 担当部長の宮下東久氏 AIST Solutions プロデュース事業本部 デジタルプラットフォーム事業 担当部長の宮下東久氏

 しかし一方で「企業側は事業における何らかの課題解決のために使える技術を探すというモチベーションであるのに対し、大学や研究機関の技術シーズは、研究室やプロジェクトごとに分散しており、必要な技術の詳細な情報を一つずつ確認していく必要がありました。さらに、専門的な知識がなければ、特許や論文といった情報を適切に評価、活用することも困難でそもそも最適な技術や研究室を探すことだけで膨大な手間がかかります」とAIST Solutions プロデュース事業本部 デジタルプラットフォームチーム 担当部長の宮下東久(みやした はるひさ)氏は、オープンイノベーションや産学官連携を形にする困難さを指摘する。

 そこで、産学官連携によるオープンイノベーションの課題解決を支援するため、技術や知見を統合し、効率的な探索と事業化プロセスを構築する仕組みを提供しようとしているのが、AIST Solutionsだ。

専門家でなくても技術検索ができる「オープンイノベーションマッチングAI」

 AIST Solutionsは、産業技術総合研究所(産総研)の100%出資により設立されたナショナルイノベーションエコシステムを推進する企業で、産総研の技術資産と研究資源を活用し、研究成果の創出と社会実装を通じて社会課題解決と産業競争力の強化に取り組む。

 AIST Solutionsが目指すのは、企業の成長に必要な「次の一手」を共に考え、事業化までを支援することだ。「自社内で解決できない課題をオープンイノベーションによって解決することが、次の成長領域を築く鍵です。そうした連携を促すハブとなり、さらに事業化に貢献するまで伴走するのがわれわれの役割です」と宮下氏は語る。

 この取り組みを加速させるために開発したのが、独自のAI(人工知能)システムである「オープンイノベーションマッチングAI」だ。これは、企業のビジネス課題と産総研を含む複数の研究機関や大学で行われている研究テーマを、自然言語検索により高精度で簡単にマッチングするシステムだ。ストックマークの生成AIエンジンを活用し、産総研が保有する技術分類などのノウハウを活用し「独自のビジネス×技術のLLM(大規模言語モデル)」を構築することで、より正確に技術と事業課題の関連性を見つけ出せるようにしている。2025年4月の運用開始に向けて準備を進めているところだという。

オープンイノベーションマッチングAIの概要 オープンイノベーションマッチングAIの概要[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions

 例えば、ユーザーが入力したビジネスワードや社会課題を起点に、課題に関わる技術体系などを示しつつ、産総研を含むつくばエリアの研究機関の技術(シーズ)情報を示すことができる。これにより、企業は自身の課題に対して適切な技術や専門家を迅速に見つけ出し、効率的に連携を進められるようになる。逆に技術から関連性の高い社会課題や事業課題を逆引きすることなども可能で、実績のある技術を他分野へ展開する参考にすることなども可能だ。

AIST Solutions コーディネート事業本部 デジタルプラットフォームチームの門井悠氏 AIST Solutions コーディネート事業本部 デジタルプラットフォームチームの門井悠氏

 門井氏は「従来の技術探索は、膨大な特許や論文から必要な情報を探し出すことが主流で、高い専門性が求められるものでした。そのため、専門家以外にはハードルが高い面がありました。しかし、オープンイノベーションマッチングAIを活用すれば、生成AIにより専門用語を使わなくても、一般的なビジネス用語から直接的に関連する技術やソリューションを見つけられるようになります。専門家でなくても連携先などを検討することができるようになります」と意義について語る。

オープンイノベーションマッチングAIの使用イメージ。技術テーマの強みを含めて最適な回答が可能 オープンイノベーションマッチングAIの使用イメージ。技術テーマの強みを含めて最適な回答が可能[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions

 もともとオープンイノベーションマッチングAIが担う作業は、AIST Solutionsでコーディネータとされる技術知見のある専門家が仲介役となり、最適な研究室やプロジェクトなどを紹介していたが、それでも多くの時間がかかっていた。オープンイノベーションマッチングAIでシステム化されることにより一部領域のマッチングの自動化が行える。また、公開情報を基に技術や課題のマッチングを行うのはシステムで行い、秘匿情報や具体的な協力内容については、コーディネータが対応するような仕組みが構築できる。これにより、より深い連携や実効性のある協力体制を迅速に作ることができるようになる。

 現状は、つくばエリアの7つの研究機関や旧帝大、主要な私立大学などの研究データを学習させているが、将来的にはさらに連携先を広げていく方針だ。さらに、API(Application Programming Interface)連携により、RAG(検索拡張生成)で使用するデータを動的に拡張できる計画などもあるとしている。「従来の公的機関のシステムは、どうしても堅牢性を重視しすぎるため、状況の変化に対し柔軟に進化させることが難しい面がありました。しかし、オープンイノベーションマッチングAIについては継続的に進化させられるシステム構成を最初から意識して作っており、アップデートをし続けていくつもりです」(門井氏)

GraphRAG 技術を活用し、より多くの文書を考慮して応答生成 GraphRAG 技術を活用し、より多くの文書を考慮して応答生成[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions

アイデアや解決策の発見も可能なイノベーションプラットフォームに

 オープンイノベーションマッチングAIが将来的に目指すのは、オープンイノベーションに関する包括的なソリューションプラットフォームだ。「われわれは、オープンイノベーションマッチングAIを、単なる技術探索のツールではなく、企業が新分野へ挑戦するための『入口』となることを目指しています。このプラットフォームを通じて多くの企業と技術を結び付けられることで、産学連携のハードルを下げ、オープンイノベーションにより新しい事業を創出できる仕組みを提供したいと考えています」と宮下氏は訴える。

 さらに門井氏は「例えば、オープンイノベーションを進めていく中で、技術的に足りない“ミッシングピース”となるような部分が出てくることはよくあることです。その場合、その足りない部分をどうするか方針が定まらず、共同研究が停滞してしまうこともよくあります。しかしオープンイノベーションマッチングAIを活用することで、足りない領域を埋めるためにはどういう技術が必要で、どういうところにアプローチすればよいのかをすぐに当たりをつけることができます」と仕組みの活用方法について語る。

 また、こうした仕組みは、オープンイノベーションを推進したい企業側のみではなく、研究者側にもさまざまな価値を生む。研究内容をシステムに登録することで、異分野からの用途提案や新たな実装可能性を発見する機会が生まれるからだ。「研究者が自らの研究の新たな価値を見つけ出し、それを実装につなげる支援ができるのも、このシステムの魅力です」(宮下氏)

 AIST Solutionsでは、「オープンイノベーションマッチングAI」のリリースに向けて、PoC(概念実証)を実施する先行企業を募りながらブラッシュアップを進めていく予定だ。2025年度からはAIST Solutions コーディネート事業本部内でも本格運用が始まり、研究者や企業がより使いやすいUI設計にも力を注いでいく。

 「このシステムを誰もが簡単にアクセスしやすい形で開発し、その仕組みをより広く提供していくことで、企業が新分野に挑戦するハードルを下げることを目指しています。これまで把握しきれていなかったシーズ同士を結び付けるような利用方法にも期待します」と門井氏は述べている。

 また、宮下氏は「とにかく産学連携を行いやすくするのが目標です。より多くの企業がイノベーションを実現できる環境を提供していきます。企業が技術で困ったらまずは使ってみるというような『4次元ポケット』のような存在になりたいと考えています」と将来像について語っている。

 オープンイノベーションマッチングAIのプロトタイプは既に稼働しおり、AIST Solutions内で現在検証中だとしている。オープンイノベーションの進め方で困っている企業は、ぜひAIST Solutionsに問い合わせてみてはいかがだろうか。

AIST Solutionsの宮下氏(左)と門井氏(右) AIST Solutionsの宮下氏(左)と門井氏(右)

※本記事はTechFactoryで掲載された記事の転載版です。



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