Scope3、CFP算定から始まる気候変動対策 信頼性高い2次データがもたらすものGHGベースでの企業活動の見える化へ

温室効果ガス削減への要求が強まっている。製造業ではサプライチェーン全体での削減が強く求められているが、その第一歩として必要な温室効果ガス排出量の把握を適切に行うのは困難だ。その中でどのように対策を進めていくべきだろうか。

» 2025年01月27日 10時00分 公開
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 地球温暖化や気候変動への対策として、世界中で温室効果ガス(GHG)の排出量削減が求められている。日本においても、2050年のカーボンニュートラル(CN)を目指し、製造業を含むあらゆる産業が脱炭素に向けた取り組みを加速させている。これらが真に効果的であるかを判断するには、個社での取り組みだけでなくサプライチェーン全体、さらにそれを超えた製品のライフサイクル全体で削減する視点が求められる。

 そのため、製造業では、サプライチェーンやそこに必要なエネルギー源で発生するGHG排出量を把握し、削減していくことが求められる。この要求根拠は「GHGプロトコル」が定めた「Scope3」基準に基づいて算出される。「Scope3」は15のカテゴリーに分けられ、それぞれの企業が算定する必要があるが、各企業の事業内容により算定の範囲と方法が異なるため、正確に計算するのが非常に難しい。ただ、排出量が把握できなければ削減も行えず、多くの製造業では対応に苦慮しているのが現実だ。

 こうした複雑さを解消するために、産業技術総合研究所(産総研)グループのAIST Solutionsが提供しているのが、高い信頼性を持った環境データを収録したインベントリデータベース「AIST-IDEA(アイスト イデア)」である。

脱炭素への取り組みを強力に支援する環境データベース

AIST Solutions プロデュース事業本部 事業構想部 エネルギーチーム 事業プロデューサの竹村文男氏 AIST Solutions プロデュース事業本部 事業構想部 エネルギーチーム 事業プロデューサの竹村文男氏

 製造業に要求されるScope3(原料調達から廃棄までを含む製品サプライチェーンの全過程における排出)の排出量把握の難しさについて、AIST Solutions プロデュース事業本部 事業構想部 エネルギーチーム 事業プロデューサの竹村文男氏は「Scope1(直接排出)やScope2(購入電力などによる間接排出)は自社内の取り組みのみであるので把握もしやすく、さらに公的なデータベースなども整備されており簡単に算定できます。しかし、Scope3は、必要なデータが膨大で、その入手や適切な算定根拠の特定が大きなハードルとなっています。結果として、多くの企業が算定自体に悩んでおり、取り組みを進めにくい状態となっています」と説明する。

 一方、世界各国で規制も強まっており「対応が難しいからできない」と言っていられない状況も生まれている。「企業としての開示要求などに加え、特に欧州では各種規制が進んでいる印象です。例えば、欧州電池規則により電池関連製品のカーボンフットプリント(CFP)の開示が義務化され、製品単位のCO2排出量を算定したデータの提供が求められるようになってきています。同様の動きはさらに幅広い製品に適用される可能性もあり、国内企業にもいち早く製品単位でのGHG排出量算定への対応が求められる大きな要因となっています」とAIST Solutions プロデュース事業本部 事業構想部でゼネラルチーム エキスパートを務める大塚聡太氏は言及する。

 こうした外部の圧力に対し、早急にGHG排出量の把握を行うために、一助となるツールとして、AIST Solutionsが提供するのが「AIST-IDEA(アイスト イデア)」だ。AIST-IDEAは、環境影響の見える化手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)やスコープ3算定を実施する際に必要となる温室効果ガス排出量原単位を、網羅性、代表性、完全性、透明性を担保した形で提供するインベントリデータベースである。データベースには5250ものデータセットが含まれ、日本国内のほぼ全ての事業における経済活動をカバーしている。この収録データの幅広さによって、Scope3の15カテゴリー全てにおいてGHG排出量を企業が適切に算定することを可能としている。

AIST-IDEAの4つの特徴 AIST-IDEAの4つの特徴[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions

 「この膨大なデータは、日本標準産業分類や工業統計調査用商品分類に基づき作成されており、国内の平均的な製造方法やサービスを反映した代表性の高いものとなっています。基本データは網羅性を、個別データは特定用途や地域に応じた詳細性を担保しているため、GHGプロトコルが要求する算定水準を満たし、企業が必要とする多様な評価に対応します。また、18の環境影響領域で評価できる点も特徴です」(竹村氏)

AIST-IDEAの4つの特徴

 「AIST-IDEA」が他の環境データベースに比べて優れている点として、4つの特徴がある。

 1つ目は「透明性」だ。AIST-IDEAは、データの根拠となる全ての入出力データを公開し、利用者がデータの内容を精査できるように設計されている。この透明性は、ISO14040の規格に基づくLCAの基本要件を満たすための重要なポイントとなっている。

 2つ目が「網羅性」だ。AIST-IDEAは、日本国内で生産されるほぼ全ての製品に対応したデータを収録している。最新バージョンでは5250のデータセットを提供しており、これらは国の統計に基づく産業分類に沿って整理されている。竹村氏は「業種や事業規模を問わず、企業が自社に適合するデータを容易に見つけられるようにデータセットをそろえてきました。各産業の主要なデータをそろえることで、そこから推計することでカバーできる範囲をさらに広げることも可能です」とその意義を説明する。

日本の主要な産業領域をカバー 日本の主要な産業領域をカバー[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions

 3つ目が「完全性」だ。LCAにおいて重要なのは、温室効果ガス(GHG)排出量だけでなく、他の環境影響も包括的に評価することだ。AIST-IDEAは、オゾン層破壊、鉱物資源消費、有害化学物質の発生など、18の環境影響領域を幅広くカバーしており「脱炭素への取り組みが他の環境指標に悪影響を及ぼさないか」など、多角的な環境影響評価を可能にしている。

 そして、4つ目が「代表性」だ。AIST-IDEAのデータは、日本の公的統計データを基に整備されており、日本国内の平均的な製造方法やサービスを反映している。その結果、偏りのない代表性の高いデータを提供できる。

代表性の高いIDEAのプロセスデータ 代表性の高いIDEAのプロセスデータ[クリックで拡大] 提供:AIST Solutions

 これらの4つの特徴が評価を受け、AIST-IDEAは、環境省のグリーンバリューチェーンプラットフォームでも推奨されており、公式データとして活用できる信頼性を担保している。大塚氏は、「AIST-IDEAは、世界でも最大規模のインベントリデータベースの1つとして認められています。データの質としての信頼性も高く、ISO14000シリーズに幅広く対応しています」と説明する。

AIST Solutions プロデュース事業本部 事業構想部でゼネラルチーム エキスパートを務める大塚聡太氏 AIST Solutions プロデュース事業本部 事業構想部でゼネラルチーム エキスパートを務める大塚聡太氏

 さらに「これらの4つの特徴を持つからこそ、各種規制への対応も円滑に行えます」と大塚氏は強調する。

 例えば、欧州電池規制では、製品のGHG排出量を部品ごとに正確に把握することが求められるが、現実的に全ての部品や材料で温室効果ガス排出量を実測値として測定することは、膨大な手間がかかるために不可能に近い。AIST-IDEAは、統計データに基づく分類体系を活用しており、仮に完全に一致する材料がなくても近似のデータを選択することで、多くの製品に対するGHG排出量算定を可能にしている。

 「自社製品のライフサイクル全体、製品のみならず原料の製造工程や、流通から廃棄、リサイクルまでを企業が完璧に把握することは困難を極めます。そのため、信頼性の高い日本の平均的なデータを基に算定を進められるのは重要なポイントです。われわれは、政府が公開している統計データを活用して各企業の実測に近い原単位データを作成しています。国の中立機関として、正確かつ偏りのない代表性の高いデータを提供できている点は一般的なデータベースとは異なる強みだと考えます」と大塚氏は語る。

豊富な導入実績をベースに広がるAIST-IDEAの真価

 AIST-IDEAは、既に約1000社規模で導入されており、Scope3算定や製品単位のCFP算定、LCAを中心に幅広く活用されている。その利用目的は多岐にわたり、統合報告書やサステナビリティレポートなど、企業の環境情報開示資料作成においても採用されている。「利用者企業のうち約6割は、Scope3算定と製品単位CFP算定/LCAの両方にAIST-IDEAを利用しています。包括的なデータを活用することで、より精緻な環境影響評価が行えます」と竹村氏は語る。

 例えば、ある素材メーカーでは、AIST-IDEAを用いてGHG排出量の素材間比較や自社製品間の比較を行っている。その比較を基に、将来の製品への採用や入れ替えを検討し、製品のCFP削減につなげていくという狙いだという。このように、AIST-IDEAは企業が直面する環境関連の情報把握や規制対応だけでなく、モノづくりなど企業活動の具体的なアクションにつなげていくためのツールとしても注目されている。

 今後もAIST-IDEAは、GHG排出量の算定を支援するだけでなく、さらにその先の環境課題解決を目指して進化を続けていく方針だという。

 「多くの企業では規制対応のために算定を進めてきましたが、これで終わりではありません。次なるステップとしてGHG排出量の削減につなげる取り組みをしていく必要があります。具体的には『このプロセスとプロセス、この材料と材料を組み替えたらどうなるのか』など、設計段階からのGHG排出量の削減やシミュレーションが容易に行えるような仕組みにつなげていくことが必要だと考えています。AIST-IDEAは、そうした用途にも適応できるよう、可能な限りアップデートの速度を高め、最新かつ公正なデータベースを提供することで、取り組みを支援していきます」と大塚氏は考えを述べる。

 その一環としてAIST-IDEAは、2025年中にはAPI連携機能を用意し、リアルタイムで各種システムと連携し、データのやりとりが行えるようにする予定だ。既にAIST-IDEAを組み込んだアプリケーションを提供する算定システム登録事業者は20社を超えた。さらに、ソフトウェアベンダーをはじめとする事業パートナー拡大などを目指していく。

 大塚氏は「いかに少ない工程で環境に優しい材料を生み出すかなど、環境情報を活用することで新たなモノづくりの在り方が提示される、という潮流も生まれてくるように考えています。そして、それが製造業としての競争力につながる可能性もあります。そういった変化を生み出せるようなプラットフォームを提供していくことを目指していきます」と抱負を述べる。

 気候変動による影響が大きくなる中、環境対策は企業にとって避けて通れないものだ。この圧力をプラスのものに変えるためには、他社よりも先んじて環境対策をプロセスに取り入れ、その観点で新たな価値を生み出していくが求められる。AIST-IDEAは、それを進めるための第一歩となる有用なツールとなり得るだろう。

AIST Solutionsの竹村氏(右)と大塚氏(左) AIST Solutionsの竹村氏(右)と大塚氏(左)

※本記事はTechFactoryで掲載された記事の転載版です。



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