製造業の現場を悩ます人手不足や属人化の問題。デジタル化による生産性向上や業務標準化が急務となる中、効果的な手段として今注目されているのが業務用スマートグラスの活用だ。その有効性を多数の事例とともに紹介する。
人手不足が深刻化する日本。労働の中核的担い手となる生産年齢人口(15〜64歳の人口)は1995年の8726万人をピークに減少し、2020年で7509万人、2024年で7377万人にまで落ち込んでいる(※1)。中でも製造業は他業種よりもその傾向が強く、今後ますます深刻化していく。
熟練技術者の高齢化/退職に伴う技能伝承の問題も大きな課題だ。特に、工場や製造現場の設備保全/保守メンテナンスといった業務は、マニュアルにはないカンコツや暗黙知が存在しており、属人化の対策が急務となっている。
残念ながらこれらの課題は簡単に解決できるものではない。そのため、今あるリソースの中で従業員1人当たりの生産性をいかに高めていくかが重要だ。同時に、熟練技術者のナレッジを形式知化/標準化して、次の世代に伝承することにも取り組まなければならない。製造業にとってこれらの対策は待ったなしの状況といえる。
その取り組みの“成功のカギ”を握るのはデジタル化であり、効果的なツールとして今注目を集めているのが業務用スマートグラスの活用だ。
※1:各数値は平成7年/令和2年 国勢調査および総務省統計局 人口推計(令和6年6月確定値)から引用。
スマートグラスとは、ディスプレイや各種センサー、カメラ、通信機能などを備えた眼鏡型ウェアラブルデバイスのことだ。特に近年は産業用途での採用が盛んで、遠隔作業支援やトレーニング用途などで活用が進んでいる。
業務用スマートグラスの要件は、シースルーで映像と周囲の両方を認識できること、ディスプレイが高精細かつ大画面であること、ハンズフリーであること、音声などでのコミュニケーションが可能なこと、作業者目線での映像を撮影できること、軽くて堅牢(けんろう)であることなど多岐にわたる。
例えば、工作機械などの保守メンテナンスを行うケースでは、本部にいる熟練技術者の指示を音声で受け、スマートグラスで図面や指示書などを確認しながら作業を行う。その際、投影されるディスプレイのサイズが小さかったり、解像度が低かったりすると図面の内容を正確に読むことができない。また、現場の作業映像を本部側で確認しながら指示を行う際、カメラの位置と現場作業者の視点とがズレていると正確な情報を伝えられない。これらは単眼タイプのスマートグラスで起こりやすい事象だ。
エプソンの業務用スマートグラス「MOVERIO」であれば、こうした問題に悩まされることはないだろう。主力製品の「BT-45CS」「BT-45C」(※2)は両眼タイプのヘッドセット型スマートグラスで、フルHD(1920×1080ピクセル)、120型相当(※3)の高精細/大画面ディスプレイで図面や指示書などを投影できる。また、グラス中央(眉間部)に800万画素のAFカメラを搭載しており、作業者の目線と同じ映像を撮影可能だ。高品質なマイクとスピーカーにより、スムーズな音声コミュニケーションを実現し、両手フリーの状態で作業が行える。さらに、ヘルメットや防塵(じん)フードの上から装着可能で、IP52準拠の防水/防塵性能とMIL-STD-810H準拠の落下性能を備える、まさに現場仕様の業務用スマートグラスだ。
MOVERIOは基本的に接続されているホスト端末のウェアラブルディスプレイ兼カメラとして機能するため、特別なアプリケーションを導入する必要がなく、手軽に使用できる。例えば、作業者視点の映像をWebミーティングアプリを介して遠隔地にいる担当者のPCに映し出しながら、音声でコミュニケーションするといった利用が可能だ。
※2:BT-45Cはコントローラーが付属しないため、別途PCなどのホスト端末を用意する必要がある。ホスト端末とはUSB Type-C(DisplayPort Alternate Mode)で接続して映像と電源を受ける。
※3:仮想視聴距離5m時。
MOVERIOの導入効果について、代表的な製造業での導入事例を見ていこう。まずは、セイコーエプソンにおけるMOVERIO(BT-45C)を活用した遠隔コミュニケーションの事例を3つ紹介する。
1つ目は、プリントヘッドの生産設備の保守保全業務を担うセイコーエプソン 広丘事業所 IJS設備技術部による事例だ。同社ではプリントヘッドの製造を複数拠点で行っており、各拠点で同一の生産設備が導入されている。IJS設備技術部では、各拠点の製造品質を均一に保つため、保守保全作業の統一/品質の安定化に取り組む必要がある。だが、これまでは各生産拠点に担当者が直接訪問して作業していたため、効率や業務標準化、精度などの面で課題を感じていた。そこで、拠点外から確認する手段としてMOVERIOを導入。作業者にMOVERIOを装着してもらい、その映像を他の拠点で複数人が同時に確認することで作業レベルの差異を抑制し、業務標準化や精度向上につなげている。また、作業時間の短縮や経費削減効果も得られた。
2つ目は、セイコーエプソン 富士見事業所 技術開発本部 分析CAEセンターの事例だ。分析CAEセンターは、同社の試作品や製品、故障品などの検査/分析の依頼を各拠点から受けて実施する部署となる。依頼の中には表面分析や断面観察を必要とするものがあるが、電話やメールでは分析してほしい位置を正確に把握することが難しく、外出対応せざるを得ないケースもある。この問題を解決するためにMOVERIOを導入。分析担当者目線での検査対象の映像を遠隔地にいる依頼者と共有しながらコミュニケーション可能となり、数分以内に正確な位置を確認し、すぐに分析作業に取り掛かれるようになった。
また、分析CAEセンターに導入されている各種分析装置の中には特殊なものも多く、使い方などの説明やアドバイスを装置メーカーから受けることがある。ここでもMOVERIOが活躍する(これが3つ目の事例だ)。以前までは電話とメールでやりとりしており、うまく意思疎通ができずに時間を浪費してしまうことがあった。MOVERIO導入後は分析CAEセンターの担当者目線の映像を共有、確認しながら、素早く的確なアドバイスが受けられるようになり、装置メーカーと円滑なコミュニケーションが図れるようになった。
さらに、セイコーエプソンでは作業者目線の動画マニュアル撮影にMOVERIO(BT-45C)を有効活用している。2つの事例を紹介する。
セイコーエプソン 広丘事業所 IJS設備技術部では、装置の取り扱いや保守保全に関する作業標準書が整備されているが、細かな作業手順などは文章と写真だけでは分かりづらいという課題を抱えていた。また、工場や現場の設備保全/保守メンテナンスは属人化しやすく、業務標準化が急務だった。そこで、MOVERIOを用いて作業者目線での動画を撮影し、それを基に動画マニュアル/作業標準を作成した。MOVERIOの利点を生かした作業者目線で、かつ手元の動きなども分かりやすい映像を作業者単独で作成できるため、メンテナンス作業の習得時間の短縮や理解度向上など、技能伝承/人材育成に役立てられている。
また、セイコーエプソン 富士見事業所 技術開発本部 分析CAEセンターでもMOVERIOを用いて同様の取り組みが行われている。分析CAEセンターが行う検査/分析内容は多岐にわたるため、作業のやり方や装置の使い方などが属人化しやすく、業務標準化が求められていた。また作業そのものも複雑であったり、溶剤などを用いる危険な作業を伴ったりすることもあり、紙の手順書だけでは理解が難しく、化学反応の様子などを言語化して正確に伝えることが困難だった。そこで、MOVERIOを用いて、作業者視点で作業内容を映像として記録するに至った。今では安全、伝承、共有の側面で効果を発揮しているという。
上記で紹介した事例は全てBT-45Cを採用しており、Windows(R) PCをホスト端末として用いている。そのため社内の基幹ネットワークにも接続でき、また一般的なWebミーティングアプリでコミュニケーションできるため、導入障壁が低いこともポイントだ。
他にも多くの産業用途でMOVERIOの活用が広がっている。例えば、自動車業界ではSUBARUが自動車ボディーなどの3次元測定業務の効率化や作業品質向上などを目的にMOVERIOを採用している。さらに、エネルギー業界では西部ガス長崎がガスホルダーなどの設備点検の遠隔支援や作業者目線の動画マニュアル作成にMOVERIOを導入し、技能伝承まで含めた活用を進めている。より詳しい内容、より多くの事例を知りたい場合は「MOVERIO 導入事例」のページをご覧いただきたい。
また、導入を検討する企業向けにMOVERIOを1週間無料で貸し出すサービスも展開中だ。これを機にぜひ活用してほしい。
(注)本媒体上の他者商標の帰属先は、エプソンのホームページをご確認ください。
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提供:エプソン販売株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2025年3月31日